第11話うめ、うめ、うめ

 小学校、中学校ではモテる奴もモテない奴も闇鍋の如くクラス分けされていた。

 それが1.0以下を集めたら、クラスはどうなるのか、


「はいっ、あぁーん」

「あ、あーん」

「おいしっ?」

「OC〜」


 答えはそう。

 本当にモテない奴と、モテた後のカップルだらけになる。

 

 見せつけるように食べさせ合うカップルたち、黙々とパイナップルを手で支えて頬張るモテない生徒。

 しかし、不思議だ。

 俺たちは新入生、入学式でも童貞・処女と言われたようにカップルなんて人間は入学しているはずがない。

 だとするなら、学園が雇ったカップル? いや、同じ制服を身につけているし本物の先輩って可能性が高いか。

 俺は今、本物って言ったか?

 くっそ、先輩に本物もクソもあるかよ。変なやつに会ったせいで頭がおかしくなってる。


「それにあのモニターは、性格が悪いな」

 

 次に目をつけたのは縦長なテーブルが並んだ会場の中央、太い柱に巨大なガラスが取り付けられ、その上に設置された複数のモニター。

 そこにはD、C、B、Aと他のランクの生徒たちが映っていて。

 異性と1対1で隣り合い、会話をしたり、楽しそうに会話する姿が映っている。


「ほぉ、あいつは」


 そしてDクラスの画面に見覚えがある茶髪の苺谷が、隣席の男子生徒へ手を叩いて笑顔を向けている姿が映っていた。

 相変わらず、他人から好かれようと頑張っているな。


「グ、グゥぅぅぅ」


 ギュルギュルと鳴る腹に、とりあえず食べないと始まらない。

 そう思う、そう思うが……先ほど見たように昼飯がパイナップルだけだと思うと食欲が失せる。


「ん……?」


 ふと、もう一度パイナップルに目を向け。

 俺は、食べている人のほっぺに米粒がくっついていることに気づく。

 どういうことだ、そう思って学生たちがご飯を受け取っているカウンターへ近づく。

 

「はいはい、持って行って自分の学籍番号のところに座りな、分からなかったらアプリ起動すれば席も表示されっから」


 質問しようと近づく俺。

 しかし、コックの一人は人が来ると流れ作業で、トレイにパイナップルを乗せて押し付けて来た。

 貰いたかったわけじゃない、そう言おうとしたところ、香ばしい油とパイナップル特有の酸味が香る。


「油……?」


 パイナップルから油の匂いがしたか?

 視界をゆっくりと下げ、トレイの上に置かれた物体を見る。

 確かにパイナップルはパイナップル。

 だが、トゲトゲは処理され、果実部分はくり抜かれており、あくまで器代わり。

 中身にはパイナップル入りチャーハン、そんな物が盛り付けられていた。


「これは……なんでチャーハンをパイナップルに? そのまま出した方が美味しいんじゃ」

「タイ料理のข้าวカオอบオップสับปะรดサパロット、まぁ……いうならパイナップルチャーハン。話題作りさ、あんたもDクラスだったら女子と会話する話題になったのにな」


 両手をつき、カウンター越しに無性髭を生やした気だるそうなコックが俺を見下ろす。

 まるで品定めするよう、下から上を見て、もう一度上から下をみる。

 そしてため息を吐いたかと思えば「お前もモテそうにねぇな」と厨房へ戻っていった。


「ッなっ」

 

 なんて失礼なオッさんだ。

 でも変に反論したらご飯が貰えないかもしれないし、ここは適当に会釈ぐらいで勘弁してやる。


「っあ、こんにちわ〜。ここの席の人?」

「うっす」

「よろしくね、今日はどこから来たの?」


 自分の席に座り、いざチャーハンをスプーンに乗せ。

 食べ始めようとすると、正面へ座っていたカップルの内、男子生徒が話しかけてくる。

 俺は今、ご飯を口に運ぼうとしているんだ。

 見て分からないんだろうか、それとも食べさせないための嫌がらせか?


「良かったら、俺たちの馴れ初めとか教えてあげようか? 勉強になることもあるだろうし」

 

 どっちだって良い。

 飯を口に運び入れるタイミングで話しかけるような気を使わない奴には、俺だって気を使わない。

 話しかけてくる彼を無視し、パイナップチャーハンを口へと運び入れる。


「ッうめ」


 コロコロなエビに、細かく切ってある玉ねぎ、にんじん、にんにく……っえ、カシューナッツ? なんで。

 ご飯を炒めた炒飯特有の油っぽさはパイナップルの器から来る香りで、柔らいでいる気もする。

 そして肝心のチャーハンの上に乗せられたパイナップルの実だが、


「これは………単体で食べた方が美味しい気がする」


 新鮮なパイナップル、器にする時に切り出した果実を後のせした感じか。

 パイナップルピザ好きなイラストレーター兼ストリーマーが好きそうな味だ。


「そのー、あのさ、聞いてる?」

「美味しそうに食べているし、止めなって」

 

 苦笑いしながらまだ話しかけようとする彼氏を、表面上は優しく咎めていた彼女。


「そうだな、こんな付き合いの悪い奴、金をもらっても俺は教えてやら——」

 

 だが、男が何やら悪どい顔をするとテーブルの下から「バンっ!」と太ももを叩きつける音がした。

 教えてやら? 何を言おうとしたのか分からないが、彼氏が彼女に向かって「ごめん」と謝った。

 ジィーと目の前のカップルを見つめたまま「うめ、うめ、うめ」とパイナップルチャーハンを頬張り続ける。

 彼氏の反応的に俺が知らないと困ること、悔しさを覚えるもの……そしてお金が必要だということ。


「おかわりもいいぞ」


 先ほどのコックが大声で叫び、無言で顔を上げる。

 おかわり……おかわりも許されているのか?

 気がつけば空になったパイナップルの器を持ち、俺はカウンターの前まで来ていた。

 ま、あいにくと俺はお金ないし、どうしょうもないな。


「隣の君はどこから来たの?」

「僕はその……栃木です」


 食事の邪魔は出来ないと判断したのか、正面のカップルは話しかけるターゲット変えていて。

 俺の席から見て10時の方向、左前へ座っている男子生徒は俺の視線から逃げるように会話へ飛び込む。

 無視して食べているだけなのに、嫌われたもんだな。

 それにしても、この先もずっとカップルに囲まれて食事させられるとしたら……苦痛だしEクラスじゃ出会いもクソもないな。

 入学式……ランクの決め方も説明されてたっけ、Dクラスは1.0倍率以上だったかな。

 最低限の青春を求めるなら、誰か一人でも俺の好きな人を調べさせ、外して貰わなきゃ不味い訳だ。


「遠慮するな、今までの分もしっかり食え」


 試しとばかりに空の皿を差し出した俺へ、コックは優しい言葉をかけ。

 暖かくなっていく心に、不思議と目から自然と涙が溢れそうになる。


「で、本当におかわり貰えるんですか? 貰えるなら要らないんですけど」

「あぁ? 美味しそうに食うから優しくしてやったってのに、じゃなんで来たんだよ。てめぇッ! 帰れ」


 スンッと真顔になった俺に、心底イラついた様子のコックは帰れっとばかりに追っ払ってくる。


「美味しかったですよ、ごちそうさまでした」

「当然だろ、旨みにこだわる俺の料理だぞ」


 ひらひらと手を振る背中を眺め、そばにあった返却口へ食器を返す。

 後35分もある、どうしようかな。

 このまま戻った所で、カップルから惚気話しを聞かせられ、気持ち良くさせられるだけだし。


「——嘘っ! どこ行くの、私はッ?! 私を調べてくれる約束じゃないのッ!?」

 

 返却口の横で立ちすくんでいたところ、トイレの方から何やら叫ぶ声が聞こえた。


「なんだ?」


 覗いてみると見覚えのあるボサボサ頭の女子生徒が男の足を掴み。

 まるでモップのように引きずられていた。

 それもトイレ前の汚い廊下で。

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