5客

「毎度〜。」

 錆びた銭を貰う。またぎこちない顔で笑う。外へ出たカーテンのように付属した手を振る。客が遠のく。

「ぎこちな。」

「気持ち悪。」

 手が止まる。聞こえないとでも思ってるのか。

「聞こえとるよ。」

 ぼそっと鬼が言う。もう直ぐ読み終える小説に手を伸ばす。太陽の光が飴細工のような睫の隙間を通って行く。影が小説を隠す。

「んあ?お客さッ」

 ゴッ

 頭が重い重力に襲われる。

「ッカ……ゴホッ……ゴホッ」

頭がぼーっとする。液体が流れてく。他の身体のどっかにも液体が流れていく。

「誰や…誰がこんな…」

上を向けない。頭が鉛のようだ。強制的に下を向かれる。

「あかん。小説が汚れ……」

 バタッ。頬に机が密着する。

「うぅ、脳に酸素が……足りん……」

 息が荒い。命を保つ事ができない。まだやりきれてないことが沢山ある。まだ咲いてへん花もあるし、人魚の鱗で烟草も作らな。毛むくじゃらもきっとこの店が無くなると困る。

 

 ――――それにあの「子供」は?――――



「俺……死ぬんかな……」



――――――――――――――――――――

見慣れた天井。

 「おわ、ここ俺ん家やん。」

 横を向くと同時に、冷水で濡れた布が頭に乗っていることに気が付いた。手を天井に仰いだ。

「生きとったんやな。」

 腕には包帯が巻いてあった。

「!!」

「待って、待ってぇ!誰がしたんこれぇ!俺が寝ぼけてしたん?!そんな訳ないやろー!」

身体が自然に起き上がっていた。と同時に、襖が開いた。

「起きられたんですね。」

「あの時……あった子供?」

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