受諾

建物から出るとそこは静かな、しかして鋭利な緊張感で包まれていた。


建物の前には大きなトラックが止められ、その周りを囲むように重武装した男達。


何度か見た事がある。


A級ハンターパーティ『紫電』。


雷を操る異能力者ESP、レディ・ダニエルを筆頭に結成されたスカベンジャーチーム。


遺跡探索を主軸に活動する彼等ではあるが、たった20人程度の人数でいくつもの遺跡を完全踏破した彼等が弱い訳がない。


間違いなく強敵だ。

過度の緊張感で指先がピリつく。



「ねぇ、キョウ。ハンターの流儀って何?」


僕の後ろで身を小さくした桜花が声を固くして質問して来る。


「ハンター同士が揉めた時の伝統的な解決方法さ。代表者による1体1の決闘。言わばタイマンだね。」


「なるほど。中々乱暴、前時代的……いえ、シンプルで分かりやすい解決方法ですね。」


鈴木氏が何だか言い難そうに相槌を打つ。

機械の倫理観は分からないが、兄弟を破壊されて色々思う所もあるのかもしれない。


「―――ふふふ。素直に仲間を破壊し尽した野蛮人にはお似合いの流儀だと言ってもいいのよ? さて、こうやって話をするのは初めてかしらね。『絶影』の坊や。」


派手な紫髪をたなびかせ、その鍛えこまれた筋肉を見せるように薄いボディスーツだけを身にまとった男。


レディ・ダニエルだ。


胸元なんか筋肉を誇張するため全開だが、ボディスーツの意味はあるのだろうか?



「これは私達からのみっともない恥知らずな命乞いだと思ってくれて良いわ。遺跡を先に攻略し、目標を先に手に入れたのは貴方。知らなかったとは言え、私達はそれに横槍を入れた無法者……。」


恥知らずな命乞いをしているとは思えない、自信満々のバンプアップを見せてくるレディ・ダニエル。


筋肉が煩いな……。


「一応、聞いておくけど。ごめんなさいで済ませてくれるなら喜んでそうするのだけど、それじゃあ駄目かしら? 何なら1晩くらいなら付き合ってあげても良いわよ?」


「―――無理だね。そこまでアンタ達を信用出来ない。」



所詮、僕は吹けば飛ぶようなソロハンター。

この場を戦わずに切り抜けられても街に帰って改めて襲われたらどうしようもない。


「……でしょうね。仮に私達が手出しをしなくても、他の有象無象が貴方を襲うわ。」


その通りだ。

この世は弱肉強食。


しかも、それは単純な強い弱いじゃなく、組織力や政治力も絡む複雑怪奇な構造だ。


「だから僕としてはアンタ達を殲滅させて僕が口をつぐめば解決すると思うんだけど……。」


「アンタまだ言ってんの!? ホントに殴るわよ!? 何か問題起こる度に関係者全員殺すとかどんな鬱を拗らせたらそうなるのよ! アンタそんな事ばっかりしてるから友達いないのよ? 」


また桜花が怒る。

手っ取り早い解決策だと思うのだが……。


それに僕に友達がいないなんて何を根拠に言い切れるんだ? ……いや、確かにいないけどさ。


「まぁ、そのお嬢ちゃんの言う通りね。そこで、ハンターの流儀。決闘が出て来るのよ。

―――案外知らない奴が多いんだけど、これってハンターギルドの正式手続きを踏むと公的な決定力があるのよね。」


「……続けてくれ。」


「ハンターライセンスに付いてる機能を使って正式に認められた決闘の結果はギルドのお墨付きを貰えるの。簡単に言うと、決闘の結果を覆す様な真似をするとギルド全体を敵に回す事になるわ。当然、第三者のちゃちゃ入れもね。」


……なるほど。落とし所としては悪くない様な気がする。


「勝った方が総取り―――ってのは私達に都合が良すぎるから、私が勝ったらアンタ達が手に入れた遺物の半分の権利を主張するわ。逆にアンタが勝てば全ての拾得物の権利と……そうね。アンタ達3人の新居を私が用意してあげるってのはどう?」



……は? 新居?


「どうせアンタの家ってセキュリティも何にもなさそうなボロ屋でしょ? いくら警備ロボットが付いてるって言ってもそんな可愛い子を迎えるには分不相応だと思うのよね。」


何を言っているんだ?この筋肉ダルマ。


思ってもいなかった提案に思考が停止する。



「賛成! 賛成! 賛成!」


僕の後ろでぴょこぴょこ飛び跳ねる桜花。


お前も何を言ってる?


「私としてはメンテナンスが出来る部屋があればそれで構いませんが……。」


お前もか!? 鈴木氏!



「……お前達の家はここだろう? 何でわざわざ僕なんかと……。」


「何か楽しそうだから! 昔から外に出たいなとは思ってたし!」


「私としても折角出来た友人ですしね。」



あっけらかんと好き勝手を言い出す2人。


……もう好きにしてくれ。

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