第3話 宮
「この子っぽいね」
「え」
「はやく尾行するよ」
そう言ってアルスは、自転車に乗って遠ざかっている宮の背中に向かって走り出した。
俺もアルスについていった。
霊の移動スピードはとても速い。車で例えるなら、時速100キロメートルぐらいだ。俺たちはすぐにターゲットに追いついた。
きちんと整えられた漆黒の髪、丸くてやわらかい顔、がっしりとした筋肉でできている体。
覚えている。そして、この姿を見てなぜか気分が悪くなった。
「制服着ているね。お……ここ頭良いとこの高校のだったよね。玲くんもこの学校だった?」
「そうだっけ……」
ミヤ、みや、宮……友達、だったかな?
ただ言える事として、彼の笑顔を見ていると、胸がズキズキと痛くなってくる。不思議な感情だ。
「玲くん、彼のこと嫌い?」
「……分からない。でも、なんかいやだ」
アルスは奇異そうな表情を見せながら、ふうんと頷いた。
それから宮は十分ぐらい自転車で走り続け、学校に着き、校内へ入っていった。
時間感覚が人間の頃と違う、いつもより時が経つのが早い気がする。
「あれ」
いつの間にか宮を見失ってしまっていた。
この高校は私立らしく、校内がとても広かった。宮って、今何年生なのかな。ってか、俺が死んでからどれくらい経ったのだろうか。
色々な教室を廻り、宮がいないか、隅々まで探した。それでも、彼を見つけることはできなかった。
そうこうしている内に、時計を見てみると、十二時半を超えていた。
たくさんの学生たちが食堂へぞろぞろと入っていっている。
「人多いなー。アルス、宮の教室がどこなのかは資料に書いていないの。その資料、俺の周りに関する色々な情報が載っているんだろ」
「そうだけど、そこまで詳しくは……あ」
アルスは思いついたような表情をして、瞑想し出した。
数分後、アルスは目をかっと開いて真上を指差した。
「あそこの方向にいる」
「えーと、あの方向と距離は……1年3組。教室の位置は3階だね」
「どうやって場所分かったの?」
「宮の声はインプットしていたから、あとは空にさまよい続けている声たちを聞き分け、彼の声を探しただけ」
「……」
アルスはそのまま空中浮遊して上へ上がっていった。階段を登らなくてもよいのが人間の時より楽な事だ。
「ああ、ここだ。そして宮くん発見」
教室の中には観葉植物が棚に置かれていて、窓からもたくさんの木が見える。この自然の感じ、いい。教室の真ん中で宮と数人の男子が固まって弁当を食べていた。
宮たちは、今流行っているアニメの話や、おもしろ動画について楽しそうに話し合っていた。
「ふーん、人間ってこんなにどうでもいい事を話すんだね」
「まあ、話すのに目的を持つ必要は無いと思うけど」
それにしても、俺と宮、どんな関係だったっけ。仲良かったのかな? いや……もしかしたらその逆?
頭がずきんと痛んだ。
「なあ、おまえ最近元気ないよな」
ある一人の男の子が宮にそう話しかけた。宮はちょっと驚いたような表情を見せた。
「そう? そう見える?」
「うん。なんかこの一ヶ月、笑っている時さ、いつも無理してそうな感じ」
「俺はいつも通りに見えるけどな」
数人の男子が話し合っている中、宮はにっこりと笑っていた。だが、霊となった俺にはその笑顔が作り物である事はすぐに分かった。
「ねえ、もしかして玲くんのこと……」
「あいつの事なんかどうでもいい」
急な宮の冷徹な声が周りにいた男子たちの空気を急速に凍り付かせた。俺も、今さっきまで発せられていた温和な声からの急な変わりように身震いした。いや、それよりも……。
「あいつの存在を思い出させるんじゃねえ」
そこまで言う? 友達じゃなかったとしても仮にも死んでいるクラスメイトにだぞ。
俺は宮に対してなんか無性にイラついた。そして、そのままの流れで宮のお腹を思い切り殴った。
「玲くんバカ、なにしてんの?」
「霊は人間に触れられないから別に大丈夫……」
「大丈夫じゃない。彼を見てみて」
宮の方を見ると、彼は苦しそうにお腹を抱えこんでいた。
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