サンタさんバナナ風味

もうすぐクリスマス。

世間はうわついてきやがって、いんの者にとっては憂鬱ゆううつでしか無いイベントなんだよなぁ。

でもさ、よくよく考えたら既にぼっちじゃなかったんだわ。


Revi部の部室に入ると真っ先に彩先輩あやせんぱいが声をかけてきた。


「は〜い!! 愛ちん!! 今年もReviリヴァイ部でクリスマス会をやるんだ!! 24日、空いてる? みんな参加できるよ!!」


いや〜、クリスマス会とか実在したんだなぁ!!

これでもうクリぼっちとは言わせないゾ☆

そうか。私にも帰れる場所があったってわけだ。

おまけに都合よく5人が揃っている。こりゃ私が加わらねぇわけにはいかねぇな。


「はい!! 私も参加させてください!!」


「あ〜、じゃ、交換用のプレゼントを持ってきてね!! くじびきで誰が受け取るか決めるから、誰が受けとるかはわからないよ!!」


げッ……プレゼント⁉

どうしよ。そんなん何を買ったら良いかさっぱりわかんねぇ!!

いかに私がパーリィ慣れしてないかって話だ。


私は悩みに悩んでプレゼントを選んだ。


そしてRevi部のクリスマス会がやってきた。


彩先輩あやせんぱいが部室の利用届け。


私となぎさ先輩はケーキやお菓子の買い出し。


つばさ先輩と知里子ちりこ先輩はクリスマスツリーのセット。


櫻子さくらこ先輩はお茶会のセッティング。


とても明るい雰囲気でクリスマス会は始まった。


「ほら。ショートケーキ買ってきたぞ」


なぎさ先輩が買ったのはホールのショートケーキだ。

う〜ん、こんな豪華でいいのか?

つばさ先輩はニカッと歯を見せて笑った。


「ま、普段は部費なんて使わないんだからバチは当たらないだろ。それよりなぎさ、またショートケーキか。去年のビターチョコが気に食わなかったか?」


図星ずぼしのようでなぎさ先輩は頬ほほを赤く染めた。

うおえスッ!!(死語)

今度は知里子ちりこ先輩が翼先輩を肘ひじでつついた。


「そういうつばさちゃんはチーズケーキ苦手じゃないの。みんな知ってるんだから」


他愛のないことで笑いあえる。

言葉にするのは恥ずかしいんだけど、いい仲間達を持ったなと思えた。

あっという間に楽しい時間は過ぎ、プレゼント交換の時が来た。


「じゃあ、第1クリスマスプレゼント交換会をはじめま〜す!!」


第1? 私が疑問を口に出そうとするとなぎさ先輩に口を塞がれた。


もごぉっ!! むぐぅ!! 


先輩はそのままささやきかけてきた。


櫻子さくらこは未だにサンタさんを本気で信じてるんだ。だから本命のプレゼントはこれとは別。だからこれは"第1"なんだ。いいな、口に出すなよ)


うんむASMR……。

身体がとろ~んとしたが、内容は頭に入ってきた。

ははぁん。コレみんなの暗黙あんもくの了解なんだな。

くじびきで引いた順に、自分のプレゼント以外の箱を手に取る。


そして全員が受け取ったら順に中身を開けていくルールだ。

みんなが箱を手に取った。つばさ先輩、私


知里子ちりこ先輩、なぎさ先輩、櫻子さくらこ先輩、あや先輩の順だ。


なんだかイヤな予感がしてきたぞ!!


「じゃっ、開けるかんな〜〜」


つばさ先輩は荒っぽくラッピングを破った。

そこには見覚えのあるクッキーが入っていた。


「いや、待て……。これは……愛っちのだな⁉」


ハイ、読まれた〜!!


「この没個性ぼつこせいかつ無難な感じ。でも、アタシ、クッキー大好きだからな!! ありがたく頂くぜ!!」


没個性ぼつこせいとは手厳しい!! でも、喜んでくれたみたいでホッとした。

次は私だ。誰の、何が入っているのだろうか。

開けてみると、そこには可愛らしい手編みのマフラーが入っていた。


思わずコレには息をんだね。まわりの皆もそんな感じだ。

にして誰だ、誰だ? こんな精魂せいこん込めたプレゼント作るヤツぁ⁉

するとあや先輩がはにかみながら手を上げた。


「ちょ、ちょっとさ、気合い入れすぎちゃってさ……。良ければ使ってもらえると……ありがたいかなって」


「いえいえ、とても嬉しいです。大事に使わせていただきます。ハイ!!」


思わずそう即答してしまった。すぐに部員たちは拍手はくしゅを送った。

なんで初々しいカップルみたいになってんだよ。


今度は知里子ちりこ先輩だ。

袋を開けるとそこにはオレンジのピックのついたペンダントが入っていた。

知里子ちりこ先輩は手にとって眺めてる。


「この個性的なアクセサリーは……つばさだね」


あれれこれはミスマッチ……と思ったらそんなこともなかった。


知里ちりは飾り気がないからな。たまにはアクセでもつけてみなよ」


もらったほうの先輩は苦笑いしながらそのペンダントを身に着けた。


「どう? 似合う? ありがたく受け取っておくよ」


ほ〜、似合うじゃんか。次はなぎさ先輩か。

先輩は丁寧に包装ほうそうをはがして中身を開けた。


おーッ⁉ 何だこれは!! ビンの中には緑の玉!! もしかしてこれは――


知里子ちりこ先輩はメガネをクイッとあげた。


「"まりも"だ。北海道の阿寒湖あかんこで買ったんだよ。残念ながらそれは養殖物ようしょくものだが、ちゃんと生きてはいるんだ。植物だけどね」


あーッとぉ!! これは間違いなく地雷チョイス!!


そう思えたんだが……。


「ありがとう知里ちり。私はまりもについては詳しくないが、可愛らしいじゃないか。飾って"育てる"ことにするぞ」


まりもって育てるのか⁉ どうなの知里子ちりこ先生!!


「次はあたしね〜〜」


あや先輩が箱を開けるとそこにはゴージャスそうなティーカップが入っていた。


「うわっちゃぁ〜。これ櫻子さくらこちんのやつでしょ。いいのこんなに高そうなやつで」


櫻子さくらこ先輩はニコニコ笑っている。


「ウフフ……皆さんには本当にお世話になっていますから。本当は全員にお送りしたかったのですが、プレゼントは1つまでとあやさんに言われましたので……」


うらやましいような気もするけど、あまりにも高級そうで使い所に悩みそうだなぁ。


最後は櫻子さくらこ先輩だ。

残りの送り主はなぎさ先輩ということになる。

イヤな予感がするぞ!!


箱から出てきたのはかなり太いボトルだった。


"プロテイン ホウレンソウ風味"


あちゃ〜。本命来ちゃったよ!! 今度こそみ合わないッ!!

だが、櫻子さくらこ先輩は意外な反応をした。


「わぁ!! 美味しそうですね。私、ホウレンのクサ、大好きなんですよぉ」


なんか怪しげな呼び方。だがなぎさ先輩はごきげんだ!!


「はは。それは良かった。甘い風味に飽きたときに最適のフレーバーだ!! 味わってくれ!!」


確かにまりもや、ペンダント、プロテインが来たら面食らうだろう。

でも、みんなのくれるものならどんなものでもありがたい。

お互いにそう思ってるからガッカリしたりしないんだ。


私はしゃに構えていた自分を恥ずかしく思った。


櫻子先輩が家に帰ったあとのこと……。


「フ フフ〜。みんなとのクリスマス会、素敵でしたわ〜〜。さて、サンタさんが来る前に休みましょうか」


そうして先輩は眠りについた……らしい。


サンタさん「荷物を置いたままとは行儀が悪いが、好みを知るには都合が良い。……これが部活の皆が選んだ品か。さぞかし櫻子さくらこが喜ぶ物なのだろうな。こっ……これは!! こうしてはいられない!! プレゼントを買い直さねば!!」


次の日の朝、櫻子さくらこ先輩の用意した靴下の中にはお願いしたプレゼントは無かった。


代わりに"プロテイン バナナ風味"が入っていたという。


「あら? あらら?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る