第38話 ドラゴン退治
陣営の司令官サンチョがスキルで変身した漆黒のドラゴン。
コイツを倒さなければ、この陣営を制圧したことにはならない。
それはつまり、反乱の失敗を意味する。
反乱軍に呼応した魔族の軍の援護も受けているが、それでもまだ勝機は見えてこない。
そしてオレは一度ドラゴンの黒炎を食らって死んだあとに復活したばかりだ。
でもドラゴンの注意は別方向に向いているので、今のうちに反乱軍のリーダー格オルランドに状況を確認しよう。
「すまないオルランド、来るのが遅くなった」
「いやそんなことはない。それに君の仲間たちからは十分以上の助けを受けている」
「それでどうなんだ? ドラゴンを倒す手はあるのか?」
「反乱を起こす前にいろいろとシュミレーションして臨んだのだが……あの強さは想定よりもずっと強大だ。特に防御力の高さは」
「そんなに鱗が硬いのか」
「ああ。こちらにも強力な剣の使い手はいるが、かすり傷くらいしかつけられない。それ以外の攻撃は弾かれてしまうし、ちょっと打つ手が思い浮かばない」
なんてこった。
何かこちらの決定的な勝利フラグが立てられれば……でも今のところはこれといったものが見いだせない。
あとは何か使えるものはないか。
そういえばバイクはどこに行った?
「バイクならあそこに転がっているのがそうではないか?」
「本当だ、ありがとう。オレはヤツがこちらに注意を向けていない隙にあそこへ行ってくる」
「そうか、では私は向こうで攻撃に加わって注意を引き付けておくよ」
オレとオルランドは別々の行動を開始した。
そしてバイクに近づくと、もう完全にボロボロで動くとは思えない。
それでも引き起こしてセルボタンを押してみたが全く反応がない。
昔のバイクには足で起動するキックスタートってのが普通にあったらしいが、このバイクにはキックペダルらしきものは見当たらない。
残念ながら使い物にならないか。
そういえば、このバイクにはどういうふうに使用するのかよくわからないボタンが1つある。
まさか自爆ボタンでは……。
それはそれでいいか、それで突っ込めば少しはドラゴンにダメージを与えられるかもしれない。
オレは少し迷いながらもエイッとボタンを押した。
さあ、バイクを転がして突っ込ませて逃げる準備をしないと。
そう思って動きだそうとしたところ、バイクがパァッと光って勝手に空中に浮き上がった。
そしてなんと、目の前でガシャーンガシャーンと変形を始めたのだ。
やがてその姿は剣みたいな形となっていき、光が消えるとドスーン! と地面に落ちた。
「な、なんだこれ! 巨大な剣になったってことか?」
「ん〜!? 何の音だいったい?」
ヤバい、大きな衝撃音でドラゴンの注意がこちらに向いてしまった。
「お前は、さっき我が黒炎で燃え尽きたはず……そうか、指名手配されていたタツノスケだな?」
バレたか。
でも今さら関係ないので何も答えずに、剣をどうしようか考えを巡らせる。
これを持ち上げて叩き斬れば、さすがのドラゴンもダメージを受けるんじゃないか?
「フンギィ〜、お、重すぎる!」
オレはしゃがんで持ち上げようとしたが、とても持ち上げられそうにない。
そりゃそうだ、総重量200キロ以上はありそうな大型バイクが変形したものであって、部品とか減っているわけじゃない。
でもここで閃いた……。
こういう剣を地面から引き抜いたり持ち上げたりすると、王になったり戦いに勝てたり、つまりは勝利フラグが立つんじゃないかと。
なのでフラグを立てる準備をしつつ、引き続いて剣を持ち上げ続ける。
「グオオーッ! うりゃあああ! ふんがぁーっ!」
「……我を無視するとはいい度胸だ。今度こそ炭となってこの世から消え去るがいい!」
「おい、タツノスケ君! 逃げるんだー!」
ドラゴンとオルランドの声が聞こえてきたが構ってる暇はないんだよ。
剣はほんの少しだけ持ち上がったが振り回すなんて全然程遠い。
オレの全身で血管が浮き出て、ところどころ毛細血管が切れて血がダラダラ流れ始めた。
ここまできたら、それこそ持ち上がらないと割に合わねーよ、うおおおおっ!
「死ねいッ!」
またもや黒炎がオレに向かってくる。
でもあとちょっとなんだ、このまま持ち上げてやる。
全身の骨がバキバキと軋むのも構わずに、応援団の旗を持ち上げるような態勢で遂に剣を地面から浮かせたのだ!
だがそこに黒炎が降り掛かってきた。
「タツノスケ君ーッ!」
オルランドの叫び声が響く中、オレは燃え尽き……たりなんかせず、身体が自動的に大ジャンプして炎から飛び出した。
両手はもちろん巨大な剣の柄を握って、それを頭の上に振り上げる。
そしてドラゴンの顔あたりまで飛び上がってから、ヤツの左肩に剣を振り下ろす。
「グアアーッ、や、やめろぉー!」
ドラゴンがこの戦いで初めての悲鳴を上げ、それが響き渡る。
オレは剣でヤツの胸から腹のあたりまで斜めに切り裂いていく。
「ぎゃああああああー!」
切り裂き終えて地面に降り立ったあと、ドラゴンの断末魔が聞こえると同時に、ヤツの傷口から大量の血があたり一面に降り注いだ。
ズゥーンと倒れる音と大きな振動を感じて顔を上げると、ドラゴンは仰向けに倒れていた。
「うおおおおおー! ドラゴンを一撃で倒しやがったー!」
「スゲーぞ、あいつはいったい何者なんだー!?」
あちこちから賞賛の声が聞こえてくる。
だけど、オレはそれどころじゃないんだよ。
実はもう一歩たりとも動けない状態なのだ。
全身の骨にヒビが入ったのか、少しでも体を動かすと激痛が走る。
どうしよう……横になって休むこともできない。
「タツノスケー! 遅くなってごめんなさい、すぐに回復魔法をかけますね!」
「相変わらず無茶ばかりして……でもそれでこそ私のタツノスケだ!」
オレのただならぬ様子を察してか、魔法使いの女カーラと戦っていたグリゼルダとヴァレンティナが駆けつけてきてくれた。
それはいいがヴァレンティナよ、首筋に腕を回して抱きつくのはやめてくれ。
それだけでもメチャクチャ痛いんだ、声すら出せないほどにな。
しかし結局声が出せるまでは痛い思いをし続けるハメになってしまったのだった。
◇
ドラゴンは倒れて意識を失ったあと、急速に人間の体形に戻った。
司令官サンチョは胸から腹にかけて痛々しい傷口を見せているが、死んではいなかった。
彼も王様やその取り巻きたちと同類なのかは現時点では不明だが、捕縛したのでそこは後々判明することだろう。
「これで事実上この陣営は制圧した。タツノスケ君のお陰だ、本当にありがとう」
「いや、オレはたまたま最後のトドメを刺しただけで、その前にみんなが頑張ったからですよ」
オルランドは感謝してくれたが、死者も結構出たし、手柄だなんだと手放しで喜ぶ気になれない。
オレはそれよりも気になることを彼に質問した。
「ところで、ここ以外の陣営はどうするんだ?」
「先程、私の方から各陣営の知り合いたちに連絡を入れた。私のスキルは『音波』だからね、知り合いにだけ聞こえる音波を流せるんだ」
「そういうことか。じゃあ今頃は各地で蜂起してるってわけか」
「もちろん。一番大きい陣営であるここが落ちたから、あとのところも問題なく落とせると思う」
「でも、そのうち連絡が王様のところにも行くだろうし、黙ってないんじゃないのか?」
「それも織り込み済みさ。でも王都からここまでかなり距離がある、そんなすぐには攻めて来られない。今のうちに身体を休めて体勢を立て直そうって筋書きだよ」
まあ、それならいいか。
あとヴァレンティナにも確認したいことがある。
「ヴァレンティナ、もしかしてお前が右腕を失ったのはあのドラゴンのせいなのか?」
「いや違う。確かにヤツは強かったが、私たちがあの時戦ったのはもっと恐ろしい奴だった」
あのドラゴンより恐ろしい敵だって?
そういやオルランドが前に、王様の執事がケタ違いに強いとか言ってたが、もしかしてソイツなんだろうか。
まあいずれわかることだ、もうこれ以上は考えずにひと休みしよう。
そんな感じでみんなが休憩モードに入ったタイミングだった。
突如として、空間に歪みのようなものが発生したか思うと、隙間みたいのが広がってきて中から眩しい光が漏れてきた。
そして光の中から男が宙に浮きながらゆっくりと出てきたのだ。
「……全く、反乱程度で陣営が制圧されてしまうとは情けない……」
男は周りを見渡しながらボソッと呟いた。
内容からすると敵ってことになるのか?
「あの男は、王様の執事……! だが、いくらなんでもここに来るのが早過ぎる!」
「ヤツだ。私の仲間たちと右腕を事もなげに奪ったのは!」
オルランドとヴァレンティナが、緊張感MAXの表情で冷や汗をかきながら呟いた。
まさか、敵幹部が急襲してきたってことなのかよ!?
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