陽キャ陰キャ陽キャ

オーセンには面倒くさい行事がいくつかある。

5月末の50kmハイクに次いで6月末の林間学校だ。

キャンプなんて興味ねぇし、クーラーの効いた部屋でゴロゴロしていたいに決まってるじゃん。


さらに厄介なのが、班員決めがくじびきなことだ。

ランダムで3人決めるとか勘弁してくれ……と陰キャの私は思う。


しかし、オーセンの生徒はフレンドリーな気質があるらしく他人との交流に一切の気後きおくれがない。

人間が出来ている女子ばかり集まってきているのだから当然といえば当然なんだが。


もちろん陰キャも居ないことにはない。

ただ、人様ひとさまをイジるなどという非生産的な事は全くせず、平等に接してくる。

それがかえってめんどくさかったりするんだよなぁ。


フレンドリーな娘でもけむたいし、陰キャの娘が来ても同族嫌悪どうぞくけんお

Revi部に居るとそうでも無い気がするんだが、部外ではこんな調子である。


見た目を多少、塗り替えたとしても性根の悪さまでは矯正きょうせいできないらしい。

まぁ自覚症状があるだけマシだろ。


うわっ!! リーダーに決定⁉ やってらんね〜。


いつになく卑屈ひくつになっていると同じ班に決まった女の子が集まってきた。


「やっほ〜〜!! ボーカルうめぇあいっちじゃん!!」


ハデな茶髪に着崩したYシャツ、リボンタイにルーズソックス。

オーセンは校則がユルいので服装チェックはほぼ無い。


たしか、こっちのコッテコテのギャルは立花たちばなかおる!!

もう1人も声をかけてきた。クセのある関西弁だ。


「ほんまや〜〜!! 愛っちやない。よろしゅうなぁ!!」


こっちはは西園寺さいおんじまこと!!

クラスの中でもアクティブ度が高く、暑苦しいタイプだ。

エセ関西弁なんじゃねぇのぉ?


どっちも見た目とは裏腹にあからさまなお嬢様の名前をしていやがるッ!!

うげぇっ!! クラス内でもトップクラスの陽キャの2人に当たっちまった!!


しかもあいっちって呼び名、どっかで聞いたことあるぞ……。

私は冷や汗をかきながら答えた。


「たっ、たちぶぁなさんに、さいうぉんじさん。よ、よろしくおながいしますぅ……」


戸惑とまどう私をよそに2人はまばゆい笑顔を放ってきた。


「ウケる〜〜!! あたしはカオルでいいよ〜〜!! ほらほら〜〜もっとアゲで〜☆」


「ホンマやでぇ!! なんや水臭いなぁ!! わてはまこっちゃんって呼んだってぇな!!」


頭が痛くなってきた。決してバカにしているわけではないのだが、んでいる世界が違いすぎる。


こうしてオーセンの女生徒たちは隣町の山間にあるキャンプ場へやってきた。

リーダーの役目は点呼てんこと指示出しだ。

簡単なように思えるが、班員の得手不得手えてふえて把握はあくする必要がある。


そして、夕刻までにテントの設営と夕食を作り終えねばならない。

女子校にしてはかなりハードなキャンプだ。


ほらまた文武両道ぶんぶりょうどうだよ。

私は受け取ったプリントをペラリペラリとめくった。

ずだ袋を開けると何に使うかよくわからないパーツや支柱やらが出てきた。

ハンマーや杭のようなものまででてきた。


一応、説明書はあるのだが、思わず首をかしげる。


まったく組み立て方がわかんねェ。どうすっか……。


カオルもまゆをひそめていた。


「う〜ん、こんなんがテントになるとかマ?」


これはヤバい。このメンツでテントが組み上げられそうな人は居ない。

このままでは野宿じゃんか。

そう思われた瞬間だった。


「うち、この型のテント、組んだことあんねん!! ドゥームテントやね!! おとんがキャンプ好きでなぁ!! よく行くんよ!!」


お、意外な人材!!


「まこと……ま、まことさん!! か、カオルさ……かおるさん。みんなで作り、りましょっか?」


こうして3人で協力してテントを組み立てた。

まことの深い知識と的確な指示によって割と早いうちにテントは完成した。

ただ、私はハンマーで指を打ったりして足を引っ張ってばかりだった。


夕方まで一息つくと今度は夕食のカレー作りだ。

3人でそろって野菜を洗って、皮をむき始めた。

これまた意外なことにかおるは包丁で器用にジャガイモの皮をむいている。

滅茶苦茶に器用だかっこいい!!


一方の私はピーラーが関の山である。

しかも手をすべらせてちょっと指を切ってしまった。

すぐにかおるがこっちに気づいた。


「あ!! あいっち、してみ!!」


すると慣れた手つきでポーチを取り出し、私の指にバンソーコーを貼ってくれた。


「出来ないことは無理にやるこたねぇし。適材適所の助け合いってやつだべ」


ニッコリとこちらに向けられた笑顔に私は溶けてしまいそうだった。


「わてもカレーの仕込み手伝いますわ!! あいっちは飯盒はんごうでお米をいてくんなはれ!! 炊き方のメモはこれやさかい!!」


「う、うん」


ここまで役に立っていない私は焦っていた。


「えっと……、これ、ホントに炊けてるのかな? ボリボリにならないかな? もっと、こう、火を強めに……」


そして夕飯時になった。無事にカレーライスは完成したんだけど……。


「ご、ごめんね………。お米、焦げちゃった……」


飯盒はんごうの中の米はキツめに焦げ付いていた。

皿によそるとところどころ真っ黒で、おこげを通り越していた。


「まぁしょうがねぇし。誰にでも失敗はあるじゃん?」


「はは!! わてもよくやりますわ!! ハンゴーで炊くのは難しいさかいなぁ!!」


2人はニコニコ笑いながらカレーを食べている。

あれ……なんでかな……視界がかすむ。


「うっ、うっうっ……ゴメンね……。私、何の役にも立てなくて……。テントも作れないし、野菜もむけない。2人みたいに明るくなれないし、いっつもウジウジしてるんだ……」


キャンプの失敗だけ口にするつもりが、本音が口をついて出ちまった。


「私は……私は、こんなネクラな自分が大っきらい!! いつも物事をしゃに構えて、意味もなく人のことを馬鹿にして!! そしていつも人の目を気にして、嫌われないように日和ひよってる!! ううっ……うううッ!!!」


えっ、あっ、私、何言ってんだよ。

こんな事、言ったらドン引きされるに決まってる!!

それどころかクラスの笑いものだ。終わった。私の学園生活は終わった。


ばら……いろ……の……。


「えっ?」


気付くとかおるまことがピッタリと私を挟んで腰かけてきた。


「ば〜か。あいっちがそんなんだって、ウチら知ってんだわ。だけど、そういうとこも個性なんだし」


「そうや。せやかって恥じることはないんや。誰でも多かれ少なかれそういう気持ちはあるんやで」


カオルにまこっちゃん……はは、あんたら人が出来すぎてるよ。

これだからオーセンは怖ぇわ……。

その夜は3人で仲良く川の字で眠った。


「はい!! 点呼します!! カオルに、まこっちゃん!!」


「う〜す!!」


「はいな〜!!」


私達は顔を向かい合わせて笑いあった。

なんだか心の雲が取れた気分だよ。ありがとう2人とも……。

それ以来、私の机は2人のたまり場になった。


「なぁ、あいっちはカレシとかいたことあるん?」


「せやせや。わてにも聞かせてぇや!!」


「フォヌカポウwww……ドュゥヘヘヘッ!! そ、そんなのいないでござるよwwwwww」


あんまり変わんねぇかもな……。

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