第3話

 ゲームの開始地点は、ログアウトした宿の一部屋だ。

 先に殺人掲示板を見てから行動を開始しようと思う。街に出て速攻殺されるのは普通に嫌だ。

 

【殺人掲示板:文句があるなら殺せ文句がなくても殺せ】

 78.殺人鬼

 午前中に銀髪幼女がいたから殺しったったww


 79.殺人鬼

 幼女かよ

 美女なら食いつくのに……


 80.殺人鬼

 もしやお前ロリコンか?


 81.殺人鬼

 ロ、ロリコンじゃねーし!!


 82.殺人鬼

 認めろって、前のスレでも幼女殺してたろ?


 83.殺人鬼

 いや、違うって!


 84.殺人鬼

 世の中にはもっとヤバい性癖の奴がいるって


 85.NTR殺人鬼

 そうだぞ

 俺みたいなNTR物が好きって奴もいるんだぞ?


 86.殺人鬼

 おい、この殺人鬼ヤバいぞ

 いろんな意味で!!


 87.殺人鬼

 誰かここに衛兵を読んで来い!


 88.殺人鬼

 呼んだら俺らも一緒に連れて行かれるんだけど……


 89.ロリコン殺人鬼

 これがお前たちの望みか!


 90.NTR殺人鬼

 ついに認めたか!


 91.殺人鬼

 時間がかかったな!


 ……この不毛なやり取りが10分くらい続いた。

 もういいからこのお題にあった会話でもしろよ。


 256.殺人鬼

 話し戻るけど、その銀髪幼女にどうやって襲わせたんだ?


 257.ロリコン殺人鬼

 心臓一突きで終ったけど……


 258.NTR殺人鬼

 あれ?

 可笑しくないか?


 259.ロリコン殺人鬼

 なにがだ?


 260.殺人鬼

 どう考えても可笑しい

 子供には保護機能があるだろ


 261.殺人鬼

 保護機能か!


 262.ロリコン殺人鬼

 すんなり殺せたから逆に受け入れてたわ


 ……あ、保護機能のこと普通に忘れてた。

 若返っても肉体だけで、精神は若返ってないから機能しないのか?

 このゲームのAIも結構凄いけどプログラムとかどうなってんだよ……。


 ――そのあとも殺人鬼達はお題に合わないやり取りをしていった。


「これ以上は見ていても意味が無さそうだな」


 掲示板を閉じ宿を出た。

 朝と同じく軽く町を見周り、気になるお店やアイテムが落ちてないかを確認している。

 路地裏や人気の少ない所は一回刺されてるので、もう少し強くなったら行こうと思う。


「次はどこ行こうかな……」


 周りを見ながら歩いていると、珍しいお店があった。

 八芒星のマークが書いてある看板の下に『スキル屋』と書いてある。


「他のゲームでも武器屋や防具屋は見るけどスキル屋とか見たことないな……」


 昔ながらのRPGでならたまに見るけどテレビゲームやPCゲームだとそこまで見ないし。

 まぁ、気になったし入ってみるのも良いかもな。

 ドアに付けられていたベルが「カランカラン」と音が鳴った。


「喫茶店みたい……」


 言葉通り、喫茶店みたいな内装で椅子と机が置かれてある。窓ガラスのおかげで室内は明るく、外では演奏する人たちの音がBGMのように聞こえてくる。


「いらっしゃいませ、お席はご自由にお座りください」

「……あ、はい」


 店内の雰囲気とマスターがマッチし過ぎていて背景の一部としてとらえてしまった。


「ご注文がお決まりになりましたら横にある呼び鈴でお呼びください」


 言い終わるとカウンターの方へ戻っていった。

 確認すると2つのメニュー表を確認する。1つ目はコーヒーや洋菓子などの飲食品のメニューが表示されている。

 なんかフツーのメニューっぽいな。

 もう一つには【採取】【採掘】【伐採】【料理】【釣り】などの採取系スキルから【鍛冶】【木工】【製作】【裁縫】などの加工系、【火魔法】【水魔法】【風魔法】【土魔法】などの魔法系、【片手剣】【短槍】【戦鎚】【長弓】などの武術系のスキルに大別されている。

 おお、思ったよりスキルが多いな。

 それに横に書いてある値段が――


 『採取』

【採取】―――――320ギット

【採掘】―――――460ギット

【伐採】―――――460ギット


 ………


 『生産』

【鍛冶】―――――1000ギット

【木工】―――――980ギット


 ………


 『武術』

【片手剣】――――7600ギット

【短槍】―――――7600ギット


 ………


 『魔法』

【火魔法】――――8400ギット

【水魔法】――――8400ギット


 メッチャ高い……。

 こんなの買えるやついんの?

 そんな中でも採取系と生産系ぐらいが所持金的にも手が出せるラインだ。


「おっ、もっと安いのがある」


【錬金術】――――216ギット


「これなら買えるけど安すぎないか?」


 安いに越したことはないがここまで安いと何かあるとしか思えないな。

 でも錬金術は結構興味あるし、内容次第では買ってみよ。

 

「後はカフェオレもたのもっと」


 ベルを鳴らしたらすぐにマスターがやって来た。


「ご注文はお決まりでしょうか?お決まりでしたらお伺いいたします」

「えーっと、カフェオレとこっちの錬金術を一つずつください」

「かしこまりました。すぐにお持ちします」


 本当に数分もせず、あっという間に持ってきた。


「ご注文のカフェオレとスキルの錬金術です」

「スキル?」


 お皿には八芒星がクッキーみたいに乗せられている。

 この薄い八芒星の立体は食うのか?


「これはどうすれば良いんですか?」

「その結晶を飲み物に入れる方やそのまま食べられる方がいらっしゃいます」

「食べる……」


 これ胃荒れとか内臓傷付けたりしないよね。


「この結晶は熱や酸に溶る性質かあります。味は人によって変わりますが基本は苦味です」

「へぇー」


 じゃあカフェオレにでも溶かそうかな。


「ありがとうございます」

「いえいえ、それでは失礼致します」


 十個あった結晶をカフェオレに入れ飲んでみる。


「うん、苦い……」


 舌まで変わったのかブラックコーヒーを苦も無く普通に飲めていたはずが今は苦すぎる……。


「まあ頼んじゃった物はしょうがないし飲んじゃお」


 それに次からはもうコーヒー系は飲まない。

 飲み終わると体が光、数分でおさまった。


「おぉ、おさまった!」


 ステイタスを開き確認すると――


 スキル:錬金術Lv1


 ついにこの貧弱ステイタスに錬金術というスキルが追加された。


 錬金術Lv1『変換』

 天秤を使用してスキルを使う。


 天秤か……。

 錬金術も使ってみたいし買いに行くか!

 席を立ち、伝票を持ってレジに向かう。


「お会計、636ギットになります」


 ゲッ、全額持っていかれるのか…………。

 心の中で涙を流しながら払う。


「お嬢さん、これおどうぞ」


 そう言って、キャンディーをくれた。

 俺そんなに泣きそうな顔でもしてたのか……。


「ありがとございます」


 まぁ、貰える物は貰っとこ。

 入ってきたときのようにカランカランと言う音がドアを開けると同時になった。

 マスターはニコニコして手を振ってくれた。


「また来ます」


 それが何気に嬉しくて俺もそんなことを言い笑顔で手を振った。



   *** ** ***



 お金は無い、それじゃあ一狩りいてみよう!!

 道やゴミ箱にある素材の回収は無視して、町の外に出るために走る。

 さっさとお金をためて天秤や錬金術関連の道具全部集めて色々作る。

 だから昼間のようにはいかねぇぜ、スライムやろう!!


 アニメのようにスライムの目の前に滑るように現れたかったが、勢いを殺せなかったのと他のスライムに躓いて勢い良く転けた。

 それは盛大に転けた。


 ――フードが捲れるくらいに


「イテテ……」


 転んでダメージ1は入ったが普通のプレイヤーだったらまず入らない。


「転んだけど狩りをしますか!」



   *** ** ***



 周りで狩りをしていた者は、一人の少女に注目していた。

 瞳が深紅で髪からは水色の光る粒子を纏っていた。


「……かわいい」

「あれ、地毛なのか?」

「あ、また攻撃くらってる」

「避けられた」

「また避けられてる」

「スライムがドヤってる」

「あそこまで攻撃って当たらんもんか?」


 周囲ではスライム相手にミスりまくるレンに注目している。だが注目していてもスライム程度には後れを取らず、処理していった。

 まぁ、初心者の人は処理できずに攻撃を受けていた者もいる。


「髪から出てる光も何なんだ?」

「装備であるんじゃないか?」

「効果も知りたいし防具屋巡りでもするか!」

「おう!!」


「邪魔だ」


 スライムを切りつけながら少女を見る。

 周りの奴らの言う通り髪もそうだがスライム程度にHP回復ポーションをもう2本も飲んだぞ……。

 

「あいつソロで戦ってるが本当に大丈夫か?」


 周りは狩りより‶少女vsスライム"の観戦をしている。しまいには録画して掲示板に乗せる奴もいた。それも勝っている所じゃなく背中に乗られ跳ねられている所だったり、剣を振ったときにそのままコケてしまった所をアップされて一部では笑われ、一部ではコケてる所や動きが可愛らしいと愛でられている。



   *** ** ***



「これで二体目……」


 やっぱ俺って戦闘のセンスが無いのか?

 いや、ステータスの素早さをあげればなんとかなるか。


「あと二体倒したら道具やよって値段とかの確認だな」


 戦って行くうちに行動パターンが出て来るはずだが、それがなく敵にまでAIが使われているからか、攻撃予兆が無い。

 スライムが攻撃前にプルプルするが戦闘時以外の時もプルプルしているので判断できなかった。

 プルプルしている姿は触り心地がよさそうなのに、俺の紙装甲だったら結構なダメージを貰う。

 なんかホント泣けてくるね……。

 まぁ、攻撃方法は4つだけだったし大丈夫と思うけど。

 体当たり、拘束、酸を飛ばす、捕食攻撃を全てくらった身からするとこれ以上あったら勝のに何回死ぬか分かったものじゃない。


「よし!HP残り10で倒せた」


 レイ:+2Expを獲得しました。

    『スライムの核』を手に入れました。

 レイはLevelUPしました。


  Lv1 → Lv2


 レベルポイント:100

 スキルポイント:2を獲得しました。


 お、液体じゃなくて今回は結晶の方か!

 これって結晶じゃなくて核なんだ。

 前はHP5以下になって倒す事がほとんどだったが、今回は運よく拘束時に剣を出鱈目に振ってたの当たり何とかなった。


「レベルアップしたしもう一匹狩りに行くか」


 ………


 ハイ、調子に乗りました。

 今、絶賛消化されています。


「ゴボォボボボォォボォボオアォオオ!!」


 死んでしまったのでログアウトされた。対人戦だと10分だがモンスター相手だと5分で再度ログインできる。

 窒息死後、消化されて食べられましたとさ。

 はぁ、痛い、めちゃくちゃ痛い。今も全身ヒリヒリして服が擦れただけでゾワゾワする。

 何故あの時もう一匹と言って行ったのか……。


「レベルアップしたからなんだけどな!」


 思い出した対人戦ならお金は手に入るがモンスターだと手に入らない。


「ログインしたら素材でも売ってお金に換えるかぁ~あ」


 眠い……。


「時間は――」


 ――01時07分だと!?


「11時ぐらいだと思ったのに……それならもう寝よ」


 明日も休みだし今…らが楽…み…だ……。



   *** ** ***



 今日の仕事は荷運びと食材確認、調理作業ぐらいじゃなかったかな。

 仕事は着実に進めていった。

 途中問題が起こり上司のところまで走らされることあったり、調理中に指先を切ってしまったが痛みはなかった。だが慌ててしまい迷惑をかけてしまった。

 仕事を頑張ったぶんだけあり、今日は倒れるように天蓋付きのベットに入った。

 目を閉じればすぐに眠れそうなのに……。


「クゥン~」


 枕越しに哀しそうな鳴き声が聞こえてくる。

 その声に恐怖し目を開けれず、夜は眠れずに過ごした。声が止むがそんなすぐには開けれず、それから20分後にやっと目を開けれた。

 不眠でも仕事は今日もある。

 昨日と同じ仕事を繰り返すように終わらしていき、昨日怪我した指先は綺麗に元に治っていた。

 事務室に持って行く資料を何故か調理場に持って行った後輩の後始末として調理場に行ったり来たりと忙しなく働いていると眠気も吹っ飛んだ。

 だがベットに行くと昨日寝てないぶん眠気がキツい。


「クゥン~」


 また枕越しに哀しそうな犬の鳴き声。


「クゥ、クゥ……」

「あらあら?可愛い坊や」


 艶めかしい女の子の声が聞こえた。

 枕越しじゃない。耳のすぐ横にいるような存在感がある。犬みたいな存在感の無いという訳では無いから怖くはない。だが声を聴いていると何故だか酷く鳥肌が立つ。


「クゥン~」

「そう焦らないの。坊や~おきてるんでしょ?」


 その後も「おきてるよね?」「寝たふりはダメよ」「寝たふり?」犬の鳴き声も絶え間なく聞こえ鳥肌がやむことがない。


「もう、このまま寝たふりするなら――」


 布越しだがキスをされた。

 布越しなハズなのに貪るように舌を吸われた。


「オ・イ・シッ❤もっと頂戴❤」


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いコワいコワいコワいコワいコワいコワいコワい――――――こわい――――――



   *** ** ***



 あれ、止んだ。

 布団の中で目を開けず舌が吸われる感覚が止んでから10分後に目を開けれた。

 なに、あれ夢なの……?

 悪夢過ぎるだろ。でも最後のディープキス、怖かったけどディープキスされたって事は欲求不満だったのか?


「てか今何時?」


 ――03時19分13秒


「二時間しか寝れてないのかよ……」


 悪夢が酷すぎて眠気が一気に吹っ飛んだ。


「うわぁ、寝汗酷過ぎ……風呂入ろ」


 パパッと身体洗って風呂から出る。

 風呂から出た後も心臓の鼓動がまだドクドクと早く落ち着かず、護身用に包丁を布でぐるぐる巻きにして近くに置いておきパソコンで動画や漫画を読み心を落ち着かせた。


 ――05時21分42秒




「よしゲームしよ!」



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