エンエイエイリアン

もうすぐ夏休みだ。

暑い屋外に出るなんてバカバカしい。

涼しい部屋にこもってソシャゲでもやる。推し活万歳!!


しかし、それはただの現実逃避だった。

夏休み中にもオーセンの面倒くさい行事、遠泳が待ち受けているのだ。

いくら文武両道だからって50kmハイクといい、これといい女子に過酷すぎじゃないか?


それでも誰も文句や泣き言を言わない。むしろ楽しそうな雰囲気ふんいきさえある。

ホントに出来た女子連中だよ!!


カオルとまこっちゃんもスポーツ万能だ。

水泳も出来るらしく、堤防の外まで泳いでいくコースらしい。


一方の私はステレオタイプ的カナヅチで、全く泳げない。

流石に水に顔をつけることくらいはできるが、先に進めず、沈んでしまう有り様だ。

だが、私はチンケなプライドから見栄を張ってしまった。


「まぁ? 私はほどほどに泳げるから練習しなくても問題ないかな〜(チラッチラッ」


カオル、まこっちゃんゴメン。正直に言えば2人を頼れたかもしれないのに……。


「あっそ。じゃ、心配はなさそうじゃん? 私は連日、夏期講習があるんだべ。なんとかなりそうならそっち行くかんね」


「あ〜、わても夏期講習や。1年から受験勉強ってもだるいんやで」


「マ⁉ まことっちゃんも? 受験勉強なんてマジ勘弁!!」


げっ!! まだ1年だぞ!? こいつらもう受験勉強してんのか!! おまけに文武両道と来た!!


オーセンは怖ぇなぁ〜(2回目)


あ〜、これでまたベソかきながら2人に醜態しゅうたいを晒さらすのか。


今までならここで諦めていただろう。

しかし、ちょっぴり真人間まにんげんになった私は前向きな発想に至った。


「……まだ半月はある。なぎさ先輩と特訓すればあるいは!!」


そういうわけで先輩に頼み込み、市営プールに通い始めたのだ。


おぼぼぼぼぼぼ!!!!!!!!


そして、私はおぼれ死んだ……。

が、なぎさ先輩に水中から引っ張り出された。

競泳水着で押さえつけられても主張を止めない胸が目に入る。


まだ海にも行っていないのに、私は目から塩水を流した。

我ながら陰湿極いんしつきわまりない酷いコンプレックスだよ。

じゃばじゃばしているとスパルタ指導がとんでくる。


「こら!! てんでストロークが出来てない!! そもそもプールでおぼれる奴があるか!! 実際の海は波もあるし、底も見えないんだぞ!! そんなことで生き延びれるわけないだろ!!」


なぎさ先輩、普段はまあまあ優しいんだけどスポーツとなると熱血スポ根でキッツいんだよなぁ。


「もう実戦まで時間がない。荒療治あらりょうじだが、海での特訓に切り替えるぞッ!!」


いやいや、私、砂遊びくらいしかやったこと無いですよ!!

あんな塩苦しい海水飲んだら今度こそ死んじゃうよぉ!!


そんなこんなでなぎさ先輩に引っ張られて海へとやってきた。

電車で2時間もかかる。それだけでげんなりした。


「さ。1分1秒でも惜しい。いくぞあい!!」


先輩はそう言って私服を脱ぎ捨てた。下には競泳水着を着ていた。

小学生かよ……。


「や〜!! 待ってたよぉ!!」


この声は……私が砂浜に目をやるとそこにはRevi部の面々がいるじゃん!!


「話を聞いたらウズウズしちゃってさぁ。つい私達もきちったんだよね」


ロリ枠。


「あんまり陽に当たるのは気がすすまないね」


そこそこある。


「いや〜。夏の熱気に当てられてヒートアップしてきたぜ!!」


ちょいある。


「ウフフ……。誰かオイル塗ってくださぁ〜い」


うおデッカ!!


私はまだ海にも浸かってないのに塩の涙を流した。


「なにアホやってるんだ。さ、泳ぐぞ」


その時だった。遠くから叫び声が聞こえた。


「きゃ〜〜だずけ……ゴボッ!! た〜す〜げッ!!」


女の子が溺れてる!! あわわ!! 見張りの人を呼ばないと!!


「むっ、いかんな。ライフセーバーからは距離が離れすぎている!! しからば!!」


真っ先になぎさ先輩は浮き輪を自分にくくりつけると海に飛び込んだ。

私は思わず口をぽかーんと開けてしまった。

うわ〜……かっこいい……。まるで人魚みたいだ。


あっという間に先輩は溺れた女の子のもとにたどり着いた。


「落ち着くんだ。浮き輪につかまっていれば沈みはしない。いまから私……いや、お姉ちゃんが岸まで引っ張っていてやるから。さぁ、深呼吸をして。ゆっくり。ゆっくり戻るぞ」


不用意に大人数で助けに行くのは危険って聞いたぞ。

ライフセーバーはその様子を見守っているようだった。

先輩は女の子を気遣いつつ、無事に岸へ戻って来ることが出来た。


「さ、ご両親のもとに戻るといい」


「お、おねぇぢゃゃあん!! あ、ありがどおお!!」


涙と鼻水でなぎさ先輩はベトベトになっていた。

苦笑いする先輩に私は向き直った。


「なぎさ先輩!! とってもかっこよかったです!! 私も先輩みたいに……はなれないと思いますが、すぐに弱音を吐くのは止めます!!」


またまた心にもないことを〜。いや、心はあるが、実際やるかといわれれば……。

そんなさ、少年漫画みたいなさ、ムネ厚な展開とかいらないんよ〜。


「そうか。あい、見直したぞ。今日は目一杯、鍛えてやるからな!! ついてこいよ!!」


げ〜っ、マ?


人が死にものぐるいで練習しているというのにあや先輩とつばさ先輩は知里子ちりこ先輩を埋めてるし。


なんでそんなにムネを盛るかな?


櫻子さくらこ先輩にいたってはナンパされてやんの。

あ、撃沈。そういうとこニブいかんなぁ。

ん? あれってオレンジジュースじゃね?


ドゥフフフ。みんなあわててるあわててる!!

いや、流石に手ブラはやべぇよ!! 見える!! 見えるゥ!!


「こら、愛!! 集中力が足りん!! おぼれるぞ!!」


こうして私はしこたま海水を飲んで実地訓練を終えた。

まだ本番までは少し日にちがあった。

最終日までなぎさ先輩は遠泳特訓に付き合ってくれた。

あぁ、こうして先輩はオーセン水泳部に憧れたんだ……。


「いいぞ!! そのリズムを忘れるな!! 考えるんじゃない!! 身体と水を一体化させるんだ!! 体幹!! 体幹!!」


こうして遠泳大会当日を迎えた。

私が一番泳げない堤防内コースだとカオルとまこっちゃんにバレて、ゲラゲラ笑われた。

遠慮ねーなコイツら。でもヘンに気を遣われて苦笑いされるよりは良い。


それはまぁともかくとして、2人共、水着姿になると、なんというかこう……。


うおデッカ!!


私は何度目かわからない海水を目から流した。


伊達だてに遠海コースだけあって、2人は涼しい顔をして海から上がってきた。

残るは一番、泳げないグループである。

私だけでなく、周りの子達も必死こいてじゃぶじゃぶしている。


でもだ〜れも前に進まねぇんだわ。

そういうコースなんだからしょうがねぇよ。

だけど、今日の私は一味違うぞ!! 見ててくれなぎさ先輩!!


私も例に漏れずに力尽き、浜辺に打ち上げられた魚のようになっちまった。

それを先生たちが脇から抱えて起き上がらせた。


カシャ!! カシャカシャ!!


シャッター音がしたが、気が遠くなって何もわからなかった。


後に記念写真販売で上がってきた写真は捕らえられたエイリアンそのものだった。

その写真は今も思い出に部室に飾ってあるんだ……。


いや、やめろよ!! マジで誰が注文したんだよこれ⁉

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