乙女たちのサムライブレード

亜未田久志

第1話 無法地帯「日輪」


 日輪ひのわ。それは日夜、戦闘行為が繰り広げられる無法地帯。そんな過酷環境で戦闘能力のないものが暮らす事は不可能に近い。だからカナメは刀を振るった。己を守るために。

「さてと……始めますか」

 構え、からの跳躍、その高さは常人のそれではなかった。「異能」が蔓延る日輪では珍しくない光景。

「見えた! カナメ一刀流『虚月うろづき』」

 刀から斬撃が飛ぶ、それは確かに対象を捕らえた。しかし――

「いってぇなあ……誰だ?」

 その巨躯は揺るがない。ゆうに二メートルは超える身長を持つ乙女に斬撃は通っていなかった。

「ねえ! 貴女が賞金首で合ってる?!」

「知るか! そんなこと!」

「じゃあ首を持って帰って依頼主に確かめるわ!」

 巨躯から放たれる拳を空中でモロに受けカナメは吹き飛んだ。ビルに突っ込んで壁をぶち抜く。

「効いたわ……貴女の拳……次はこっちの番。虚月でダメなら!」

 刀を十文字に斬り結ぶ、交差した斬撃はまたしても相手に向かって飛んでいく。

「カナメ一刀流『不知火鮮血しらぬいせんけつ』」

 血飛沫が、舞う。月夜が赤で彩られる。それは儚くも美しい乙女の命の様。

「てめぇ!」

「今度は効いたみたいね。これで終わりよ。カナメ一刀流、奥義『紅竜神こうりゅうじん』!」

 その時、巨躯の乙女は確かに見た。

 竜の幻影を。

 それほどまでに剣筋が美しく。

 過酷なほど。

 強かった。

「がはっ……」

 首が刎ねられる。

 一撃。

 斬撃を通さないほどの硬度を持っていたはずの皮膚を切り裂いた竜の神はその首を主の下に持ち帰る。

 カナメはそれを受け取ると満足そうに頷いた。

「依頼完了♡」

 

 このような物騒な世界で。

 彼女たちは生きている。

 そしてもう一人の少女――周防林檎すおうりんごもまた例外ではなかった。

『当該地区にて異能を検知、噂の「サムライブレード」かと』

「……金のためなら殺しもいとわない……下種が」

 そう、林檎は吐き捨てる。

「私の『光蛇こうじゃ』で捕縛する」

『ご武運を』

 通信が切れる。

 日輪を再開発するために結成された武装集団『RE:UNION』

 その筆頭である林檎が今、彼の地に舞い降りる。

「いくぞ光蛇、闇を飲み込め」

 眩い光と共に長い長い胴体とその末端に大顎が現れる。

 使役タイプの異能。

 それに乗り林檎は


 ここから二人の因縁が始まる。


「ん?」

 光が落ちる。

 それはカナメを直撃する。

「捉えたぞサムライブレード」

「不意打ちとは卑怯ね? RE:UNIONさん」

 光を刀――型の異能、武器タイプの異能で受け止めたカナメ。

「今、血を浴びたばかりなの。お風呂に入らせてくれる?」

「黙れ」

「そう、なら上等。喧嘩は買ってでもやる主義よ!」

 刀と蛇が夜に踊る。

 それはまるで剣舞。

 一つの歌劇のよう。

 だがそれは確かに。

 命を賭けた『死闘』だった。


――つづく

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