第41話 空中要塞

 オレとグリゼルダは、ヴァレンティナの母親オルタシアによって空中を高速で飛ばされていた。


 天空に浮かんでいる王様の城がどんどん迫ってくるけど、このままじゃ激突してしまう。


 とりあえずグリゼルダが直接激突しないようにしないと。


「グリゼルダ! オレの身体の内側へ入れるか? 特に頭部を守れるように!」


「タツノスケ……そこまでわたしのことを思ってくれているなんて。この戦いが終わったら、わたしたちけっ……」


「わーっ、わーっ! 今そういう話をするんじゃない!」


 あ、危なかった!

 戦いが終わったら◯◯する、とか決戦前に呟くのは、ほぼ100パーセントの死亡フラグじゃないか!


 しかしグリゼルダはそれが理解できていないのか、頬を膨らませてむぅーっとした表情を見せて文句を言い出した。


「どうしてですかタツノスケ? わたしたちの将来を語り合うのがそんなにいけないのですか?」


「そうじゃなくてだな、こういう時にそれを言うのはヤバいフラグが立っちゃんだよ!」


 フラグと聞いて一応は引き下がったグリゼルダだが、まだ上目使いで睨んでくる。


「あーっ! な、何をやっておるのだお前たち! は、破廉恥な行いは私が許さんぞ!」


 今度はヴァレンティナの声!

 追いついてきたのはいいが、こんな時にあちこちから責められたんじゃたまんねーよ!


「今それどころじゃないだろ! グリゼルダが城に激突しないようにしてるだけだ、お前もこっちに来るんだ!」


「私はこれくらいなら何とか着地できる! あと、グリゼルダは結界防御を応用すれば衝撃を吸収できるはずだぞ!」


「……おい、どういうことだグリゼルダ?」


「エヘヘ……だってタツノスケとこうしているのが気持ちよくって。ギリギリで出すつもりだったんです〜」


「いいから早くしろ〜!」



 そうこう言っているうちに、もうすぐ城に着いてしまう。


 ヴァレンティナはクルッと空中で姿勢を制御して着地体勢に入る。


 グリゼルダも結界防御を張って準備はOK。


 そして、いよいよ城の建物の上に到着だ。


 ヴァレンティナはギギギギーッと靴から煙を出しながらブレーキをかけていく。


 オレはグリゼルダと一緒に結界防御の中で、ゴム毬のように弾んでいく。


 何回か跳ねたあと、ようやく落ち着いたところで結界を解いて建物の上に着地した。


 ヴァレンティナも問題なかったようだ。


 それはいいのだが……うぇぇ、気持ちわりい!


 回転しながら激しく上下動したから酔ってしまったらしい。


「すまないお前ら、ちょっとここで待っててくれ!」


 オレは建物の陰で思いっきり胃の中を出し切った。


 ふう、スッキリしたぜ。


「どうしたタツノスケ!? 気分が悪いなら、私が背中をさすってやるぞ!」


「わたし、回復魔法をかけますね!」


 うわあ、彼女たちに見られたくないから待ってろって言ったのに……カッコ悪いなあ。



 しかし、そんな悠長なことを言ってられなくなった。


 周辺の建物が壊れていく……いや違う、この城のあちらこちらで建物の中から巨大な主砲みたいなのが現れてきた。


 それは城の下側、地面に向いている方でも同じだった。


 もはや城というよりは巨大な要塞と言った方がいい。


「危ないぞタツノスケ! 向こうへ避難するぞ」


 うわっ、いきなりヴァレンティナに抱きかかえられて連れて行かれる。


 オレってやっぱり貧弱な身体なんだな。

 でも今は落ち込んでる暇はない。


 まずは生き残らないと……いつも都合よく生存フラグが機能するとは限らないのだ。


「ちょっとヴァレンティナ! タツノスケを抱っこするのはわたしの特権です、代わりなさい!」


「そんな特権があるか! それに私に抱っこされてる方が気持ちよさそうにしているぞ、なあタツノスケ!」


「もう、何でもいいから揉めるんじゃねえ2人とも!」


 緊張感がねえな、全く。


 だけどオレたちは次の瞬間、背筋が凍る光景を目にした。


 城、いや空中要塞の下側の多数の主砲が、地面をめがけてレーザー砲みたいなのを一斉に発射したのだ!


 まだ空は明るいのに、レーザーが発射される度に要塞の周りがパッと照らし出される。


 そして地面にある小規模な建造物……恐らくオレたちが居た陣営とは別の陣営に、レーザーが容赦なく撃ち込まれていく。


 その光景はオレたち3人の目を背けさせるのに十分な悲惨さだった。


「なんてこった。反乱側だけでなく味方の兵もいるのに、構わずに大虐殺かよ。何とかして中に入って王様に止めさせないと」


「何かわかりませんが、あそこらへんでいくつか穴が開き始めましたよ?」


 グリゼルダの指差す方向に目を向けると、確かに穴がある。


 だけど下から何かがせり上がってくる。


 ミサイルか!


 複数のミサイルが一斉に発射され、あちらこちらに飛んでいったのだ。


「うわああ! 凄い爆風だ!」


「きゃあああ! 吹き飛ばされそうです〜!」


「タツノスケ、私にしっかりと掴まれ! グリゼルダもどこかにしがみつくんだ!」


 何とかして堪えたオレたちだが、このままじゃ潜入する前に終わってしまう。



 もう、イチかバチかでやるしかない。


 あの発射孔のどれかに入って中へ侵入するしかない。


 次のミサイルがセットされる前に行こう。


「2人とも、オレが立てるフラグを信じてくれるか?」


「もちろんです! わたし、タツノスケのことは心から信頼しています」


「もちろん私もだ。お前のやることに間違いはない!」


「ありがとう。それじゃあ、念のためにグリゼルダの結界防御を周りに張ってから、そのまま穴に突入するぞ!」


「「了解!」」



 オレは『悪の本拠地の要塞に潜入する主人公と仲間たち』の見立てで成功フラグを立てた。


 割と高い成功率だと思うが、失敗したら即死だ。


 ミサイル発射の爆風の前には結界防御は気休めにしかならないだろう。


 さて、それじゃあ行きますか……って、もうミサイルの発射準備ができつつある。


 だがここまで来たら引き返すこともできない。


「行くぞ!」


 オレたちは身を寄せ合って突入し、穴の中を落ちていく。


 しかし、もう少しで着地というところで、ミサイルは動き始めてしまった。


 下から爆風が猛烈に噴き上がってくる。


「2人とも、オレの後ろに隠れて!」


 オレは大の字になって爆風を受け止めにかかる。


「タツノスケ無茶をするな、そのままでは死ぬぞ!」


「いやあー、タツノスケー!」


 2人の言葉からするとオレの身体は酷いことになっているようだが、構わずにそのまま行く。


 そしていつの間にか記憶が途絶えた。



 気がつくとオレはグリゼルダに膝枕されて回復魔法をかけられていた。


 全身が熱を帯びたように熱い。


 だけど2人は見たところ怪我もなさそうで良かった。


 安心したのも束の間、オレの左頬はグリゼルダの平手打ちでパーンと大きな音を立てた。


「何すんだよ!」

 

「貴方はいつもいつも、わたしに心配かけて! さっきだって、心臓が締め付けられるくらい……」


 ヴァレンティナも続けてオレの右頬を打ちながら涙声で叫んだ。


「私もだぞ! お前は必ず復活すると頭ではわかっていても……」


「すまない。でもオレは、お前らを守りたかっただけなんだ」


「……わかっています。今のは感情的になってすみませんでした」


「私も。もちろんお前には感謝している」


 とにかく2人とは和解できたようだ。


 ちなみに記憶がない間のオレは、身体が側転のような回転をし始めて、それが高速になると爆風を吹き飛ばしつつ、そのまま奥までプロペラ機の如く進んだらしい。


 一応は成功フラグが立って自動で身体が動いたようだ。


 だけど全身が重度の火傷を負っていて、それで2人は余計に驚いてしまったということだった。



 オレたちは大きな格納庫のような場所を抜け出し、要塞の中を恐る恐る歩いていく。


 しかし、誰にも会わない。


 おかしいな、オレが召喚された時には多数の人間が城の中にいた筈なのに。


 もしかしたら全員あそこに集まっているのかな?


 王様がいるであろう玉座の間に。


 そしてうろ覚えの記憶をたどって、ようやくそれらしき部屋の前に到着したのだが。


 やっぱり人の気配がしない。


 オレたちは部屋のドアをバッと開けて素早く入り、すぐに戦闘の構えをとった。



 誰もいないじゃないか……いや、最奥の玉座に一人いる。


「待っていたよ。侵入者のドズネズミ諸君」


 その声、その顔。

 間違いない、王様だ!

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