お願いPhoenix!!

昼休み、Reviリヴァイ部の面々は部室でまどろんでいた。

そんな中、誰かが勢いよくドアを開けた。おっ、あや先輩じゃん。


「みんな!! ビッグニュース!! ビッグニュースだよ!!」


何事かと私達は身構えた。

嫌な予感がする!! いや、嫌な予感ばっかじゃないか……。


「あのね!! この間のボランティアが認められて、新入生歓迎会でライブ演奏していいって!! ここてReviリヴァイ部の活動をアピールできれば一気に復活に近づくかもしれないんだヨ!!」


すぐさまつばさ先輩が声を上げた。


「イェーイ!! ライブだライブ〜〜!!」


続いて櫻子先輩さくらこ先輩も余裕ありげに笑っている。


「あらあら〜〜。ウフフフ〜〜」


なぎさ先輩は小難しそうな顔をしていた。


「う〜む……楽器なんてリコーダーくらいしかやったことがないぞ」


こんな感じの人が居ないと私の立つがないだろォ⁉

知里子ちりこ先輩はうつむいていた。おお、心の友よ!!

彩先輩あやせんぱいは申し訳無さげに頭をペコリと下げた。


「ゴメンねぇ。私も手伝いたいところなんだけど、生徒会の仕事があってさぁ。Reviリヴァイ部の5人でやってもらうことになりま〜す。この部でライブなんてやったことないけど、頑張ってね!! じゃあね〜」


こうして彩先輩は部室から出ていった。

さてさてライブライブ……って、ガチに出来る楽器がねぇ!!

私は思わず頭を抱えたが、すぐにつばさ先輩が仕切り始めた。


「うっし!! それじゃあ……そうだなぁ。櫻子さくらこはピアノ経験あるからキーボードだな。なぎさは直感で筋肉に刻むドラムで。知里ちりはあんまり目立たないしベースな。ヘーキだよヘーキ。ある程度がんばれば目立たないしさぁ!!」


さすが音楽経験者だけあって、それらしい配役だ。


あれ? 私は……?


翼先輩はにっこりと笑いながらこちらを向いた。


「愛っちは……ボーカルな!!」


「えっえっ、あっ……どどっ、どうして私なんです⁉」


思わず素が出てキョドってしまった。いや、そらしょうがないよ。

ホントにマジでなんで私なんだ。この中でボーカルつったら一番に音感のある翼先輩でしょ!!

そう言い返したかったが、私にそんな度胸あるわけないじゃん。


「そうだなぁ。あたしが思うに愛っちはとても綺麗な声色こわいろをしてるんだ。この中ではボーカルには最適だぜ!!」


おっ。思いがけないところでめられた。

め慣れてないので照れてしまう。ついクセで後頭部をいちった。


(何これもしかして主人公補正とか言うヤツ?)


ぼんやりしているとつばさ先輩が呼びかけた。


「うっし!! さっそく練習だぁ!! みんな〜いくぞぉ〜!!」


こうして放課後にReviリヴァイ部の面々が音楽室に集まった。


「ほんじゃまぁボーカルの発声練習からいくぞ〜!! 愛っち、あたしのコーラスに続けて歌ってくれ!!」


音楽室に力強さと繊細せんさい《さをねた歌声が響いた。


「あ〜え〜い〜お〜う〜〜〜♪」


(うっしゃあ!! 綺麗な声色こわいろ、聞かせてやんぜ!!)


「ゔぁーえーびーーーうぶぅ〜〜〜!!」


あれ、なんでだ。皆なんで黙ってんの⁉

つばさ先輩は苦笑いしながら仕切り直した。


「ま、まぁまぁ。声はいい声は。もっかいやってみ」


私はコクリとうなづいてリズムを思い出した。


「あ゛〜↑あ〜↓おぉ〜〜ぐッぐぅ〜〜」


またもや音楽室は静まり返ってしまった。

どういうことだこれは!!


そんな私に先輩方は率直な感想を投げかけてきた。


「愛、おまえ音痴おんちだな」


「確かに声はいいけど、音程がね……」


「ウフフフ。まるでつぶれたカエルの声みたいですねぇ。ウフフフ……」


さんざんな言われようである。主人公補正はただの思いこみだったのか。

微妙な空気が流れかけた時、つばさ先輩が喋り始めた。


「確かに音程は酷い。酷すぎる。壊滅的かいめつてきだよ。ありえない!!」


そんなクソミソに言うンじゃねぇよ!!

だけど、話はそこでは終わらなかった。


「だけど声自体は間違いなく美しい。あたしよりも透き通った声をしてると思う。あたしが面倒を見るから愛ちんにボーカル、任せてやってくれないか?」


少しの間のあと、部員たちは拍手はくしゅでそれに答えてくれた。

ただ、翼先輩はくぎを刺すように言った。


「期待の1年坊だからってチヤホヤするわけでも、ソンタクするわけでも、ましてや主人公補正でもないからな。本気で食らいついてきなよ!!」


こうしてその日からボーカルの猛特訓が始まった。

びっくりしたのはつばさ先輩の自室は防音加工だった事だ。

楽器も一通りのものが揃っているし。


私は本番まで毎日、翼先輩と音程合わせや歌詞の暗譜、そして発声の練習をした。

皆に迷惑をかけたくないという一心で、もうこれがとにかく必死。

その甲斐あってか、つばさ先輩曰く、みるみる上達した……らしい。


他の部員たちも私の歌声に太鼓判たいこばんを押してくれた。ありがてぇ。

練習にも熱が入り、チームワークもバッチリ!!

自分でもそれなりに手応えを感じることが出来てきた。


でも翌日にライブを控えた夜、私は違和感を感じていた。


「喉が……イガイガする……まさか……」


これはのどを痛めたくさい。

まだ発声出来るが、ライブが終わるまで持つかはわからない。


(どうする……? つばさ先輩に声をかけるか? いや、もうここまで来たんだ。下手な心配はかけられないッ!!)


そして当日がやってきた。

のどのことを忘れるくらい私はガチガチにキンチョーしてしまった。

一方、先輩方はまったく緊張している様子がない。

知里子ちりこ先輩でさえだ。あるぇ⁉ 皆、本番に強いタイプなの⁉


気づけば私はマイクの前に立っていた。


「イェーイ!! 期待のルーキー!! アイっち〜〜〜!!」


いかん。体が動かん。


「や、やほ」


陰キャ丸出しのリアクションだ。


「キャ〜〜〜!!」


「あ〜いちゃ〜〜〜ん!!」


黄色い声援が上がった。


「じゃ、Reviリヴァイ部のオリジナル曲"お願い お願いPhoenixフェニックス"!! 聞いてくれよな!!」


なぎさ先輩がスティックを打ち鳴らすと心臓が爆発しそうに高鳴った。

櫻子さくらこ先輩はキーボードをでるように旋律せんりつかなでていく。

知里子ちりこ先輩はたどたどしいながらも必死にベースを弾いている。

翼先輩はバンドに勢いをつけてエレキをかきならした。


そして私は皆との特訓を思い出しながら歌い出した。


「わ〜た〜し〜をリヴァイブしてよ!! おね〜が〜い〜Phoenix!! Phoenix!! ハイ!!」―――


耳が麻痺まひするほどの声援を浴びて、ふっきれた私は完璧に歌い上げることが出来た。


翌日、教室に入ると昨日のライブに感動したらしいクラスメートが集まってきた。

こんなにクラスの人々にもてはやされるのは始めてだ。うわ恥っず!!


「ねーねー、愛ちゃん!! もう1回、歌ってよ」


私はいい気になった。今度こそ主人公補正である。


「ヴァーダジオリヴァヴ〜!! ヴォ〜デーガァイ!! オーデーガイ!! ヴォニッ!!ヴォニッ!! ヴォイッ!!」


そう、私ののどは限界を超えて怪しげな呪詛じゅそのような低音に変わり果てていた。


あれ、なんだかみんな引いてんじゃん。どしたどした?


何が悪いのか全くわかんねぇ。


どうやら私の酷い音痴おんちまでは改善しなかったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る