第42話 守りたいんだ

 遂に王様の元にたどり着いたオレたち。


 それにしても、オレたちが侵入者とはいえ、いきなりドブネズミ呼ばわりか。


 この王様は最初に会ったときから変わってないな。


 常に上から目線で他人はみんな雑魚扱い。


 この要塞に誰もいないのも、みんなに愛想をつかされたんじゃないか?


 まあそれは置いておくとして、虐殺行為と魔族の国への侵攻を止めさせないと。


 オレがそれを言い出そうとする前に、ヴァレンティナが先に王様に突っかかった。


「お前が王様だな! 私の、魔族の国へ侵攻するのを今すぐ止めろ!」


「……魔族の女如きが無礼な。慎むがいい、お前は王の前にいるのだ」


「そんなことは関係無い! 止めるのかどうなんだ!?」


「ふん、まあいいだろう。答えてやるから有り難く思え。私がこの世で最も嫌うことは、他人に言われて自分の行動を決めることだ」


 コイツやっぱり。

 オレは堪えられずに話に割って入った。


「つまり侵攻するのを止めるつもりは無いってことだな!? 今、自分の国の兵士や、お前が召喚した異世界人を虐殺していることも!」


「その通り。私はそもそも絶対的な力を持っているのだから、他人に従う必要などない。私が一人いれば、それで十分なのだ」


「一人って……そういやこの中は他に誰もいないみたいだけど」


「大した能力もない役立たずどもばかりで、私の要塞に留まる資格がある者はいなかったのだよ」


「お前……まさかそれって」


「だから少し前に全部空中から捨てたのだ、ゴミのようにね。なかなか面白い見世物だったよ、ハッハッハッ!」


 完全に狂ってやがる。

 こうなったら力づくで止めるしかない。


 しかしヤツの能力が不明だし、どうやって倒そうか。


 オレはそう考えてしまったが、ヴァレンティナは即断即決で襲いかかる。


「ではお前を倒して全てを終わらせてやろう!」


 彼女は跳び上がって一気に王様へと迫り、義手の隠し刃を出しながら背後に回り込んだ。


 そして玉座の背もたれごと、ヤツの首を一気に切断した!


 ……なんか、呆気ない幕切れだな。


 決戦というのは意外とこんな決着なのかもしれないけど。



「すまないタツノスケ、お前の見せ場を奪ってしまって」


「いや、お前が一番ヤツを止めたかったんだし、決着がつけばなんでもいいよ。それよりも、この要塞ってどうやって止めればいいんだ?」


「まずは、これを操縦する何かの装置を探さねば。それが最優先だな」


「ああ。そういえば王様の名前って何だっけ。グリゼルダは知ってるのか?」


「確か『ルスカ』だったような。それがどうかしましたか?」


「もしかしたら操縦システムへのログインに必要かなって」


「ログイン?」


「あとで詳しく説明する。とにかく探そう」



「……王の名を気安く呼ぶのはやめたまえ」


 なっ!

 王様の、ルスカの声!


 どこから聞こえてくる……って、ルスカの身体が切断された首を持って立っているじゃないか。

 

「ハッハッハ……私は不死身なのだよ、我がスキル『要塞』の効果によって」


「どういうことだよ!」


「私はこれと決めた建造物を自分の要塞として自由に扱える。空中を浮遊させたりもね。そして要塞の中では、私は何度でも蘇るのさ!」


「くそっ、それじゃあ要塞を破壊しないといけないのか」


「それは無理な相談だ。私が不死身であるということは! 私がここにいる限り、攻撃を受けた要塞が破壊されて死ぬということもあり得ない。つまり要塞もまた無敵となるのだぁ!」


 なんだよ、その鶏が先か卵が先かみたいな話は。


 正真正銘のチートスキルじゃねえかよ!


 動揺しているオレたちに対して、ルスカは余裕の笑みを浮かべながら更に絶望的なことを言い放った。


「ところで、私がこのスキルでできることはもう一つある。要塞内の改造も自在だということだ!」


 その言葉の直後、玉座の間の天井一面に機関銃らしきものが多数現れた。


「ハッハッハッ、3人とも蜂の巣のように穴だらけとなって死ぬがいい!」


「どんな攻撃をしてきたって、わたしがタツノスケを守ります!」


 機関銃から雨あられの如く銃弾が浴びせられたが、グリゼルダが即座に結界防御を張って何とか防いでいる。


 しかし間断なくガガガッと銃弾が当たりまくって、いつ結界が崩壊してもおかしくはない。


 しかし必死に結界を維持している彼女を、ルスカはニヤけた顔で嘲笑い、更にオレたちを追い込みにかかった。


「そんなもの、多数の近代兵器を前にして何時まで保つのかね? しかしこのままだと今ひとつ面白みに欠けるな……そうだ、お前たちのいる床に時限爆弾を仕掛けよう」


 それからすぐに、オレたちの足元に時計のような小さな装置が現れてカウントダウンし始めた。


 クソッ、これじゃあ逃げ場が全く無い。

 なにか起死回生のフラグを立てられないか?


 オレの焦りの表情がまたヤツの笑い声を発生させてしまう。


「ハッハッハッ! その追い込まれた表情がたまらんなあ〜。私に逆らったことを後悔しながら死んでいくといい」


 どうしよう、立てられそうなフラグが見当たらい。


 そんな情けないオレの身体を、ヴァレンティナは子どもを守るかのような体勢で抱き寄せた。


「タツノスケのことは、私が絶対に守ってみせる! だから安心しろ」


 続けてグリゼルダまで、片手は結界を維持しつつ自分の身体を覆いかぶせてきた。


「わたしも、あんな弾をタツノスケに当てさせたりしません!」


「止めろ! お前らの方が死んでしまう!」


「私はタツノスケが生き延びてくれれば、それでいいんだ」


「わたしもです。いつまでも元気でいてくださいね」


 2人は覚悟を決めた言葉を呟きながら微笑みかける。


 そんな! オレは彼女たちを守りたいんだ。


 それなのにこんな結末、あってたまるか!


 しかし無情にも結界は破れて弾が降り注ぎ、時限爆弾のタイマーはゼロとなってしまった。


 玉座の間は爆発と銃弾の轟音に包まれた。



「ハッハッハッ! 私と勝負しようということ自体が無謀だったのだ。さて、死体はブルドーザーで窓際に運んで捨ててしまおうか」



「……まだ喜ぶのは早いんじゃないか、ルスカさんよぉ!」


 爆発の煙が収まってきたところで、オレはヤツの前に姿を現した。


 オレは全身から闘気を大量に噴出しながら、両腕で2人を抱えて立っている。


 闘気によってなのか、弾き返した無数の弾丸がそこら中に散らばり、天井の機関銃も壊れている。


 両足が負傷しているが爆発の被害は最小限に抑えられたみたいだ。



 今のオレの状態は、何が切っ掛けで発動したんだろう?


 いや、本当はわかっている。

 大事な人たちを守りたい、その思いが極限状態で秘められた力を開放させた。


 ベタベタな逆転&生存フラグであり、オレが人生では不要と考えてきた感情によるものだ。


 まあ、それはともかくとして、ここから反撃といこうじゃないか。

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