ミュージアムと僕の話

「―――しかし、ここは何なんだ?」



姫様の矛先を逸らすためにちょっと強引に話を逸らす。


D級ハンターの僕からすると遺跡探索と言うのはボロボロの廃墟でゴミ漁りをする事だ。


ここまでちゃんと稼働している遺跡に入った事がないので多少は興味が出て来る。


「お? 何? 興味ある? しっかたないなぁ!

この桜花様が直々に教えてあげるわ! いい?こんなサービス滅多にないどころか、初めてなんだから感謝しなさいよね! 」


声と言うか、表情と動きが煩い子だな……。


「なぁによ? アンタ失礼な事考えたでしょ! そーゆうの分かるんだからねっ! 女の勘ってヤツが働くのよ! 」


人造人間ヒューマノイドなのに勘が鋭いとはこれ如何に?



「ふん! 良い? ここは産学連携の施設で、この建物は国立軍事産業National Institute of Advanced Military 研究所Industrial TechnologY。通称、AMITYアミティの軍事技術ミュージアムよ!! 」


「……軍事技術研究所なのに略称がアミティ友好とか皮肉が効いてて笑えるね。」


しかし、ミュージアム。博物館か……。

話には聞いた事あったけど、初めて来たな。


物珍しかったのでキョロキョロ周りを見ている僕を桜花が黙ってじっと見てくる。


「……何?」


訝しげに尋ねると桜花はずいっと顔を近付けて僕を覗き込む。


……近いな。この子距離感バグってない?


「アンタってどこかで高度な教育を受けてたりすんの? えっと……、外の言葉じゃ上級民とか言うんだっけ?」


「まさか! 僕は生まれも育ちも生粋の下級民。 スラム街のストリートチルドレンだよ。」


「それなのに何世紀も前の戦争で使われた特攻兵器の事を知っていたり、アミティに込められた皮肉に気付いたりしたの?」


なるほど。確かに人造人間ヒューマノイドとは言え、女の勘は侮れないらしい。



左右のこめかみ部分にあるスイッチを両方長押しする。ガシュ! っと音を立て愛用のヘルメットが前後に開いた。


あまり好きではない僕の素顔が現れる。


左の口元からこめかみに掛けて大きく抉れた傷跡。口元が裂けてまるで犬みたいに歯が剥き出しになっている。



「殺された父さんが色々教えてくれたんだ。

3年くらい前に、多分殺されちゃったけどね。」


「……多分って何よ? 」


「あんまり覚えてないんだ。覚えてるのは多分スラム街で生まれ育った事。父さんと呼んでいた人がいてその人から色々教えて貰ったって事。このヘルメットがその人の物だって事くらいかな? 気付いたら顔面傷だらけで瓦礫の上でこのヘルメットを持って倒れてたんだ。後は、そうだね―――。」


……よく考えたらこの話をちゃんと人にするのは初めてだったな。


もしかしたら僕は誰かに話を聞いて欲しかったのかも知れない。



「とても悲しかった事だけ覚えてる。」



不意に柔らかい感触が僕を包み込んだ。

桜花が抱き締めてくれたのだ。



「……ごめん。嫌な事思い出させたね。」



―――不思議だ。


何だか桜花からじんわりとした熱が伝わって来て、僕の心を満たしてくれる様な―――。



「―――ごほん。いくら人間ヒューマン人造人間ヒューマノイドとは言え、出会って間もない男女が抱き合う等どうかと思いますよ? 失礼ですが、お2人とも距離感がバグっておりませんか?」



鈴木氏の言葉で我に返った僕達はバッと抱き合うのを止めて離れた。



……………………。


……何だか気まずい雰囲気だ。



無言で愛用のヘルメットを被る。


まだじんわりと身体の表面に桜花の熱が残っている気がする。


いや、もしかしたらこれは僕自身の熱かもしれないな……。



「あー、えっと、お、桜花。良かったらここの事をもっと教えてくれないか? こんな所に来れる機会なんて早々ないだろうし……。」


「うん。うん! この桜花様にまっかせなさい! 何せ M・Mマシン・マザー計画が凍結してからずっとこのミュージアムにいるから何でも知ってるのよ! 私!」


楽しげな気持ちを全身で表現しながら桜花がその細い手を僕に差し出してくる。


「うん。お手柔らかに頼むよ。」


その柔らかい手を握り、ヘルメットの下で久しぶりに僕は笑う。




―――ミュージアムに展示されている様々な武器や兵器に興奮して触ろうとした僕にマジギレした鈴木氏が銃口を突き付けるまで残り三分。

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