桜花乱咲

確かに私は"異文化交流会"を復活させるためにこのReviリヴァイ部に入部したはずだった……。

それなのに、なぜかお花見会場でひたすらゴミを拾わされていたのだ。


「ご、五色ごしき先輩、なんでこんな事に……」


ホントだよなんでこんなことになってんだ。

それを聞いたピンク髪の五色ごしき先輩は苦笑いしながら答えた。


「にゃはは……。Reviリヴァイ部はまだ設立したてだから先生方からの信頼が足りなくてね。なんでもやりますって言った結果、ゴミ拾いが回ってきたんだよ。あと、この部活は下の名前で呼ぶことになってるよ!! 私はあや。ね、あ〜いちゃん!!」


下の名前で呼ばれたことなんてないんだから、顔を赤くして目線を落とすしかないだろ。

どうせ、他の部員もイヤイヤやっているに違いない。

しかし、彩先輩あやせんぱいは汗をかきながら熱心に缶を回収していた。


青髪をポニテに結ったなぎさ先輩も熱心にゴミを拾っている。

この人、見るからに真面目だしな。


「くっ、いいぞ!! この動作の繰り返し、ハムストリングス筋に乳酸が溜まっていく!! プロテインを飲んできて正解だったな!!」


割と常識人なんだけど、なんだか大事なとこがズレてんだよなぁ。


一方の黒髪の知里子ちりこ先輩はちらちら桜を見上げながらもボランティアに取り組んでいる。


「ソメイヨシノの原理ならクローンを産むことが可能!! 本人×クローンの禁断のやおい恋!!」


それを聞いて思わず全身が震えた。

やおいとか古くね⁉

しかし、私はあくまでノンケである。そこは譲れない。


あれ? 翼先輩つばさせんぱい櫻子先輩さくらこせんぱいの姿が見当たらない。

いくらなんでも堂々とサボるってことは……いやサボってるし!!


茶髪のショートカットの翼先輩つばさせんぱいは見知らぬグループに混ざっていた。

しかもどこからかマイクを借りてきてカラオケを熱唱している。

その圧倒的な歌唱力のため、花見客のウケは非常に良かった。


「うっわぁ……無駄に上手いんだよなぁ」


どんどん人が集まってきた。これは間違いなくカリスマというやつである。

なんとも言えないジェラシーを感じた。


会場を見回すと綺麗な金髪の櫻子先輩さくらこせんぱいも知らない花見客に囲まれていた。


ニコニコと笑いながらオレンジジュースを飲んでいる。


「う〜ん。櫻子先輩さくらこ先輩も可愛いからなぁ。そりゃチヤホヤされるよな」


またもやなんとも言えないジェラシーを感じた。

その時だった。いきなり櫻子先輩さくらこせんぱいが立ち上がった。


「ぱんぱかぱ〜ん☆ 私ぃ、脱いじゃいま〜す☆」


上着のすそを掴むと先輩はガバっとそれを脱ぎ捨てたのだ。

上半身下着の美少女のあられもない姿が公開されてしまったッ!!


「うおデッカ!!」


そんな馬鹿なことを言っている場合じゃないって!!

すぐに彩先輩が立ち上がった。


「まずい!! 櫻子さくらこちんはオレンジジュースで酔っ払っちゃうんだよ!!」


知里子ちりこ先輩は謎の銃を取り出した。


すごく嫌な予感がするよ!!


「ジュウウウウッッッーーーー!!!!」


謎の音波が櫻子さくらこ先輩を直撃した。


すると先輩はトローンとした表情を浮かべて気を失ってしまった。


「まったく、しょうがないやつだ」


なぎさ先輩は櫻子先輩さくらこせんぱいに駆け寄って受け止めた。

おっかなびっくりで私は知里子ちりこ先輩に歩み寄った。


「あ……あのぉ……。なんですかそれ……?」


やおい恋先輩はフチをクイッとあげた。やたら得意げ。


「ASMRだよ。エーエスエムアール。早い話が音フェチのツボる音を流してゾワゾワしたり、リラックスを促すものだよ。これはそれを発射するスピーカーガン!!」


えっ、ひみつ道具とかそういうのはいいから。

続けて知里子ちりこ先輩は解説し始めた。


「ずばり、これはステーキを焼くときの音なんです!! 櫻子さくらこは日頃、これを聞きながら眠っているらしい。だからステーキ音で反射的に寝てしまう!! 万一に備えて用意してあるのです!!」


そもそもステーキ音ってなんだよ……。

ツッコミどころが多すぎて、ツッコミ気質の私でも流れに乗り遅れてしまった感がある。

なぎさ先輩は眠った櫻子先輩に上着をかけるとひょいっとおぶった。


いくら華奢きゃしゃな女子高生とは言え、ここまで軽々と持ち上げられるとビビらざるを得ない。

なぎさ先輩の身体能力の高さにあきれる、いや、感心するばかりだった。


いや、褒めてんだよ? 褒めて。

するとなぎさ先輩が声をかけてきた。


「彩先輩。私は櫻子さくらこを送っていきます。皆は?」


彩先輩は額の汗を拭って返事をした。


「ふぅ。そろそろ潮時しおどきかにゃあ。なぎさちん。私達も切り上げて帰るよ。櫻子さくらこちんをお願いするね」


いい匂いがしそうな紺色のポニテを揺らしてなぎさ先輩は軽やかに駆けていった。


「さて、知里ちん、愛ちん。片付けして帰ろっか」


1人足りないがいいのだろうか。


「あ、あのぉ……つばさ先輩はいいんですか?」


心のなかではずけずけとツッコむが、外に出てくる言葉は陰キャそのものである。

根っこがそうなのだからしょうがない。

するとあや先輩と知里子ちりこ先輩は首を横に振った。


「ダメだね。つばさちんはああなったら人の話を聞かないんだから。満足するまではずっと歌ってるよ。好き勝手にやらせておくしかないね」


一方の知里子ちりこ先輩は眉をひそめた。

あぁ、やっぱめんどくさいやつだなと思ってるんだろうな……。


「まったく困った人です。ただ、音楽に対する情熱は本物。私も見習わなければならないですね」


あれ以外とリスペクトしている。もしかしてこの部活は案外フレンドリーなのか?

彩先輩も首を縦に振った。


「うんうん。そうだね。あれくらいの勢いがないとRevive《リヴァイブ》なんて出来ないからね。さて、と。じゃあ2人とも、お夕飯を食べて帰ろうか」


ウチは特に厳しいわけでもなかったので先輩のお誘いに乗ることにした。

ファミレスに着くとみんなが疲れのあまり、どっかりとソファーに座った。

とても女子高生の仕草とはおもえねぇぜ。


かわいた体にドリンクバーがひどく美味しい。

そしてメニューを囲みながら先輩たちと楽しい一時を過ごした。


彩先輩あやせんぱいはいろんなジャンルに精通していて、何を話していても退屈しなかった。

マニアックなオタクカルチャーにも着いてくるとはなかなかやる。


知里子ちりこ先輩は変わり者ではあるが、根底では私と同じ血が流れている。間違いない。

ノンケは譲れないが、趣味が共通する部分も多かった。


そんなこんなでこの2人とはすぐに打ち解けることが出来た。

少からず入部に不安を感じていた私は救われた気分になったんだ。

そんな中、ふと私は窓の外に目をやった。


「あ……あの、あれ、なぎさ先輩では?」


たしかに先輩が窓の前を横切った。櫻子さくらこ先輩を背負ったままだ。

思わず顔がひきつった。


「……電車ありますよね? もしかして解散してからずっと……?」


マジかよ!! このファミレス、公園から何キロ離れてると思ってんだ!! 


きっとナントカ筋がナントカとか言ってんだろうなァ……。


あや先輩と知里子ちりこ先輩はやれやれとばかりにため息をついて、首を左右に振っていた。


ありゃあねぇぜ……。


思わず私達はなぎさ先輩の脳筋ぶりに笑ってしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る