第10話食事会場
『目的地付近へ到着しましたので、音声案内を終了します』
「ここでもやっぱり入学式は話が長いんだなぁ……お腹ペコペコだ」
花びらが落ちているエレベーターの中で、Googleナビを止める。
パレードをしながらドローンで文字を出しながら学校説明されても、覚えられないものは覚えられねぇな。
唯一、覚えていることと言えば、お小遣いが明日から毎月貰えること、この学園専用のアプリ説明ぐらいか?
アプリもスケジュールやら学園マップ、その他諸々便利な機能がついているぐらいのうる覚えだけど。
「いらっしゃいませ、当学園のアプリに表示されている現在の階級をご提示願えますでしょうか?」
エレベーターが開くや否、すぐにスタッフがドアを押さえて丁寧な案内をし、
「はい、Eランクですね。このワッペンを胸につけ、突き当たりを左へ曲がると本日の昼食会場でございます。
どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」
スマホの画面を見せると、Eと書かれたワッペンを渡され、廊下の奥を指し示される。
俺は今、正午を回ったことでそれぞれの学園アプリに表示された昼食へ向かっている。
「ビルの最上階にある、見晴らしの良い高級レストランっかぁ……すっげぇな」
内装は漆でも塗っているような淡い煌めきを放つ黒い壁。
床は水で濡れたら滑りやすそうなテカテカな大理石、ライトも天井の凹んだところから光が漏れ出る名前分からない奴。
ほのかに聞こえる『眼鏡掛ければ頭良いでしょ』レベルな落ち着きあるジャズ。
このよく分からない感じ……高級だ。
「そもそもエレベーターで何十階と上がった時点で、初体験なんだけど」
牛丼屋とか、ハンバーガーチェーンとかの可能性を考えていたから凄く緊張してきた。
道端に落ちてたボロボロなEランクの壁を見て、マイナス思考に陥りすぎたな。
横を見てみると少し力を入れただけで、外れそうなほど大きい窓。
そこからカラフルな街並みが見下ろせ、豆粒ほどの人々があちこち動いているのが見える。
1番モテない人間たちが分類されるEランクでこの待遇、ここからD、C、B、A、Sと5段階もグレードアップする想像なんて浮かばないな。
昼食の予定時間は1時間。
学園都市にある高級料理店へそれぞれ人数分散させて楽しく、ランク関係無くモテる奴らと会話しながら食事を楽しむ。
そんな感じのプログラムなんだろうか?
「うぉぉぉぉっ、ここって美味しいで有名だったよねっ?! こういう高級料理店初めてで楽しみだ」
「俺も俺も、せっかくならいっぱい食おうぜ」
首に両手を組んだ男子生徒二人が通り過ぎ、一段と男女混じった黄色い声が大きくなったかと思えば、バタンっと静かになる。
「はい、会場はこちらになりますよ」
追いかけて角を曲がり、覗いてみると華やかな扉があり、立っている男性のスタッフが微笑を浮かべていた。
あー…………買い物とか、静かにしたい派の俺にとって焼けるような眩しさだ。
素材とか、産地とか言われながら食べさせられるんだろうか。
「こ、こんにちは」
「えぇ、こんにちわ、ゆっくりでいいですよ」
そんな顔に出ていて、分かりやすかったんだろうか。
どんな料理とサービスが提供されるんだろうか? 想像するだけで楽しみだけど……、
「あの、マナーとかシステムがよく分からないんだけど、大丈夫ですか?」
「えぇ、皆さん学生ですし、それを気にするような人もいないと思いますよ」
そう言われ、肩の荷がスッと降りて楽になる。
「すぅ、はぁ」と深呼吸し、覚悟を決めた俺はドアの前へと近づく。
そしてドアが開かれ、眩しい光と一緒に飛び込んできた光景に、俺は思わず笑ってしまった。
立派な凸凹したパイナップルの実が縦に切られたまんま皿へ乗せられ。
それをイチャイチャしながら、スプーンで交互に食べさせ合う学生カップルたち。
「趣味はなんなの?」
「っあ、まぁ……ゲームっすかね」
「へぇー、私たちもmiHoYoとか好きだよ。今度3人で一緒にする?」
その合間合間を孤独な生徒が座り。
その中には先ほどすれ違った男子生徒二人も、バラバラでカップルの合間に座っていた。
「えぇ、はいっ…………じゃ遊びますか」
その背中は老人ぐらいに曲がっていて、取り繕ってしょぼくれた笑顔は同一人物とは思えないほどだった。
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