甘くねぇんだな

オーセンにもバレンタインのシーズンがやってきた。

女の子同士だから本命チョコは送らないかと思いきや、モテる系の女子は普通にもらえるらしい。


私は友チョコを同じクラスのカオルとまこっちゃんの2人と交換した。

こちらが差し出したのは駄菓子の一口ひとくちチョコだ。

しかたねぇだろ⁉ どんなチョコ用意すりゃいいかわかんなかったんだからよォ!!


にしてもチョコ交換なんて初めてだよ!! なんだかんだで感激しちゃうね!!


どうやらカオルはいくつか本命チョコをもらっているようだった。

まぁ、サバサバしてて男の子っぽいからな。憧れられるのはわかるわ。

まこっちゃんは私と似たような感じだ。まぁこんなもんだよな。


だが、私にはRevi部がある。グヘヘ。チョコの数、更新だぜ!!

ホントは男子にあげるためのイベントなのをガン無視しつつ、私はチョコ集めに躍起やっきになっていた。

もはやチョコ乞食こじき以外の何物でもない。


部室に入ると段ボール3箱分のチョコが積まれていた。


「まいったな。くれるのはありがたいんだが、1人で食べ切る事はできんし、カロリーが高すぎるぞ……」


ハイ来たー! なぎさ先輩モテる女全開〜〜〜‼

それにしたって数が多すぎる‼ チョコの扱いに困るとかゼイタクな悩みだなぁ‼

ジェラシーを感じるような、そうでもないような。

いや、次元が違う。やっぱなぎさ先輩にはかなわねーな。


次に多いのはあや先輩だ。

こちらも段ボール1箱分のチョコを貰もらっていた。


「も〜〜。みんな子供あつかいして〜‼ んも〜‼『あやちゃんチョコ好きでしょ?』じゃないよぉ‼ くれるならなぎさちんみたいに本命にしてくれないかな⁉」


アイドルと言うよりはマスコット的なアレだな。

そりゃあや先輩がブチ切れるのもしょうがない。

次いで櫻子さくらこ先輩だ。


ジャラジャラとチョコを机の上に広げていた。10個はある!!

ただ、本命っぽいのは混じっていなかった。まぁ……まぁね。


「あらあら〜〜。お返しはどうしましょうか〜〜。ハーブ入りの特製チョコなんかどうかしら?」


いや、ハーブはまずいって多分!!


つばさ先輩はそれと同じくらいチョコをもらっていた。

ちらほら本命っぽいのが混ざっている。

翼先輩もカオルと同じくサバサバしているからな。

それに、どちらかと言えばボーイッシュなタイプなので女子ウケがいいのだろう。


「う〜ん、まいったなぁ。どう返せばいいのかわかんないよ。あたし、ったチョコとか作れないからさぁ」


この点に関しては同意せざるを得ない。


「おい知里ちり、なんとかしてくれないか」


知里子ちりこ先輩は3つのチョコを抱えていた。


もらえた数少ない奴〜〜!! って、私のほうが少ないじゃん!! ワースト!!ワースト!!

すると知里子ちりこ先輩が別のチョコを取り出した。

おっ、きましたきました。Revi部のチョコ交換タイムだ!!


「みんな、はい。どうぞ」


とても手の込んだチョコだ!! メッセージまでデコレーションしてある!!

すぐに部員たちはそれに群がった。

なぜか翼先輩が得意げに言った。


「どぉだ。知里ちりはなにげに料理が得意なんだぜ。お菓子類もバッチリだ!! じゃ、そういうわけで、あたしの分は任せた!!」


そう言いながらつばさ先輩は部員に板チョコを投げた。

うっわ、私、つばさ先輩と同レベルじゃね⁉

なんというかそれは心外というか、でも自業自得というか……。


「は〜い。私もチョコを作ってきましたぁ〜」


それを聞いて皆が戦慄せんりつした。


「残念なんですが、今回は隠し味が切れてしまいまして。"チョコ"しか"入ってませ〜ん。ウフフ……」


大丈夫なのか……本当に大丈夫なのか⁉

彩先輩が毒見どくみ役を買って出た。


「むしゃむしゃ……。うん!! 大丈夫だよ!! すごく美味しいよ!!」


みんなが恐る恐る口にすると普通に美味いチョコだった。

櫻子さくらこ先輩すまねェすまねェッ……。

今度はあや先輩が無い胸を張った。


「じゃ〜ん!! ちょ〜こ〜ば〜な〜な〜!!」


う〜んにじみ出るお子様臭こさましゅう!!

しっかりしてるんだけど、こういうところはゆるゆるなんだよなぁ。

まぁ、そこが魅力でもあるんだが……。


私に視線が集まる。あ〜、出したくね〜〜。

思わずモジモジしてしまった。こんな一口ひとくちチョコ、誰も喜ばねぇだろう。

と思えたが、手渡すと皆が笑顔を浮かべていた。


なんて優しい連中だよ本当に!!

感動で思わず塩水がでかかったが、なんとかはぐらかした。

最後はなぎさ先輩だが、なんだか気まずそうだ。


「あの……その、だな。手作りに挑戦したんだが……。私はこういうの、苦手でな。固まらなかったんだ……」


先輩の取り出したタッパーの中のチョコレートはドロリとしていた。

さすがにこれには一同が黙り込んだけど、すぐに知里子ちりこ先輩がフォローに入った。


「ちょうどよかった。ついでにクッキーも焼いてきたの。みんなでチョコにつけて食べましょ」


あや先輩がそれに乗っかる。


「フォンデュだね!! フォ・ン・デュ!! フォ・ン・デュ!!」


そしてみんなでクッキーをフォンデュした。

なぎさ先輩は苦笑いしていたが、とても嬉しそうだった。

あぁ、こんなに楽しいバレンタインは生まれて初めてだよ!!


翌日から1週間、あや先輩となぎさ先輩が多忙で部活を休むことになった。

あや先輩は生徒会で、なぎさ先輩は大学の合宿に参させてもらったらしい。


教室には私と、つばさ先輩と、知里子ちりこ先輩、櫻子さくらこ先輩、そして大量のチョコが残った。


「まぁ、ほっといても悪くなっちゃうし、あたしたちだけで食うか!!」


それからはもう部室に来ればチョコを食べる日々が始まった。

あや先輩となぎさ先輩宛てのチョコはべらぼうに多く、段ボール箱4箱はあった。

もったいない精神で私達4人はひたすらひたすら食べ続けた。


そして、あや先輩となぎさ先輩が部室に帰ってきた。


「なぎさちん、合宿どうだった?」


「ええ。いい経験になりました。刺激も受けましたし……」


先輩たちがドアを開けて驚いたような顔をしている。


あれ、なんかおかしいか?


「み、みんな……」


「ふ、太り過ぎだ!!」


そう、私達4人はチョコの食べ過ぎで超肥満体型ちょうひまんたいけいへと変貌へんぼうしていたのだ!!


「うー、おかえりなざぁいせんぱぁい……」


「ううっぷ。ギターがさ、お腹の肉にはさまっちゃってさ……」


「ちょ、チョコレート依存症いぞんしょう……」


「あらぁ〜〜。最近、ごはんがおいしいですぅ〜〜」


普通に運動して痩せるには体重が重くなりすぎてしまった。


「そういうことなら水泳だ!!」


すぐに温水プールでなぎさ先輩によるスパルタダイエットが始まった。

みんな禁断症状でチョコチョコ言いながらもひたすら泳がされた。

完璧なダイエットメニューだけあって、3月になるころには私以外はみんな元の体型に戻っていた。


なぎさ先輩はやたら満足げだ。


「よぉし、良く頑張ったな!! つばさ知里ちり櫻子さくらこはいい感じに仕上がってきた!! どうだ? 私と水泳部、やらないか?」


3人は顔を青ざめて首を左右に振った。

スパルタすぎんだよなぁ……。


「ほら、あい!! ボサッとするんじゃない!! そんなんじゃいつまで経っても痩せないぞ!!」


いや待って、私がカナヅチなの忘れてるでしょ⁉


ゴボ……ゴボゴボゴボ………。


こうして私もなんとか元の体型にもどった。

バレンタインってそんな甘くねぇんだな。

これがビターってやつなんだろな……。

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