閑話 座敷わらしによる事務所ツアー!
「あれ、これで録画できてるのかな?」
慣れない手つきでビデオカメラを構えながら、和装の男の子が首をかしげる。
「まあいいや。閻魔様見ってるー?えーっと、今日って何年だっけ。2000年過ぎたくらいかな?事務所が新しくなりましたー!童子君がお金とか手続きとか色々頑張ってくれたからねー」
今日から怪奇現象対策班の事務所が新しくなったのだ。
班長、酒呑童子があらゆるコネを使って手に入れた、地上3階地下2階建てのビル。
京都市内にあるということからも、ずいぶんと費用を要したことが想像できる。
もちろん、一見しただけでは、怪奇現象対策班の事務所だとはわからないようになっている。
今日は、酒呑童子から頼まれて、新しい事務所を閻魔大王に紹介する動画を撮っているのだ。
なんでも、閻魔大王が新事務所を見たいといって聞かないらしい。
地獄の王である彼が、地獄から離れるわけにいかないため、動画という形で見せることになったのだ。
「まずは1階!まあここは別に何もないかな。人間に見られてもばれないように、よくあるものしか置いてないし。たぶんほかのビルと同じでしょ」
1階には、ソファや傘立て等、普通のビルと変わらない見た目が広がっている。
ただ、非常用階段やエレベーターは、他の階につながっているので、専用のカードキーを持っていなければ使えないようになっている。
また、監視カメラは、死角がないようにビル全体に大量に設置されているため、見る人が見れば違和感を覚えるかもしれない。
「じゃあ次は2階!エレベーター出た後には、ちゃんと暗証番号付きの扉がついてるし、セキュリティは万全!でも番号2種類もあって僕も忘れちゃいそう」
エレベーターを降りた先には、狭い廊下が続いている。
複数の侵入者がいた場合、少しでも足止めができるよう、幅が狭くなっている。
さらに、幽霊などが壁をすり抜けられないよう、耐霊仕様の壁やドアなどでビルは建てられているため、人間以外からの襲撃にも備えがされている。
廊下の先には、事務所につながる扉が設置されており、8桁の暗証番号を入れなければ開けることができない。
その番号も通常用と、緊急用の2種類だ。
緊急用の番号は、扉が開錠されると同時に、班員全員のスマートフォンに連絡が行くようになっている。
「事務所にはみんなの机とか、パソコンとかいろいろだね。ほぼ使わないけど。あと奥の大きい机でみんなでご飯食べたり作戦会議したりかな~。あ、あと地下直通の通路もついてるね」
2階の事務所は、普通の事務所と同じく、班員全員分の机とパソコンが置かれている。
奥には、ミーティングなどで使える大きめの机が置かれており、大規模な任務の際に作戦会議で使用することが想定されている。
机付近には地下直通の階段もついており、地下への行き来が簡単にできるようになっている。
「じゃあ次はそのまま地下に行こっかな。3階と4階はみんなの部屋だから別に紹介しなくてもいいよね」
そういって座敷わらしは、地下へと直通する通路を下りる。
地下へは、この通路を通るか、地下1階にある駐車場からしか入ることができない。
武器などの倉庫にもなっているため、1階のロビーやエレベーターでは行くことができないようになっており、一見すると地下には駐車場しかないように見える。
「やっぱりここ寒いし暗いね。確か、オペレーション室みたいな名前だったかな?ユキちゃんがよくいるとこで、大きいパソコンとか、あとインカムとかも置いてるとこだよ。みんなの武器庫もここだね」
地下には、このビル内の防犯カメラ映像が映し出されるモニターや、任務の際オペレーションに使用する機材などが揃えられている。
基本的に雪女の彼女がオペレーションを担当する都合上、部屋の設定温度は常に低く設定されており、本人の希望で、アイスをストックするための冷凍庫も設置されている。
座敷わらしや、さとりは度々ユキの目を盗んでアイスをつまみ食いし、その度にユキから罰として、部屋の掃除などの家事を振られている。
さらに、部屋には武器庫も設置されており、それぞれ愛用の武器や、班員全員が揃って所持している、警棒や拳銃等の武器が厳重に保管されている。
「せっかく政府の偉い人にいっぱい武器貰ったのに、妖怪にはほぼ効かないしもったいないよね。地獄でなんかいい感じに改造できたりしないのかな」
冷凍庫から拝借したアイスを食べ、ぶつぶつと不満を垂らしながら、ビデオカメラを回す。
武器の手入れなどの管理も、しっかり者のユキに一任されている。
「ここら辺はみんなのお気に入りの武器だね。僕もそろそろ新しいの欲しいなぁ。前の呪具壊れちゃったし。あ、ほら、これ童子君の太刀だよ。あとさとりちゃんが使ってるのも」
班員はみな、それぞれの手に馴染む武器を所有している。
班長の酒呑童子は太刀を所持しており、任務の際必要に応じて持ち出している。
さとりは、怪奇現象対策班に配属後、酒呑童子から譲り受けた刀を使い続けている。
本人いわく、
「これしか使ったことないけど、軽くて丈夫で一番使いやすい!」
とのこと。
ユキや酒呑童子も、初めの方は他の種類の武器も試すよう勧めていたが、この太刀を使っている時の任務の達成率が異様に高く、現在は他の刀も試せという声は出ていない。
「よし、これで、大体全部見終わったかな。見てないとこもあるかもだけど、大体こんなもんでしょ。あんまり長すぎても良くないし、閻魔様忙しいから、これくらいでよさそう!そういえば、これどうやって撮影終わるんだろう?」
カメラのボタンを片っ端から押し、ようやく撮影を終え、自室に引き上げていく座敷わらし。
部屋には日頃から収集している、おもちゃが大量に置かれており、今日も任務までは、それで暇を潰すのだ。
何百年生きようと、子供心を忘れてしまうようでは、死んでいるのと同じだ。
定期的に手入れも欠かさず、数百年物のおもちゃも、まだまだ現役として遊ばれている。
「今日は......花子さん達も呼んで、みんなでおままごとでもしよっかな!」
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