機械姫

紳士的なゴミバケツ氏に案内された建物は埃一つ落ちていない綺麗な建物だった。


白を基調にした広い玄関ホール。

奥の方にはゆったりとスペースをとったオシャレな螺旋階段。


置いてある休憩用のソファもフカフカで、僕の万年床が単なるボロ布にしか思えない。


僕の住むあばら家とは大違いだ。

いや、むしろ比べる事すらおこがましい。



入って少しして、綺麗な壁に空いた僕がようやく入れるくらいの穴を発見する。


ここから侵入させるつもりだったのだろうな。


あの妖怪オヤジB・Bが今回の依頼をどこまで把握していたかは少し気になるが、あのオヤジも話の全容までは聞かされていないだろう。


その適当を許されるのがモグリの仲介屋であり、端金でこき使われるチンピラである。


つまり、僕には真実を知らされなかったことに対して怒る権利すらないのだ。



「―――しかし、僕に依頼してきた奴等は何をさせたかったんだろうな?」


個人なのか組織なのかは知らないが、単にこの穴から侵入させる為だけにわざわざ怪しい依頼をばら撒く必要がわからない。


「恐らくですが、私達に対する牽制とこの穴の修理に対する遅延工作だったのではないかと思います。昨日から散発的にここを目指して侵入する人間が来ておりますしね。」



ふむ?そう言えばさっきのミンチになった一団も僕と同じ部類のハンターだったのかもしれないな。


つまり、この穴を開けた奴らは自分達でこの建物へ侵入する事を諦めておらず、ここの警備ロボットの気を引く為に何人ものチンピラを雇ってはここに送り込んでいるのか……。


「有り得る話だ。僕らみたいなチンピラの扱いとしては至極正しい使い方だな。」


所詮は一山いくらのゴロツキだしね。




「―――何でそこで受け入れれるのよ? どう考えてもおかしい話でしょーが! 」



螺旋階段の上にやけに綺麗なキラキラした女の子がいた。


プラチナブロンドから毛先に向けてピンクブロンドになっている特徴的なツートンカラーのロングヘア。


やけに整った大きな瞳はゴールドだ。


うん。物理的にキラキラしてるね。



「鈴木がわっざわざ連れて来るって言うからどんな人間かと思ったら! アンタ自分の生命を何だと思ってる訳!? 気持ち悪いっ! 生物として気持ちが悪いわっ! 」


何やら酷い言われようである。


しかし、鈴木って誰だ?


「姫。そもそも私は姫に彼を会わせようとしたのではなく、彼がC棟に入りたがっていたから許可を得ただけですが? むしろ姫が会いたいと言うのでここで待ち合わせをしたのですよね? 」


「そんな私に都合の悪い事実、忘れたわ! 」



とんでもないパワハラを見た。

確かに姫っぽい子だ。姫カットだし。


「……君、鈴木っていうの?」


「はい。私達RX2-D2を設計したのが鈴木厳一郎博士なので、鈴木の姓を姫から頂きました。

私は936号なので、鈴木 九三六クサブローと言います。」


……なるほど。しかし、その名付け法則なら931号は鈴木クサイにならないか?


いや、僕は別に良いんだけどさ。



「そんな事よりもアンタよ! ア・ン・タ!!

鈴木との話聞いてたけどさ、要はアンタは騙されてた訳よね!? 何で怒んないのよ! 怒るべきでしょ!人として!」


何やらキラキラお姫様が螺旋階段の上から飛び降り、凄い剣幕で僕に詰め寄って来る。


「いや、事実を伏せられていただけで騙されてはいないと思うよ?」


僕に仕事を降って来たB・Bも事実を知らなかっただろうし……。多分。


「私がそれを騙しだと思うから騙しよ!」


……僕の知らない理論だな。

どうやらこの子との意思疎通は難しそうだ。


「あー、鈴木氏?このお姫様はどこのお姫様なの?」


詰め寄られる圧に屈しそうになって来たので、堪らず鈴木氏に助け舟を求める僕。



「良くぞ聞いてくれたわね! 黒いの! 何を隠そうこの私こそが大戦時この国の粋を集めた至高の人造人間ヒューマノイドM・Mマシン・マザー計画の中枢! 自立人型決戦兵器! !」


何やら色々ポーズを取りながら自己紹介をしてくれる姫様。前口上が長いとか言うと怒られそうなのでグッと我慢をする。



「桜花よ!!」



彼女なりの決めポーズなのだろう。

ビシッと顔の横で横向きピースをする桜花姫。


しかし、桜花か……。



「桜花って確か太平洋戦争で爆弾抱えて敵に突っ込む戦闘機がそんな名前だった気が……。」


「だぁれが特攻兵器よ!? 人が気にしてる事言わないでくれる!?いや、私は人じゃないんだけどさっ!」


地雷だった様だ……。

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