ハンターの流儀

「アンタ、バッカじゃない!? 何て恐ろしい奴を呼び込んでんのよ!! 」


レディ・ダニエルがスギヤマに叫ぶ。


「な、何がだ!? あ、あいつの噂は聞いた事はあるが、所詮は骨董品の銃しか持たないD級ハンターの子どもなんだろう!? 高級装備に身を固めたお前達なら―――!」


「ハンターランクは戦闘能力と直結しないし、その高級な銃の引き金を引く前に全員殺されてんのよっ!! 」


吐き捨てるようにレディ・ダニエルがスギヤマを怒鳴りつける。


実際はそんな簡単な理屈ではない。

しかし、『絶影』はそれをどんな時も常にやり続けて今の立ち位置にいる。


あの死神と戦うのであれば知覚できない程の距離からの遠距離狙撃か、銃弾を通さないアーマーで全身を護るか、放つ銃弾の数より多人数で襲うしかない。


(―――現状じゃ3番目の愚策しかないって言うのが泣きたいところね……。)



「姐さん……。ここは引くのも手ですぜ?」


「あぁ、あんなイカレた餓鬼に付き合ってちゃこっちの身が持たねぇ……。」


次々に撤退を進言する『紫電』のメンバー達。


既に仕事は想定から大きく外れている。

確かに彼等とて自分が死ぬ事は勘定に入ってはいるが、死神を相手に大立ち回りをする想定はしてはいない。



「この馬鹿っ! ウチの大切なメンバーを5人も殺られて、イモ引いてられないのよっ!」


レディ・ダニエルは仲間を一喝する。


彼女にとって仲間は掛け替えのない存在。

それを5人も目の前で殺されて引くという選択肢は彼女には取れない。



『あー、勘違いしている所悪いが、全員ちゃんと生きているぞ? 殺そうとしたら桜花に怒られたんだ。』



通信機からの音声が理解出来ず、一瞬思考が停止するレディ・ダニエル。


「……は? え? 待って。生きてるの……?」


『待ってろ。今見せる。』


ガシャアン!!


通信機から無感情な死神の声が聞こえたと同時に建物の窓ガラスが砕け散る。


あれは3階だろう。


割れた窓から『紫電』のα班の5人が見えた。



よく見ると全員がヘルメットにある識別信号の発信装置を撃ち抜かれている。


恐ろしいまでの技の冴え。僅か数cmの発信機を5人同時に撃ち抜いたのだ。



そして、何故か警備ロボットが無機質に機関銃を5人に突き付けている。


そのすぐ近くには一本角の軍用メットを被った『絶影』―――キョウが見えた。



有り得ない事態だ。

敵対したその全ての頭に銃弾を叩き込んで来た『絶影』が敵対者を生かして捕らえたなど聞いた事がなかった。



「絶影の坊や……。アンタ、その機械のお友達はどうしたの?」


レディ・ダニエルが知る限り、『絶影』は機械を操るスキルは持っていなかったはずだ。


(まさかこの遺跡で何かしらの力を……!?)



『―――友達! そ、そうか。僕と鈴木氏が友達に見えるのか……。と、友達が出来たのは初めてだ……。』


「え!? ピュア!!? 」


警備ロボットの事を皮肉ったつもりが、思ってもないピュアな返しに驚くレディ・ダニエル。



『……ごほん。あー、で、どうしようか? 僕としては今後の煩わしい後腐れがないように君達には全員死んで欲しいが、如何せんそれは桜花が怒るんだよ。何か良い落とし所の提案があるなら聞くよ? 』


予想外の事態は続く。

まさかの死神からの譲歩案の相談だ。


通信機を持つ『絶影』の後ろに見知らぬ女の子が見える。あの少女が桜花だろうか?



「あ、あれだ! あれが対象だっ!! よ、よし! あれをこちらに渡すなら生命は助けてやろう! さあ、シマダ君! 早く伝えるんだ! 」


ジロリと複雑な顔で興奮するスギヤマを見下ろすレディ・ダニエル。



「―――『絶影』。1つ聞かせなさい。その子はアンタのなに?」


『……何ってなんだよ。会ったばっかりで何もないだ―――え? いや、別に酷くはないだろ? ……分かってるよ。共に生きる、だろ?』


通信機の向こうで少女と話しているのだろう。

何だか甘酸っぱい感じの会話が聞こえる。



「ンーー! 良いわ! この初恋の芳しい香りっ! 仕方ないわね。『絶影』の坊や、降りてらっしゃい。ハンターの流儀で決めましょう!」


「なっ!? 何を言っているんだシマダ君!? そ、そうだ! あれは人造人間ヒューマノイド だから多少傷付けても問題はない! あの窓に対戦車ミサイルや君の雷を―――ぐっ!?」


笑顔のレディ・ダニエルがスギヤマの頭を左手で掴む。ミシミシとスギヤマの頭蓋骨が悲鳴をあげる。


「ねぇ、スギヤマちゃん。アタシ言ったわよね? 今度本名を呼んだら誓って100万ボルトのラリアットを喰らわすって。」


ドゴンっ!!!


帯電したレディ・ダニエルの発達した上腕二頭筋がスギヤマの顔面を捉え、まるで重機が衝突した様な音が響き渡る。



「あーあ……。姐さん、大丈夫なんですか?」


「あら、大丈夫よ。 『絶影』の坊やとのダブルブッキングで契約は御破算。むしろ慰謝料を請求出来るわ。それに、アタシ達を無理矢理働かせようとして手痛いしっぺ返しを食らうなんて当たり前の話よね?」


契約書って大事よねオホホホ!と手を口元に当てて笑うレディ・ダニエル。


「分かってて言ってるでしょ? 俺が言ってるのは『絶影』の餓鬼ですよ。ハンターの流儀で決めるって事は―――。」



―――決闘じゃあないですか。

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