オトコのコの浪漫

季節も10月に入り、文化祭シーズンがやってきた。

だのに、なぜか実績のあるRevi部にライブの依頼は来なかった。

ライブも出来る集団であることをすっかり忘れられていたらしい。

あや先輩が先生たちに掛け合ってくれたけど、いかんせん練習の時間がなさ過ぎる。


あっ、忘れてた〜いじゃねぇんだよ。忘れてた〜いじゃ!!


そういうわけでRevi部の連中の予定はバラけた。

あや先輩は生徒会主催のビンゴ大会がある。

なぎさ先輩は体育祭に死力を尽くして燃え尽きた感がある。

まぁ文化祭で活躍しそうなとこねぇしな。


翼先輩はライブを期待していたのか意気消沈いきしょうちんとしている。

多分、今回一番かわいそう。強く生きて。


櫻子さくらこ先輩は花壇かだんを公開すれば良さそう。

……だが、秘密の花園には危険がイッパイ‼

とてもじゃないけど、人様に見せられる状態では無いと思うんだなぁ……。


そういうわけでRevi部は実質的に文化祭の活動休止だ。

おっし、じゃあビンゴでも行くかぁ!!

私が呑気のんきしてると、誰かが肩に手を回してきた。

そのままガッチリと掴つかんでくる。


痛ッつ〜‼ 痛い痛い‼ 誰だよもう‼


そこには知里子ちりこ先輩が無言で立っていた。


「ちょっと」


なんだか先輩、深刻そうな顔してるぞ。

あんまり興味無さそうな部員を置いて、私は生物部の部室に連れてこられた。

一目で多種多様な生物がいるのがわかった。


やっと開放された私は先輩に向き直った。


「な……なにするんですか……」


すると知里子ちりこ先輩はメガネを上げつつ唐突とうとつに尋ねてきた。


「愛さん、あなた、男子高校生はお好き⁉」


オトコにえている私達である。

好きか嫌いでは大好きに決まっているだろ!!

男子高校生の栄養素が絶対的に不足してんだよ!!


「私にいい案があるわ。オトコのコはね、カブトムシが大好きなのよ‼ 浪漫ろまん浪漫ろまん‼ だから、カブトムシを無料で配るコーナーを作れば男子高校生がいっぱい来て、カップリンク妄想がはかどるわぁ‼」


うわ〜こういう濃いキャラだったの忘れてたよ。

しかし、先輩に石を投げることは出来なかった。

私も男子高校生が集まればハーレム妄想がはかどると思っていたからだ。


ガチガチBLの知里子ちりこ先輩とノンケの私の利害が一致した瞬間ッ!!

確かにカブトムシは全ての男子の憧れ!! めちゃくちゃ説得感のある計画だ!!

しかし、逆ナンしようとかいう陽キャの発想は全く出なかったのだった。


「先輩!! やりましょう!!」


「うん!!」


こうして私達はアツい握手あくしゅを交わした。

カブトムシの成虫はほぼ育っていて、延命のためにヒーターで温めていた。

そんな水槽が3つくらいあった。


部活の活動片手にこれをやってたってのかよ!!

すげぇ情熱だ!! これからは1人にさせやせんぜ!!


生物部の展示とカブトムシ計画を両立させて男子高校生を集めるんだよぉ!!

Revi部の部室を抜けることが多くなったけど、残りの皆は応援してくれてるし。


まぁいいんじゃん?


生物部の部室で知里子先輩ちりこせんぱいと接することが多くなり、仲が深まった。

いや、BLは勘弁。ノンケは譲れねェよ。


なんとなくサボり部だと思っていたが、知里子ちりこ先輩の実験はガチだった。


ハツカネズミの迷路による報酬と罰の実験。

暗室で光を当てた時の金魚の傾きの角度の研究。

孵化ふかしたザリガニにサバのみを与えて青くする実験。

果物から出るエチレンガスと熟し方。

卵の転卵記録と発達過程のレポート……。


パッとあげるだけでこれだけある。まだ他にもいくつかあるらしい。

そりゃ評価されるわけだよ。知里子ちりこあねさんさん、あなどっててすいません。


ただ、どこからかウワサで流れきたペット飼育部というのはあながち間違っていなかった。

どう見ても実験に使わ無さそうな動物もワンサカいたからだ。

でもここらへんの世話をすると気持ちが和むんだな。これが。

ペットをまったく飼ったことのない私にとっては斬新な経験ともいえた。


いつしか、私は生物部の部室に入り浸っていた。

生徒会のように半メンバーになっているとも言える。

何か、何か大事なことを忘れているような気がしないでもないのだが。


ある日、生物部のそばの美術室で提出しておいた油絵が帰ってきた。

自画像の課題だったのだが、これがまた酷いのなんのって。

なんだよこれは!! キュビズムかよキュビズム!!


こんなもの他人の目、特に校外の人に触れられるわけにはいかない。

カンバスは大きいし、絵の面を裏にすると油が付きそうだ。

どうするか悩んでいた私は苦肉の策でそばの生物室に油絵をかつぎこんだ。


放課後に知里子ちりこ先輩に見られるだろうけどしょうがない。

きっと苦笑いして許してれるだろ。


校内でたまたま先輩と会ったので2人揃って生物部へ向かった。

何気なくドアを開けるとそこには油絵にかじりつく無数のゴキブリがいたのだ。


「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!!」


「ヴォおぉぉぉぉぉ!!!!!!」


思わず絶叫してしまった。それでは終わらない。

何匹かのゴキブリが猛スピードで飛び回りだしたのだ。

そこからの意識はもう無い。気付くと先輩とともに保健室のベッドで寝ていた。


いくら古いとうだからといって、ゴキブリが出るなんて想像できない。

油が好きってマジだったんだな……。


しかし、私達の男子高校生への執着はハンパなかったんだ。

ゴキブリホイホイをしかけたとはいえ、いつどこに現れるかはわからない。

ビクビクガタガタしながら生物部に通った。


なんでムシ程度に人間様がおびやかされねばならんのだ!!


それだけならともかく、育てているカブトムシが茶色くて黒光りしていた。

そう、ゴキブリに絶妙に似ているのである。

流石に私も知里子ちりこ先輩も拒否反応が出た。


吐き気をこらえながら毎日、世話を続けていった。

本当に地獄のような毎日だった。食欲が無くなって親に心配されるレベルだ。

ゴキブリとカブトムシがチラチラ切り替わる夢もみた。

私も先輩も、もはや満身創痍まんしんそういだった。


しかし、それでもなんとか耐えきって文化祭当日にぎ着けた。

もうね。前の夜はね、ギンギンで眠れなかったね!!

真面目な分野が手伝ってか、生物部には多くのお客さんが来てくれた。


だが、私も知里子先輩ちりこせんぱいもソワソワ……いや、ムズムズしている。

もう少しでカブトムシ譲渡会が始まる!!

今まで苦行を重ねて来た結晶!!


いでよ!! 男子高校生ッ!!


ついに知里子ちりこ先輩は呪文を唱えた。


「予定通り、午前10時からカブトムシ譲渡会をはじめま〜す!!」


恥ずかしがり屋なのにやってくれるぜ!!

するとドカドカと生物部に人がなだれ込んできた。


来たッ!!


「ねーねー、姉ちゃんカブトムシくれるんだろ?」


「俺、ヘラクレスオオカブトが良い〜〜」


「わ〜い!! カブトムシカブトムシ!!」


「……カブトムシうまい」


なだれ込んだきたのはわんぱくキッズたちだった。

男子高校生は誰1人居ない。代わりにショタまみれである。

だが、残念なことに私達はショタコンではない。


ないんだよぉ!!


確かにカブトムシはオトコのコの浪漫ろまんではあるが、男子高校生にはあまり刺さらないらしい。

リサーチ不足だなこりゃ。


こうして私と先輩はショックで5日間寝込んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る