第26話告白を、手伝って
「おはよう、よく眠れたみたいだな」
寝起きは低血圧なのか、未だ『ぼー』した様子。
まさか、寝相が悪いだけではなく吸う癖までついている人間がいるなんてな。世界は広いや。
「早く出ろ、お腹減ってんだよ」
「おいおいっ、押すなって! 扉がまだ開かないんだって」
結局、真似するような人はおらず、寝た人は月見を除いていなかった。
そのせいで、後半は地獄のように唸る人々で溢れていたけどな。
本当なら交代交代で寝る、そんな事をしたかったんだけど……仕方ないな。
「————っ」
唾液の垂れた自分の唇、俺の胸にようやく血が回ってきたようで、月見の目が見開く。
そして急いてますハンカチ取り出したかと思えば、肺を押し潰されるぐらいゴシゴシと擦ってくる。
「ごめっ、私ッ、昔から熟睡すると吸っちゃうみたいでっ。その、変なところも行ってないよね?! もう行ってるけどッ!!!」
「安心しな……顔は死守してあげた。他の人も寝ているだけだと思ったのか、注目してなかったし」
申し訳なく擦り続け、胸が痛くなってきたのでハンカチを受け取り、自分で拭く。
幸いなことに、彼女の恋路を邪魔することにはならないだろう。
こんな俺の身体なんて、今更吸われたからってどうも思わないしな。
「そ、その……虫が良いなのは分かっているんだけど……訴えないで、ほしい」
時代が時代なだけにセクハラが怖いのか、ドギマギしながら頭を下げて頼み込み。
その間に生徒たちは、入り口で我先に出たいと押し合ってた。
「さてさて計8時間レクリエーションの結果ですが、なんと最後まで耐え抜いた人が21名。
退学0名という素晴らしい結果に終わりました。
名誉ある21名の部屋へ、後ほど空気缶をお届けいたします」
スピーカーの声が聞こえると共に、ドアが開放されて人々が流れ出る。
その後をついて行こうとした、不満げな金髪の男が言葉に反応して止まる。
「はぁっ……退学0? 何言ってんだ、あいつ寝てただろ」
そして月見を指差し、委員長のように不平不満を正義という建前で攻撃した。
あいつ、会話までしてたってのにわざわざ月見を槍玉にするのか。血も涙もねぇ。
「寝てた? 残念ながらAIが記録した情報によると、彼女は君よりもまばたきが少ないぐらい
「そりゃ寝てたんだからなっ! まばたきは少ないだろ」
この言い方だと意図して残した穴って感じか。
月見はというと、まるでカンニングをした生徒のように不安げだな。
「このAIは1人の状態を学習させていると言ったな。
2人でくっつかれるようなイレギュラー、うつ伏せなんてされたら判断はつかない」
「なおせ、そんなもん!」
「直す……? まだ分からないのか」
呆れたような声色に男の顔がピクリと動く、いやに突っかかるな。
もう他の人たちは空腹でほとんど出ていったってのに。
よっぽど我慢している中で寝ていた月見のが気に入らなくて、退学になる顔が楽しみだったか?
「学園の立場としても、異性と積極的な身体接触を測ることは推奨している。
そもそもとして、これは学園が意図して作った穴だ」
どうやらあくまで学園はこちらの味方みたいだ。これなら2人とも寝ていても行けたか?
顔をどっちも隠すとなると……69みたいな格好になるか? ダメだな。
「それにしても素晴らしい。
学園のスタンスを理解していない、最初のレクリエーションでは頭で分かっていても実行する生徒は少ない。
レディーファーストたる紳士という訳か?」
レディーファースト、元々は危険がないか価値のない女性で確かめる動作だったか。
月見を先に寝かせたことを実験した、そう遠回しに言われている感じがする。
「っけ、こんなもん誰でも思いつくだろうが」
「コロンブスの卵だな」
「卵だがなんだが、知らねぇけど頭良いやつってのは会話レベルを合わせられるんだぜ」
捨て台詞を吐き、もういいっ!
とばかりにドアを蹴り飛ばし、上着を肩に乗せて金髪の男は出ていく。
スピーカーはというと、もう切れているようだ。はぁ…………寝ただけってのに疲れたな。
暗いのも、明るいのも嫌になりそうだ。
そういえば一日中食べていない、晩ご飯は保障されているらしいし、何を食べに行こうかな。
「あの……一つお願いがあるの、聞いてくれる?」
目元を擦り、自分のロッカーから持ち物を返してもらう。
そうしていると月見が重大そうな雰囲気を醸し出しながら、話しかけてきた。
ずる賢いな、内容を伏せて先にお願いを聞くかどうか、なんて。
「腹の探り合いとかは嫌いなんだ、内容を先に言えないなら——」
意図を見透かされたようで言い淀んだ月見。
ダメか、それならロクな事じゃないとスマホをポケットに入れ、俺は立ち去る。
「私の、私がモテる……告白できる為に手伝ってッ!!!」
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