なぎさ先輩の"圧"

遠泳、体育祭、文化祭と濃密のうみつな行事を終えて一息ついていた私。

そんな中、テレビでハロウィンのニュースを目にした。


ハァ? バッカじゃねぇのぉ? そんなんリア充だけでやれよな。


翌日、Revi部でまったりしていると、翼先輩が話を振り始めた。


「なぁなぁ。アタシらでハロウィン仮装大会に参加しね?」


ホラ来た〜。絶対誰かしら提案すると思ってたんだよ〜。つばさ先輩かあや先輩あたりが〜。

眉をしかめているとそれが言い出しっぺに伝わったらしい。やっべ。


「あ〜。あいっち、露骨に嫌な顔したな〜。まぁ見てみって。あたしは毎年、気合い入れててさ。これみたらきっと仮装したくなるよ〜」


翼先輩がスマホを掲かかげたので皆がそれをのぞき込んだ。

うわグッロ!! 人体模型マスクにスーツじゃん!! 気合い入れすぎだろ……。

流石にこれには他のメンバーも引いたらしい。


「どう? これね、商店街のハロウィンコスプレで2位だったんだぜ。あ、安心しろって。今年は可愛い系にする予定だからさ。コスチュームは私がチョイスしてやるから。泥舟どろぶねに乗った気持ちでいてくれよな!!」


つばさ先輩に任せっきりにするのはかなり危険な気がするぜ。

かといって着たいコスチュームがあるかと言えばそんなこともないしな。

他の皆もそんな感じだった。


あんま乗り気でない部員に翼先輩から写真が送られてきた。

可愛らしいチャイナドレスに中華風な帽子、そしておでこに貼られたお札。


おっ、キョンシーかぁ。いいじゃん。


こんな感じなら任せてもいいんじゃないか? ……と皆も思ったんじゃないかね。


そうして桜ヶ丘さくらがおか商店街のハロウィンコンテスト当日となった。

会場にはゆとりのある更衣室が並んでいて、ここで着替えることが出来る。

私服の部員が1人、また1人と増えていった。


すると、向こうからキョンシー姿の翼先輩がやってきた。

見るからにクオリティの高いコスプレにすでに注目を浴びている。


「よぉ。みんな揃ったな? じゃぁチャチャッと着替えを手伝うからな。まずはあいっちから」


おっ、主人公補正だなこれは。きっと黒服の魔女っ子になるに違いない。

えっ⁉ なにこの白い服にストッキング⁉

おまけに顔メイクに血糊ちのり⁉ ええぇぇぇーーー⁉

そしてカーテンが開いた。思わず参加者がざわついた。


鏡を見ると我ながら腰の抜けそうに怖いゾンビナースに変貌へんぼうしていた。

多くの人に見つめられて私は挙動不審になった。


「あっ……あっ、あっ…あっ……(陰」


周囲の人々が散っていくのを感じる。どこが可愛い系なんじゃい!!


次は知里子ちりこ先輩だ。

あまりメイクしていないのか、すぐにカーテンが開いた。

真っ黒なローブにフードを被り、大きな鎌を持っている。

まぁ、シンプルな死神だな。


「ま、前が見えなくて……」


フードの下が見えると参加者は息が止まりそうになった。

中身はリアルでグロいゾンビマスクだったのである。

思わず悲鳴をあげる女性も居た。


うおおッ!!!! こわっ、気持ち悪っ!!


残念ながらゾンビナースが言えた義理じゃないけどさぁ。

いや、そんなところでオチをしかけんなや!!


知里子ちりこ先輩は恥ずかしげにフードを被り直した。かわいい。


次は櫻子さくらこ先輩か。

さぞかし酷いのが出てくるんだろうなぁ……。

そしてカーテンが開いた。ヤバい雰囲気に皆が身構えた。


「ウフフフ……わお〜〜ん!! かわいい狼男おおかみおとこさんですよぉ〜〜〜がおがお!!」


犬耳にヒゲ、モコモコしたへそ出し上半身に短パン

そこから生えた尻尾、ふさふさのブーツ、手には大きな肉球グローブをはめていた。

おもわず参加者からは歓声があがった。


「ウフフ……がおがお♡」


あのなぁ、なんでこういうのができねぇんだよ!! なんでこういうのができねぇんだよ(2回目)

可愛い系ってこういうことじゃないのか。わざとやってんじゃないだろうな?


私と知里子ちりこ先輩は視線を通わせた。

今度は急遽きゅうきょ、参戦した彩先輩である。

あぁ、彩先輩のグロい姿なんてみたくねぇよぉ!!


手加減したのかはわからないけど、更衣室からはまんまるなカボチャがでてきた。

そこから緑色のスーツをした手足と頭がはみ出していた。

まるで雪だるまの頭が極端に小さくなったようなバランスだ。


いや、確かにグロいのよりはマシだよ?

でも……プクク……これは高校生というより、幼稚園のお遊戯ゆうぎみたいな見た目で。


クックックク……。彩先輩すまねぇ……。


本人はまんざらでも無いらしい。いや、そこは恥じらいとかいうものがだな。

まぁ彩先輩も幼児体型だからそういうとこへのこだわりはねぇのかもしんねぇな。


彩先輩すまねぇ……。


私は無意識に自分の体型を見た。危うく塩水を流しそうになってしまった。


最後はなぎさ先輩だ。可愛い系でくるのかグロでくるのかもはや想像がつかん。

そんな時、更衣室内のやりとりが聞こえてきた。


「正気か? こんなの着られるわけがないだろ!!」


「まぁまぁ、絶対に似合うからさぁ!!」


これはグロ系が来るッ!! 身構えろッ!!

カーテンが開くとそこにはミニスカポリス姿のなぎさ先輩が居た。


「悪い子は〜〜逮捕しちゃうゾ!! ズキュ〜〜〜ン☆」


はだけたシャツから覗のぞく胸熱、女性らしいセクシーな太もも。

私は思わず大粒の塩水をこらえきれなかった。


「バッ!! バカッ!! こんなの人様に見せられるわけがないだろ!!」


なぎさ先輩はシャーっとカーテンを閉めたまま出てこなくなってしまった。

水着姿は平気なのに、意外と恥ずかしがり屋さんなんだなぁ。

おそらく、コスプレコンテストに出場できていればぶっちぎりの優勝だったと思う。


いや、おかしいだろ。なんでなぎさ先輩だけがホラー属性ないねん。

なんでじゃ……。


そうこうしていると仮装した面々が商店街をパレードしだした。

この中から優秀なコスプレイヤーが表彰ひょうしょうされる。


翼先輩のキョンシーは受けも良く、かなり有力に思えた。

可愛らしさの面では櫻子さくらこ先輩も頭一つ抜けている。

視線がこちらのグループに集まってきた。やはりこの2人のどちらかだろう。


最初は小馬鹿にしていたが、なんだかんだで翼先輩のセンスは確かなものだった。

まぁ可愛い系だったかと言えば全くそんな事はなかったのだが。

それでも自分でも信じられないほど楽しむことが出来たと思う。


翼先輩、Revi部のみんな、本当にありがとう。

卑屈になりがちな私を救ってくれてさ……。

でも待てよ。私だってミニスカポリス着てみたかったの!!


そりゃなぎさ先輩みたいに凹凸はないが。

すると先輩の"圧"がフラッシュバックした。

またもや不覚にも私は塩水を流した。


「ハイ!! 今回のハロウィンコスプレの優勝者は〜〜〜。そこのナースゾンビの方です!!」


気付くと私は舞台に引っ張り上げられていた。

しまった。つい表情が苦悶くもんに満ちてしまった!!

メイクもドロドロ‼


「いや〜、すごいですね。その表情に血涙けつらい。すごくリアルですよ!!」


恥ずかしくてモジモジしていたのがゾンビっぽさに拍車はくしゃをかけた。

そしてすすり泣きで鼻声になってしまった。


「あ゛っあ゛っあ゛あ゛っあ゛……(陰」


これが桜ヶ丘さくらがおかにナースゾンビが出るという都市伝説の始まりであった。

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