世界の狭間にて
角野一樹
N.C.001 世界連邦樹立
西暦3XXX年に世界連邦が樹立され、年号を
また、連邦議会の議長には、公平を期すためにAIが使われることが連邦政府より正式に発表された。
このAIは、多国籍のメンバーで構成された研究チームによって作られているとのことだ。
しかし、研究に携わっているメンバーの国籍にも偏りがないとは言い切れず、『それで本当に公平な議会の進行ができるのか』というような否定的な意見もある。
この研究チームのリーダーの名はリチャード。彼は世界連邦の主軸となっている国の一つ、A国から選出されたメンバーであり、研究成果自体は素晴らしいものを多く発表しているが、『A国の息がかかっているのではないか』などといった意見も出ているのもまた、事実である。
* * *
リチャードは悩んでいた。
研究所でいつも通り研究をしていたら、突然にA国から『連邦議会で議長を務めさせるAIを作るプロジェクトチームのリーダーに選出された。この後迎えに行くので研究所で待機しておくように』という通知が来たからだった。
リチャード自身は議長は人間が務めるべきものであり、AIはその補助に留めておくべきだという考えを持っていたからだ。
そこでリチャードは一緒に研究をしていたリアムに相談をした。
「なあリアム、俺はこのプロジェクトに参加したくない。AIに政治を委ねてはいけない。俺はそう思うんだ」
「じゃあそんな通知を無視して逃げたらいいんじゃないか?」
「それもそうなんだが、連邦政府から逃げ切れると思うか?」
「それは無理かもしれない。ただ、逃げ切れるかどうかが問題ではない。重要なのは君がこのプロジェクトに参加したくないということを表明することだ」
「じゃあそれをどうやって世界に示すというのだ?教えてくれよ」
「それをこれから一緒に考えていこうじゃないか」
そんな話をしていた矢先、研究所のベルが鳴った。
「ちょっと様子を見てくるから、リチャードはここで待っててくれ」
「いや待ってくれ、俺も一緒に行く」
「ダメだ。お前はここで待っているんだ」
「なんでだ――「わかったな」
「まっ……」
リアムは俺を置いて行ってしまった。
今までにあんな強い口調で話をされたことがあっただろうか。
何かそれぐらいのことがあるのだろうか。
そんなことを考えていると外から声が聞こえてきた。
誰かがもめているようだ。しかも、その一人は聞き慣れたリアムの声のように聞こえる。
心配になって外へ出てみると、そこではリアムと連邦警察が口論になっていた。
「リアム、お前何してるんだよ!」
「だって――「連邦警察です。この度はリチャード様を護送する任を任ぜられたためここに参りました」
そういって連邦警察の連中は俺を両脇から抱きかかえてきた。
これだと俺が犯罪者みたいじゃないか。
護送ってなんだよ護送って。連行の間違いなんじゃないか。
「リアムは大丈夫なのか?」
「ご安心ください。本来ならば公務執行妨害などにになりますが、今回は特例ですので皆さんを罪に問うようなことは致しません」
こいつら、さっきの話も聞いていやがったのか。
しかし、屈強な二人に両脇から抱え込まれてしまえば、ただの研究者風情ではどうにもすることができない。
俺は無理矢理笑顔を作り、リアムに向けてサムズアップをすることぐらいしかできずに、そのままパトカーに乗せられどこかへと運ばれていった。
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