N.C.006 資産の公有化

 科学、芸術、産業など各方面の世界的な賞の元締めを連邦政府が行う旨が発表された。

 実際の運営はこれまでと変わらないと発表しているが、資金面を政府が取り扱うことになったため、事実上政府が中心となって運営されるのではないかと不安に思う声が各所から上がっている。

 更には、将来的にはこれらの賞を廃止する目論見があるのではないかなどの憶測も飛び交っている。


  *  *  *


 ――話はこの発表の数日前に遡る。


「なんだよこれ!?」


 ある世界的な科学賞を授与している財団に突然届いた一通のメール。

 その内容は『財団が所有している資産を全て連邦政府が保護・管理し、財団はそこから必要分だけを政府に申告し、運営すること』という内容のものだった。

 もちろん財団内ではこれに反対する意見がほとんどを占め、財団として反発する姿勢で行こうとしたのだが、


「こちらは連邦警察である。財団の資産を預かりに来た。こちらの書類にサインをして頂こう」

「財団としては今回の件は断じて受け入れらるものではない。残念だがあなたたちには帰って頂きたい」

「今回の件は連邦政府より命じられたものである。これは決定事項であり、そのようなことを言われたからと言って『はいそうですか』と帰るようなものではないのだ。ご協力願いたい」


 そんな口論の最中、一人の男性が財団の建物から出てきて話に割り込んできた。その男性はもう若くなく、頭には白髪が生えていた。


「だからこちらとしては――「わかった。良いだろう」

「何をふざけたこと言っているのですか!」

「本来ならば私の一存で決められないことなど分かっている。ただ、このままでこの言い争いに決着が付くと思えるか。どう考えても平行線にしかならないだろう。それならあちらのほうが有利だ。公的権力に対してただの民間の財団がどこまで抗えるというのだね。それならまだ早々にに折れたほうがまだよい将来も見えてくるのではないかね」

「ご協力感謝します」

「私の処遇はどうだっていい。ただ私は財団のより良い未来を願っているぞ」




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