11掃除

 手を天井に翳(かざ)す。空中できらきらと埃が舞っている。

「んん。何をしておる。」

「きらきらしていて綺麗だなと。」

「お〜?汚いとでも言いたいんか?」

 鬼さんの眉が八の字になる。

「いえ、そういった意味……そうです。」

「おぉ。言うようになったな。」

 斜め上の顔の鬼さんが言う。

 ――――――――――――――――

 鬼さんが腕を捲(まく)る。

「よぉし。やるぞ〜。」

 水をたっぷりと含んだ雑巾で床を拭いていく。

 だっだっだ。

 ぱたぱた。

 鬼さんが一瞬くしゃっとなる。

「っくし。」

「大丈夫ですか。」

「あ゙〜。大丈夫。」

 …………

「こんなもんかな。」

 鬼さんが腰に手を当てて言う。

「え。まだあるじゃ無いですか。」

「どこかなぁ?」

 鬼さんがあからさまに目を逸らす。

「仕事してるとこですよ。」

「待ったー!!」

 行こうとしている道大の字になって防ぐ。

「何してるんですか。あそこが一番汚いんですから。」

「んあ〜。許して〜。あそこだけは我の宝じゃ〜。」

 鬼さんはぎゅっと目を瞑ったまま、こっちを向かない。

「仕方無いですね。あそこはいじらないですよ。」

「ほんまぁ〜?!ありがとうなぁ〜!」

 呆れた鬼さんだ。

 ――――――――――――――――――

「!!これ美味しいです。」

「やろやろ。水羊羹って言うんやよ。」

「へぇ……!」

 子供が皿を目線に上げて見ている。

「買って良かったなぁ〜。」

 うんうんと鬼が頷いた。

 ……………………………………

「水羊羹一つ。」

 市場で良い土産を見つけた。

「あいよ。おやぁ、お客さん見たことない顔だねぇ。」

 長い舌をぺろりとしながら言う。市場で買い物をしているところだ。

「ん。そうかい。」

鬼は扇子で顔半分を隠しながら言う。

「あんたぁ、子供を飼っているねぇ。美味い匂いだ。」

 また引っこ抜きたい舌をぺろっとする。

「そうかい。早く水羊羹をくれないかい。」

「んー。気がちぃ〜と変わっちまった。お前さんを食べる事にするよ。」

 舌のやつが鬼を覆い被さるようにでかくなる。

「困るなぁ。」

 たはは。と笑う鬼。

――ガタッ

「!?!?」

 一瞬花の香りがした。と脳が認知する間に不幸な目に合った過去が、舌野郎に蘇る。ほんの一瞬。

「水羊羹、あんがとさん。」

 扇子からちらっと見える穏やかな目に、恐怖を覚える。

 ―――――――――――――――――――


「ほんま美味しいなぁ。これ。蜜みたいや。」

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