第24話レクリエーションとは

 話せたとしても、たった二人。

 流石に会話内容も、出来るゲームも尽きたようで空間は静かになっていた。

 最初は静寂がキツかったけれど、今は部屋の白さに眼球が針に刺されるレベルの苦痛を感じる。

 月見も限界のようで、両目を指で必死に開けて耐えていた。

 寝ている、という判定が分からない以上、無闇に目を閉じるのは危険だしな。


「「ぐぅーーー」」


 月見と俺のお腹が偶然、一緒に鳴り。

 彼女はお腹を押さえ、恥ずかしそうに笑ってくる。

 よくお腹減った、と言うセリフが続くのを聞くけど、腸の空気が押し出されているだけで空腹具合は関係ない。

 まぁ……空気がどこに行くのか、を考えると空腹って言った方が恥ずかしくない訳だが。


「お腹……減ったね」

「そうだな」


 ベタなセリフに無知を決め込む。

 事実、朝、急いで起きたからお腹が減っているのは本当。

 それに空腹具合から考えて、もう12時は過ぎているはず。

 これだけの大人数、ご飯の受け渡し場所があるなら匂いぐらいは漏れてもいいと思うが、無臭。


「おい、ふざけんなッ!! 昼間飯を寄越せ、飯を!!!」


 それからしばらく経ち、明らかに大多数から空腹の不平不満が現れ。

 金髪の男はドンドンっと出入り口の扉を叩き、返事がないとタックルまでし始めた。


「ねぇ、もしかして」

「ここまで来たら、そういうことなんだろ」


 金髪の男のタックルが『ドン』っとさらに激しくなった直後、スピーカーに電源が入る。


「もぁ、うるふぁいっての。なにをふぉんな騒いでんの」


 何を言っているのか分からない放送。

 ただ一つ、全員が分かったことはご飯を食べているということ。

 俺たちが飢えている中、モニターごしにご飯を食べていたか。

 それはそれは美味しいご飯だろうな。


「ふっざけんなっ! 飯を寄越せってんだよッ!! 給食あるだろ」

「うちの学校は生徒たちの自主性を重んじていてね、朝飯と夕飯以外は各自用意してもらうことになっている」


 スピーカーの向こうから聞こえる声は、どこか誇らしげに答える。


「お弁当の持ち込みも飲食店へ食べに行くことも、許可されているから好きにするといい」


 空腹で張り詰めていた部屋の空気が、一気に和らぐ。

 良かった、暗闇より我慢できるとはいえ、目の痛さが尋常じゃなくなってきたところだ。

 出られるなら、俺も出よう。


「なんだ、それなら最初から言えってんだ!」

 

 金髪の男も上機嫌に口笛を吹き、ドアの前で仁王立ちで待つ。


「お゛ぃッ! 飯を食いに行くから、早よ開けろや」


 けれど、いくら待ってもドアが開かれる様子はなく。

 ドンっとドアを蹴飛ばし、心底イラついたように男は再度、見上げた。


「どうした? 許可しているぞ、その厚さ50センチのドアを蹴破れば食べに行けるぞ」

「あー、理解した、全部理解したぞ……てめぇ、俺を馬鹿にしてる訳だな」

「そうさ、君たちに昼食はさせる予定など毛頭ない。

 大丈夫、医学でも断食ファスティングはダイエット効果や腸内環境を整えると言われている」


 ただただ事務的な声に、男の顔はどんどん怒りで赤くなる。

 それはそうだ、なんだかんだ言っといて、はなっから食べさせる気はないんだからな。

 これなら最初に食べていたのも、わざわざ聞かせるためだろ。

 スピーカーの向こうにいる、くちゃらーは相当に性格が悪いな。


「そもそもとして君たちは外に出て、一体どうするつもりなんだ?」

「貰った小遣いでッ! 食うにッ!! 決まってんだろッ!!!!」


 沸き立つ感情のまま、金髪の男はタックルを再開。

 

「っふ、ふふ、小遣い、小遣いね」

「何がおかしいんだよ」


 くっくく、と堪える声が漏れ、それを聞いた男の顔に青筋が浮かぶ。


「お小遣いはこのレクリエーションが無事終わるまで配布されないぞ」


 どうやっても閉じ込める気。

 そう理解した生徒の中には、目がキマっている人間もいて「もう無理ッ」と壁に頭を打ちつけ始めた。


「おい、あいつみたいに頭がおかしくなった奴もいるんだぞ! 出せよ!!」

「頭可笑しい奴はそんな理性的じゃないさ。

 君たちはまだ昨日の食事を経験してなお、立場が分かっていないようだから説明してあげよう」


 スピーカーから「キィィィィィンッ」とハウリングが轟き。

 俺たちは耳を押さえるしかなく、強制的に静まり返される。


「君たちは揃いも揃ってモテない。

 そのくせ、モテたいと思って入学した馬鹿か、クズ」


 スピーカーの声は力強くなり、今までのような無気力さが消える。


「長年観察して分かったが、モテない価値がない君たちには一つの傾向がある。

 受動的で、怠惰で、傲慢で、いつか自分の事を全肯定してくれる人が現れると思い込み。

 揃いも揃って『モテる者』は『異性から歩み寄ってくる者』と決めつけ、馬鹿の一つ覚えで待ってやがる」


 スピーカーからはさらに、台をトントンっとイラついたように叩く音。

 

「古今東西の人間は自分が動かず、いつも手を差し伸べる王子と姫を求めている。

 モテる人間は動かなくてもモテるのではない。動いたからこそ、モテているんだ」


 Eクラスは恋愛をする、というよりもEから抜け出すRTA方法って感じだな。

 それとも恋愛をする気がある奴を炙り出すふるいか?

 

「——ッ」


 隣にいた月見は、どの言葉が刺さったのか分からないが制服を握りしめている。


「要約したら自分から動いてモテよう、ぐらい中身のない話だぞ」

「っうん……そうだね」


 小声で言うと、ポリポリ頬を掻き「えへへ」と苦笑いを浮かべ返してくる。

 そして急に真顔となり、何を思っているのか知らないけどジッと見つめてきた。


「『ブラックルーム』

 目が痛いほど明るい部屋がなぜそう呼ばれるのか、中の大半が暗闇を求めるからだ。

 ここはな『怠け者Eクラス』と『トラウマを植え付ける学園』のレクリエーション施設なんだよ」


 

 


 


 

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