隣に部屋は無いんだよね……

カオルとまこっちゃんのおかけで改心したように思えた私。

2人には悪いが、人間、そうそう簡単に変わるもんではない。

陰キャ特有の陰湿いんしつなツッコミは健在だ。


っていうかボケキャラばっかなんだから、誰かがツッコまねぇとこの物語は成り立たねぇだろ!!

誰のせいだ誰の!!


(……………)


まぁ、そういうわけで今日もだらだら部室で過ごしているわけだ。

Revi部はたまに誰かが抜けていたりする。

主になぎさ先輩は運動部のヘルプ、櫻子さくらこ先輩は花壇の整備。

知里子ちりこ先輩は実験動物……いや、ペットの世話などだ。


私もたまに彩先輩あやせんぱいに引っ張られて生徒会の手伝いをやらされたりする。

あ〜!! めんどくせぇ!! だいたいな、生徒会なんつーガラじゃねぇんだよなァ!!

この間は1人で幼稚園のボランティアとか行かされたしよォ!!


なにが生徒会初の試みだよ!! ほとんど実験体じゃねぇかよ!!


「ん? 今、なんか言ったかにゃ?」


いいえ、な、なんでもございません。生徒会長様。

あや先輩にはお世話になりっぱなしで、頭が上がらん。


それにしても皆、それぞれ部活の復活に向けて努力してんだな。

伊達にリヴァイ部名乗ってるわけじゃないよな。


しっかし、異文化交流会の復活ってどうアピールすりゃいいんだ……。

強いて言えば生徒会活動の手伝いだが、不純異性交友な部活が評価されるかは怪しい。


あきらめるな。愛!!

他の先輩も頑張ってるんだ!!

私だって玉の輿こしハーレム部の再興を!!

なんだかバカバカしくなってきた。この話はお預けだ。


そういうわけで他の先輩方が何やってるかはわかる。

唯一、つばさ先輩に関しては一体、なにやってんだかわかんねぇんだよなぁ。

いつのまにかあや先輩が顔を覗のぞき込んできた。


「ははぁ〜ん? さてはつばさちんが何の課外活動をやってるか、知りたいんでしょ?」


うおするどッ!! 何も言ってねぇのに!! 都合の良い読心術!! 


「そっ、そうですけど……。つばさ先輩はどんな活動を?」


ん? なんでそんな渋い顔してんだ。


「う〜ん、難しいにゃあ。色々あって、みんな気をつかって見に行かないんだよ。でも、あいちんが行けばあるいは。ただし、生徒会の手伝いをしてる事は言っちゃダメだよ?」


??? なんのこっちゃ。話が見えてこない。


「まぁ気になるなら行ってみるといいにゃあ。本人に聞いてみればわかると思うよ。さくらデパートの陸橋前広場にいるから」


とりあえず、行ってみることにするか。

さくらデパートは学園から徒歩10分で着く。

オーセン生の御用達のショッピングモールだ。

ここではよくストリートミュージシャンが演奏しているのを見かける。


翼先輩はここで演奏してんのか?


適当に時間を潰していると夕方になった。

そろそろ帰ろうかと思っていると帽子を深く被ったギタリストが現れた。

その背のたけ、体格、あんまデカくないムネ!!

あれは間違いなく翼先輩だ!!


バストサイズで人物を特定するのは貧乳コンプの私の悲しい習性だった。

つばさ先輩は持ってきた折りたたみイスに腰をかけた。

ギターケースは閉めたままだ。おひねりはいらないんか?


一息つくと歌い出した。おや、なんかすげぇハスキーボイスだぞ⁉


「つばさ〜を〜もが〜れ〜た〜phoenix♪ 氷のよ〜うな〜雨に叩かれて〜♪」


こっ、これはっ!! ポジティブな作詞作曲の先輩とは別人みたいだ!!


「phoenix〜飛ぶことので〜きな〜い〜ただのトリよぉ〜♪あぁ、だ〜れ〜か〜わたしの火を消して〜く〜れ〜ないか〜〜♪」


集まったオーディエンスから大きな拍手が送られた。

そして次々とギターケースの上におひねりが置かれていく。

私も感動して思わず歩み寄った。


「すごいじゃないですか先輩!! いつもとテイスト違って、いい歌でしたよ!!」


帽子をくいっと上げた先輩は目をまんまるにした。


「愛っちか!? どうしてここに。誰かから聞いてきたんだな?」


む、なんかしゃべりにトゲがあるな。ここはお茶をにごすッ!!


「い、いえ。たまたま通りかかっただけです。にしても先輩は弾き語りやってたんですね!! う〜ん。カッコいいなぁ!!」


「……カッコよくなんてないさ」


ん? どしたどした?


「愛っちならわかってくれるよな? Revi部にも、復活させたい部にも自分が役立ててない事をさ」


あっ、生徒会手伝いについてって言うなってそういうことかぁ!!

翼先輩は今の活動に負い目を感じてんだな。

ガラにもねぇなぁ。しっかりしてくれよ……。


「なぎさはヘルプだけど、大会とかでいい成績だしてるし、櫻子さくらこも地道に花畑を整備し続けてる。知里子ちりだって実験やレボートで評価されてる。そういう私は……」


つばさ先輩はうつむいてしまった。


「私達だけなんだ!! 軽音楽部……いや、Revi部に貢献できていないのはッ!! それに、音楽だけで通用しないのか悔しいんだ……」


パシン!!(ビンタの音)


「翼先輩のバカッ!! そんなウジウジした先輩、見たくありません!!」


(とか出来たらスッキリするんだけどなぁ……)


う〜ん、確かにこれは深刻な問題だ。

なんとかして認められそうな音楽の課外活動が出来ればいいんだが……。

その時、私に電撃が走った。


思いついたッ!! 私ってば天才!!

アホな自画自賛はそれほどにして。


「先輩!! ありましたよ!! 先輩がアピールできそうなところ!! うたのおねえさんです!!」


当たり前だが、翼先輩つばさせんぱいはキョトンとしている。


「あのですね、この間、私は生徒会の仕事で幼稚園に行きまして。そこでうたのおねえさん役をやったんです。そりゃもう酷い歌声でみんな泣いちゃったんですよ。でも、先輩ならきっとみんな喜んでくれると思います!!」


あっ、生徒会のことバラしちまった。まぁいいか。

それを聞いた先輩の目に生気が宿った気がした。

つばさ先輩はガッツもバイタリティもある。でも誰でも弱るときはある。


そういうときは助け合い。そうだろカオル。

そうと決まったら私と彩先輩の行動は早かった。

市内中の保育園、幼稚園を回った。

それだけでなく、小・中学にもかけあってみた。


必死に駆けずり回っている私達を見て、みるみる翼先輩つばさせんぱいは元気を取り戻した。

いままでシーンとしていた部室に楽器の音が戻ってきた。

こうして先輩は音楽指導の分野でしっかり認められられるようになったのだった。


ちょっと待てよ!! 薔薇色交歓会ばらいろこうかんかいの異文化交流会はどうなるんだ!! 

……なんて声を大にして言うわけにもいかねェ。


「イェーイ!! みんな、今日もノッてるか〜い!!」


――ツテケツテケテケテケテケ……ツクテーン!!


全力ドラムは勘弁してよ……。


「ドンドンドン、ダンダンッ!!」


ほらまた壁ドンだ〜。何度も言うけど、ここ角部屋なんだよね。

だからさ、隣に部屋は無いんだよ。


「あ〜。はいはい、わかりましたよ!!」


「ダンダンダンダン!!」


私は激しくノックを返した。

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