第43話 待ってやる
「いったい、あの攻撃からどうやって生き延びのだ……ならばブルドーザーを出して壁に押し潰してやろう!」
ルスカは少し苛立った声で次の攻撃を予告する。
そして壁の一部が変形してブルドーザーの形となり、ブオーンとエンジンを吹かせて突進してくる。
しかしフラグが立ったオレにその程度では通じない!
両腕に抱えたヴァレンティナとグリゼルダを降ろしてから右手を前に出し、闘気でブルドーザーの突進を止めてからヤツへと弾き返した。
「ぐふああああーっ!?」
ブルドーザーと壁に挟まれたルスカへと、追い打ちで闘気のラッシュを叩き込む。
「ウリヤァァーッ! ぶっ潰れろー!」
おっとしまった、この流れだと仕留められるフラグは立たない。
ん?
なんだか足下が不安定になったような気がする。
ラッシュを撃ち終えたあと、床が耐えきれなくなったのかガラガラと崩れる音がし始めた。
「うわああー!」
「「きゃああー!」」
オレたち3人とルスカは下の階へと落ちて瓦礫に埋もれた。
「イテテテ、お前ら大丈夫か?」
「私たちは大丈夫だ。それよりもルスカは仕留めたのか?」
ヴァレンティナからの問いかけについて、オレが頭を振りながら否定しようとした時だった。
ダーン! と銃声が聞こえると同時にオレの頬を弾丸がかすめていった。
「危ない、前から弾丸が飛んでくるから気をつけろ!」
2人へ叫んだあとに、続けて5発銃声が鳴り響く。
「うりゃあ!」
「私には当たらんぞ!」
「こんなの杖で弾きます!」
不意打ちで危なかったが、オレたちはそれぞれのやり方で弾丸を躱したり弾いたりして事なきを得た。
「ハア、ハア。よく避けたな、褒めてやろう。だが、私はまだ終わらんぞ」
ルスカが肩で息をしながら、リボルバー拳銃を構えてまだ余裕があるようなフリをして叫んだ。
しかし全身がボロボロで見た目にも消耗が激しく、攻撃手段が急にショボくなった。
不死身のスキルといえども、ダメージとその回復で体力を消耗したら能力の精度は保てないのだ。
ただ、そうはいっても不死身なのは変わらないし、どうやって倒せばいいんだ?
いや待てよ。
要塞を破壊はできなくても、自ら滅びるように持っていけばいいんじゃないか?
そして今の状況……もしかしたら、あの最強レベルの滅亡フラグを叩き込めるかもしれない。
まずはヤツの出方次第だ。
「ハアハア、タツノスケとやら。見事な戦いぶりだ、私をここまで追い詰めるとは。どうだ、私と手を組まないか?」
「いきなりなんの話だよ?」
「思えば20年前、前国王の召喚で私はこの世界に降り立った。魔族の国の資源を狙っての召喚は面白いと思い、私は力を振るった」
なんかどうでもいい過去語りを始めやがった。
多分体力を回復する時間稼ぎなんだろう。
それは承知の上で、こちらもフラグを立てる材料に繋げるべく会話を続ける。
「そんな前からやっている割には、結局征服できてないじゃないか」
「私も最初から今と同じ能力を発揮できていたわけではない。それに前国王の本性が下衆な男と知れるにつれて、私を含めた異世界人たちは戦意を失った」
「じゃあ、王国から抜ければよかったんじゃないのか?」
「召喚されて何も得る物無しで終われるか! だから10年前に王の座を私へと禅譲させてやったのだ」
「ふーん、でも無理やりなんだろ?」
「そんなことはどうでもいい。私は王となってから前線に出る機会がほとんど無くなり、いまだに戦争を終えられないが……お前が協力してくれれば」
「何言ってやがる! オレは資源を強奪するための戦争になんか協力しないぞ」
「まあ最後まで聞け。私とお前なら、この大陸……いや世界を征服するのも夢ではない。その暁には、世界の半分をお前たちに与えようではないか」
「……」
「そうだ、魔族の国への侵攻も即刻取り止めよう。もうこだわる必要も無くなるからな」
「うーん……」
「突然の話で戸惑うのも無理はない。3分間待ってやる。その間に君たちで話し合うといい」
キターッ!
フラグの第一段階が!
あとは、もう一つの条件が揃えば発動条件が整う。
「ど、どうしようタツノスケ。世界のは、半分だなんて。魔族の国も安全になるし」
ヴァレンティナが真に受けちゃってる。
時間が無いが説明しながら打ち合わせだ。
「あれは、受けてしまうと自分が破滅するフラグだ。決して受けてはならない」
「そ、そうだな。私もそうではないかと思ってたんだ」
「やはり貴女は魔族なんですね。こういう時に野心に心を動かされるなんて」
「な、なんだとー! もう一度言ってみろグリゼルダ!」
「お前らこんな場面で揉めるんじゃない! 時間が無いから、オレが説明する通りにやってほしいことがあるんだ」
◇
「さあ、時間だ。君たちの答えを聞かせてもらおうじゃないか」
もう一つの条件もクリアした。
ルスカの足元には拳銃から排出した薬莢が散らばっている。
そして自分の用事が終わったら3分待たずに、銃口を向けながら答えを要求。
本当は不思議な石が手元にあれば完璧だが、この要塞の動力はルスカのスキルなので、無くても多分問題ない。
あとは、オレたちがやるだけだ。
オレはヴァレンティナとグリゼルダの前に、上に向けた掌をそれぞれ出した。
彼女たちがその上に手を乗っけたあと、オレは同時に手を握り返して合図を出し、3人で声を揃えて滅びの言葉を叫んだ。
「「「お前はもう、滅んでいる!」」」
叫び終わって一瞬間があってから、辺り一面が強烈な光に包まれた。
「うわあああああああーーーーーーーー!!」
ルスカの悲鳴が響き渡り、オレたちも吹き飛ばされてしまった。
オレは2人の手を離さないようにしっかりと握り続ける。
◇
気がつくと、オレたちはスカイダイビングをしているかのように3人で手を繋いだまま空中を飛んでいた。
そして、ルスカらしき影が落ちていくのを見かけた。
要塞もガラガラと崩れてきて、瓦礫が下に落ち始めている。
そういえば、下は……何もない荒れ地だ、良かった。
「タツノスケ、お前のお陰で全ての元凶が無くなった。私がこうやって抱っこして地面に着地するから、安心して休むといい」
ヴァレンティナがオレを抱き寄せて呟く。
じゃあ、遠慮なく休ませてもらおうかな。
「あーっ! 抜け駆けは許しませんよ、わたしにもタツノスケを抱っこさせてください!」
「お前の結界防御では着地でまたタツノスケが気分を悪くするだろう! 私なら魔力でブレーキをかけながら安定して着地できる」
「そんなことはありません、今度は力を上手く調節します!」
あーもう、うるさいなあ。
オレは2人の手を振りほどいて空中に飛び出して滑空していく。
「これでオレは自由だ! さあ早速、安住の地を探しに行こうかな」
「待ってくださいタツノスケ〜。降り立ったら、すぐにわたしと結婚しましょう〜!」
「何を馬鹿なことを! タツノスケと結婚するのは私だ!」
彼女たちが何か叫んでいるが、風切り音で聞こえにくいな。
「えーっ? なんだってー?」
オレはそのまま滑空を続ける。
着地はどうするんだって?
まあ、なるようになるさ!
おわり
旗持ち男の異世界無頼旅〜ゴミスキルだと言われて召喚先を追放されたので、安住の地を求めて気の向くままに彷徨います〜 ウエス端 @Wes_Tan
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