第76号遺跡

真上に登った太陽がどんよりとした曇り空を貫いて廃墟と化した巨大な工場を照らしだ出す。


工場と言うよりも生産拠点と言った方がイメージが近いかもしれないな。


複数の建物が広大な敷地にいくつも並ぶ様は、まるで1つの街の様にも思える。



「うーん……。広いなぁ。これ目的の建屋まで

何キロか歩かなきゃならないかもだな……。」


遺跡近くにあるボロボロの高速道路から望遠モードで様子を伺う僕。


独り言が多いのはソロハンターあるあるだ。

……多分。


この手の遺跡で問題になるのが、どの程度遺跡が生きているかなのだが……。



「おっ、ラッキー。ご同業だ。」


ジープに乗った武装した4人組が遺跡に乗り付けたのが見えた。


1人は身体の殆どを機械化した機械化兵サイボーグソルジャー、残り3人は腕やら足やらの末端部だけを機械化した感じだな。


見た感じC級くらいの練度だ。


「んー、守衛は強引に突破する感じかな?あーあー。入口でガトリング銃ミニガン何か構えたら……、ほら出た。警備ロボット。あれは住吉製の軍用じゃん。一般には出回ってないモデルだな。1台、2台、3台、7、11、15……。まだ出るの!?」


住吉重機械工業製の特殊車両RX2-2D。


見た目は腰くらいの高さの円筒型。

ゴミ箱をひっくり返した様なデザインで、三本足のキャタピラで移動するロボットだ。


大昔のSF映画出てくる金ピカロボットの相棒みたいな感じと言えばイメージが付きやすい。

名前も寄せてるしね。


しかし、そのコミカルで可愛い見た目とは裏腹にその性能は凶悪だ。


本体に隠された複数のサブアームには7.62ミリの機関銃が取り付けられており、即時の面制圧を可能としている。


住吉重機械工業 は2020年代の大昔に一時的に機関銃産業から撤退していたらしいが、武器輸出の規制緩和と戦争需要が高まり、再度復権し国内の機関銃シェアを独占したなんてエピソードがある会社だ。


昔は微妙な銃しか作れなかったのだが、規制緩和以降は徐々にその技術は洗礼されて行き、機関銃と言えば住吉と言われるくらいになった。



「―――おっと、もう終わったか。やっぱりマトモに戦うとか無理だな。」


目の前の映像に意識を戻すと、推定C級ハンター達の残骸をどこからともなく現れたお掃除ロボットが清掃しているのが目に入る。中々グロテスクな光景だな……。



どの遺跡もこんな感じで殺人ロボットが警備に付いているのが普通だ。


技術的特異点シンギュラリティ突破によりAIの知能が人間の知能を上回った事。戦時特例法によりこの国でも銃が当たり前になった事。そして戦争末期に起こった未曾有の大破壊。


これらはありとあらゆるAIを暴走と言っても差し支えないレベルで過激化させたのだ。


AI達は己の職務を確実に遂行する為、各々が武装し遺跡を護る為のガーディアンと化した。


人間を超える圧倒的処理速度による分析能力と秘匿通信による高度な連携が合わさり、まともに正面から戦うなんて出来やしない。


そんな遺跡に果敢に挑むのが僕達スカベンジャー。通称ハンターって訳だ。



「しかし、いくらB級以上が推奨の遺跡とは言えここまでガチガチに守られてるなんて聞いてないぞ……。」


こんな事ならもう少し報酬を上乗せするべきだったか?


いやいや、流石にマスタースミス製のこの拳銃以上を求めるなんて僕には恐れ多い。


むしろ不純とすら言える。


本当にごめんね!君以外を求めてしまう不純な僕を許してくれ!


でも仕方がないんだ!僕にだって生活があるのをわかって欲しい!


腰のホルスターから感じるズッシリとした重みに何だかよく分からない言い訳をする。



仕方ない……。僕が長年温めていた奥の手を使う時が来たようだ。


用意していたリュックサックを背に遺跡に向かう。緊張で手が汗で滑る。


やれる。僕ならやれるさ!

意を決して腹に力を込める。




「すいませーん。宅急便でーす!」

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