節穴

マスタースミスの名前は聞いた事がある。


と言うより、この街の銃使いガンスリンガーでマスタースミスの名前を知らない奴はモグリだ。


居所は常に不明の銃の名工。

人種、性別、大体不明。どうやら個人で銃やナイフ何かの武器職人をやっているらしい。


とてつもなく気分屋で気が向いた時にしか仕事をしない自由人。


しかし、彼(彼女?)の作品は旧世界の銃すら凌ぐ逸品だともっぱらの噂だ。



「あー、まぁ噂くらいは聞いた事があるね。」


嘘である。

いつかお金を貯めて自分の銃を作って欲しくてマスタースミスの情報は常に集めている。


何ならその時の為にマスタースミスの居場所の情報に幾らかけたか分からないくらいのお金を積んでいる。



ドキドキと心臓の音が煩い。

だってそうだろ?


オヤジがカウンターに置いた包み紙に包まれたナニか。


それはどう見ても銃だ。


僕が被る軍用ヘルメットのセンサーも包み紙の中身が炸薬式の回転式拳銃だと告げている。



「コイツはとある伝手で手に入れた銃なんだが、今回の仕事を受けてくれるなら報酬とは別にこれを進呈しよ―――。」


「そこまで言われたら仕方がないな!うん!

で、でも一応、中身は改めさせて貰うぞ?」



落ち着け! 落ち着け僕!


ここで僕がこの銃を欲しがっている事を知られたらきっとこの妖怪オヤジは足元を見て来るだろう。この街で比較的善良な僕でも確実にそうするし、誰だってそうする。


心を落ち着かせ、ひったくる様に包みを奪い取り、震える手で包み紙を剥がす。


くそ!指が震えて上手く包み紙が広げられない……!


ヘルメットの下の僕の目はきっと血走っていた事だろう。実に仕方がない。



「黒鬼……。お前、もうちょい取り繕えないのか? どんだけ必死なんだよ……。」


呆れた妖怪オヤジの声も僕の耳には届かなかった。


はやる気持ちを抑え、あくまでもハードボイルドに僕は銃を手に持つ。



素晴らしい……!



銃身は射撃競技PPCカスタムを意図しているのだろう。通常よりも重いヘヴィバレルを採用し、反動やマズルのブレを抑えやすいようになっている。


この主張し過ぎず、でも確かな存在感を感じるアイアンサイトがとてもクールだ!


サイドを平に処理しているのでスラブサイド・ヘヴィバレルだな。


うーん。長方形の銃身がカッコ良い……。


早撃ちクイックドロウを得意とする僕としては少々使い難い気がするが、そんな事はこのカッコ良さの前では些細な問題だ。


長方形の銃身から回転駆動部シリンダーへの流れる様な曲線美がゾクゾクする程たまらない。


しかも、実用性皆無浪漫の塊中折れ式ブレイク・オープン!(褒め言葉)


いや? いやいや! まさかのシングルアクションだと!? 確かにそれなら中折れ式ブレイク・オープンの意味も出て来る!


おぉ……。ボブ! 尊敬するボブ・マンデン!!

この銃との出会いは君の導きだと思って良いんだね!?(幻想)


手に吸い付くようなグリップ部に刻印された十字架と二丁の銃がクロスしたロゴが光る。


この刻印!


間違いなくマスタースミスの印章!!


……いや、だが待て。

本当にこれは本物か?


この妖怪オヤジが僕なんかに本物を渡すとは思えないし、もしかしたらこのオヤジも騙されて手に入れた可能性だってある。


じっくりと刻印や銃の造りをためすがめつ何度も眺め、穴が空くんじゃないかと言うほどじっくりと見詰める。



「あん? どうしたよ? 出処は言えねぇが、どこをどう見てもマスタースミス謹製の本物だろうがよ?」


「ここで油断しては駄目なんだ。マスタースミス製と言われて3回騙された僕が言うんだから間違いない……!」


1回目は僕にだから安く譲ると言われ、2回目は掘り出し物だと言われ、3回目は闇オークションで落札した。


全て偽物で数回使ったらバラけたり銃身がすっぽ抜けたり暴発したりした。


勿論それぞれ安くないお金をつぎ込んでいる。僕が金欠続きである理由の一つだ。



「……お前の目が思っていた以上に節穴だって事はよぉく分かった。」


ほら、と妖怪オヤジが弾丸が詰まったケースを渡してくる。


なにこれ? 44マグナム弾?



「撃ちゃあ分かるだろ? 銃使いガンスリンガー

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