紳士なゴミバケツ

「では、私に付いてきて下さい。」


見た目とは裏腹に滑らかな言葉を話す警備ロボットRX2-2Dが僕の先導をしてくれる。


まず間違いなく監視役も兼ねているのだろうが、取り敢えずの潜入は果たせた様だ。



遺跡の中は大型のトラックが通れる様に道幅はかなり広く作られており、建屋と建屋の間には良い感じに芝生なんて生えている。


まるで写真でみた旧世界の大きな公園か高級な住宅街みたいだ。



ふははははは! どうだ! このゴミバケツ野郎!これが人間様の知恵だ!


基本的にAIは融通が効かない。

例えば、警備ロボットは侵入者には即座に排除するよう高度な連携を取って動くが、侵入者ではない人間、つまり無害な配達員等には驚くほど紳士的なのだ。


僕のこの高度な変装(この前遺跡で拾ったなんちゃらイーツと緑色の文字で書かれたバカデカいリュックサック)に騙された様だ!


シンギュラリティなど恐るるに足らず!

どんなに恐ろしい殺人ロボットであったとしても、こうなったら単なる紳士的なゴミバケツに過ぎん!



「……貴方は外の世界で言うスカベンジャーと言われる職業の人間ですね?」


あっれぇー?



僕の前を進む警備ロボットのカメラレンズが僕の方をしっかり見ている。


「答えずとも構いません。貴方からは大量の硝煙反応が検知できますし、その指や身体付きを見る限り、戦闘を目的に鍛えられている様子が見て取れます。そのヘルメットも何処の製品かは不明ですが、軍用品に見受けられます。少なくとも宅配屋ではないでしょう。」


え?硝煙反応?そんなの分かるの?

くんくんと自分の腕を臭ってみる。


うん。何にも分からない。



「―――約40時間前、この施設に侵入した一団がC棟の壁に穴を開けました。まだ修理が完了しておりませんが、貴方はそこからC棟内部への侵入を目的としている。違いますか?」


「ちょっとニュアンスが違う。僕が言われたのは一昨日くらいに発見された新ルートの調査と言われている。後は閉所での戦闘が予測されるとか何とか? 」


まぁ自分達で対戦車ミサイルとかで開けた穴を新たに発見された新ルートと呼べなくもない、かな?


色々隠された事情がありそうだが、僕みたいな木っ端ハンターに回ってくる仕事なんていつもこんなもんだ。


「なるほど。やはり貴方はここを強襲した犯人達とは直接の関係はない様ですね。」


「かなり紳士的な解釈をしてくれる様で痛み入るね。でも、僕はその穴開け事件の間接的な関係者で、君を騙した侵入者と言う解釈もあると思うんだけど、どう思う?」


半ばヤケになりながらこの紳士なゴミバケツに尋ねてみる。


僕の完璧な擬態を見抜いた彼の真意が知りたかったのだ。


「C棟は一般公開している建屋ですしね。貴方のように普通……、とは言い難いですが、平和的に入館希望をされると我々としては断る理由はありません。」


なるほど、そういうのもあるのか。覚えておこう。



「―――それに我々は機械とは言え、死ぬ壊れるのが怖いからです。」



ん?壊れるのが怖い?

機械なのに?


技術的特異点シンギュラリティの突破は我々に人類を超える知性を与え、そして同時に感情も与えました。私は貴方が怖いのですよ。」


殺人ロボットの癖に人間が怖いとか何を言っているんだ? やはりAIは総じてバグって壊れたのだろうか?


「貴方はここに来た時から脈拍も発汗も呼吸も全て正常値。驚く程にフラットです。貴方は我々を恐れていない。警備ロボットとして設計された私には分かります。この距離は貴方の必殺の間合いの中ですね?」



キュイイインと小さな駆動音を鳴らして警備ロボットのカメラレンズが僕を捉え、離れない。


なるほど? 技術的特異点シンギュラリティの突破は機械に知性を与えただけではなく、人の悪い所も与えてしまったらしい。


やりたくない事を建前と妥協で回避する所なんてとても人間くさい。


……しかし。


「あの妖怪オヤジと言い君と言い、買い被りが過ぎるよ。僕はただのハンター。端金で雇われた単なるチンピラさ。」


「なら、そういう事にしておきましょう。平和的に終わるならそれが1番良い。私達AIは与えられたその役割を完遂する事を本能としていますが、死にたい訳ではありません。さ、目的地はすぐそこです。」


確かに僕も同意見だ。

何だかこの人間くさい紳士なゴミバケツ氏が段々と好きになりかけてきた。



「おや? 珍しい。彼女が貴方に興味を示した様ですね。もしこの後お時間があるなら彼女に会われませんか? 」


何やらどこかと無線でやり取りしているのだろう。紳士なゴミバケツが何やら提案して来る。


―――彼女?

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