報酬交渉

黒いヘルメットの仲介屋。


通称、『ブラックブローカーB・B』。

口さがない奴等(主に僕)には妖怪オヤジなんて言われているが、実際の年齢は不明だし何ならオカンの可能性だってある。


いや、それはないか……。


寂れたシャッター街の一角にあるネオンでケバケバしくデコレーションされたバー。


夜になるとそれなりに客入りもあるのか、店内には幾つものテーブルやら椅子やらが並べられていた。


「ほれ。仕込み前だからロクなもんはねぇが、食ってくれ。」


出されたのはハムエッグとトースト、それにミルクと言うこの店の退廃的な面構えにはそぐわない常識的な朝食セットだった。



「……僕、ご飯派なんだけど?」


「奢られてる癖に生意気言ってんじゃねぇよ!」


まぁこのオヤジの言う通りではあるので、諦めて席に着く。


ヘルメットの中で口を開けるとガシャっと連動してヘルメットの口元が開く。


僕のヘルメットのデザインは大昔のサムライの兜に似ている。


兜と言うより面頬と言うのかな?

般若とかドクロみたいなデザインになっていて、口が付いているからいちいちヘルメットを脱がずに食事がとれる。


「おーおー、流石は軍用特殊装備。そんな機能もついてんのか?」


「モグモグ……ゴクン。みたいだね。僕も父さんから貰ったものだから詳しくは知らないんだ。何?欲しくなった?」


ミルクをストローで飲みながら片手は腰のホルスターに近付く。


実際、軍用品はかなり厳重な生体認証ロックがあるからこれを奪ってもどうにもならないんだけど、それを知ってか知らずかこのヘルメットを狙う奴らも少なくない。


お陰で僕の引き金も随分軽くなってしまった。



「興味以上の意味はねぇよ。さて、食いながらで良いから聞いてくれ。」


そう言いながらオヤジは懐からタブレットを取り出して映像を空中に投影する。


「ここから南に進んだ所にある第76号遺跡は知ってるか?38時間前、そこに新ルートが発見された。仕事はそこの調査だ。」


……第76号遺跡?


確か海沿いにあるB級以上のスカベンジャー推奨の遺跡で、元はどこかの研究所だったかデカい工場だったはずだ。



「何で僕なんだ? あそこは推奨とは言えB級ランクの遺跡だろ? A級は流石に無理でもC級やB級にもアンタなら伝手があるだろうに。」


ランクの目安はF級は新人、E級はアルバイト。

D級で専業、C級、B級はいくつもの実績を挙げている大手チーム。1番上はA級になるが、あれはいくつもの遺跡を完全踏破出来た者達への名誉称号であるちょっと特殊なランクだ。


ちなみにソロの上限ランクは基本的にD級まで。


ハンターはボッチはお断りチームプレーが基本だからね。



「理由は2つ。1つは新ルートがかなり狭い。

俺の伝手で依頼出来る上位ランカーはデカい奴や重装備の奴が多いからな。」


む……。一応これでも170は超えてるんだぞ?

ヘルメットの角込みでだけど……。


僕の文句を聞こうともせずに、オヤジは指を2本立てて少し気取った様子で説明を続ける。


「2つ目は閉所での戦闘が予測される。俺が知る限り、閉所での突発的戦闘でお前の右に出る奴はいない。」


「過分な評価を頂いて光栄だね。ご馳走様。」


話はここまでだと立ち上がる。


僕の戦闘能力なんてたかが知れている。

何せ僕の手持ちの武器は数世紀前に作られた骨董品の回転式拳銃とボロいナイフのみだ。


炸薬式の拳銃自体は根強い人気があるとは言えこんな骨董品でまともな戦闘なんてやってられない。


それに、確かに早打ちクイックドロウには自信がるが、こんなもんは単なる曲芸だ。


僕は所詮、下位ハンター。


豚をおだてれば木に登るかもしれないが、僕はそんなつもりは毛頭な―――。



ゴトリとカウンターの上に何かが置かれる。



「……マスタースミスは知ってるか?」


銃の名工マスタースミス!?

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