第37話 ゾンビ
ドラゴンに変身できるスキルの司令官サンチョが、漆黒のドラゴンとなって魔力を溜め、黒炎を放とうとしている。
その目の前に『勇者の遺産』のバイクで飛び出したオレは、咆哮が出る直前にハンドルを右に思いっきり引き寄せた。
「おりゃあああーー!」
そうやってバイクを横向けにしたまま乗り捨て、オレはその車体に隠れるように空中に飛び出した。
ブオォォォーーー!!
凄まじい咆哮とともに黒炎が襲ってきたが、バイクは魔力攻撃を弾くので直撃は免れた。
それである程度は黒炎を遮ることができたが、バイクの大きさでは全てを防ぐのは無理だった。
遮られずに地上にいる反乱軍の連中の方へ黒炎が行ってしまった。
「タツノスケが直撃を防いでくれました! あとはなんとか耐えてみせます!」
よし、グリゼルダが広範囲に張ってくれた結界防御がなんとか防いでいる。
「ぎゃあああー! あ、熱いーっ!」
いや、全部はカバーしきれず灼熱の炎に包まれている奴らもいる。
燃え方が普通の炎とは全然違う。
阿鼻叫喚の声を上げながら燃え尽きていく人たちを見るのは痛ましい。
くそっ、このあとはどうしよう。
バイクもオレもドラゴンの身体に接近すらできずに落ちていく。
「よくも、小賢しいマネをして邪魔しおって!」
サンチョはいまいましいとばかりにオレを睨みつけ、魔力を溜めずに小さな黒炎を放ってきた。
黒炎はオレを直撃し、あっという間に炎が身体を包み込む。
「うわあーー!」
激しい熱さと痛みでオレは間もなく意識を失った。
「いやあーっ! タツノスケー!」
「落ち着くのだグリゼルダ! タツノスケは必ずや復活する。信じるのだ! それまでは私たちの役割を果たすのだ」
「ううっ……」
「我が同胞たち、援護をよろしく頼むぞ!」
パーン!
「信号弾だと? 魔族の女から……つまりは!」
「ヴァレンティナ、信号が来るのを今か今かと待ってたぜ〜!」
「来てくれたか! あのドラゴンを倒すのを手伝ってくれ!」
「もちろんこのサマンサもドラゴンに鞭を味合わせてやるわよ!」
「わたしの役割……まずは周囲の人たちを回復させて体勢を建て直さないと!」
◇
「聖職者の方、助かりました。もしかしたらタツノスケ君の仲間ですか?」
「はい、わたしはグリゼルダ。貴方が反乱軍のリーダー格のオルランドさんですね? 彼は今は倒れていますが、必ず復活します。それまでは皆さんの回復と援護に努めます」
「ありがとう、ここまでしていただいて……危ない、攻撃が来る!」
「魔法攻撃! 弾き飛ばします、えいっ!」
「聖職者の女! それにあの魔族の女も……! みんなまとめて始末してやるの!」
「貴女は、魔法使いのカーラ!」
「ん? お前はあの時リュウジとかいう男と私たちを襲撃してきた女! このヴァレンティナの命をまだ狙っているのか?」
「その通り……でもタツノスケは既に黒炎で死んでいるようなの。だけど今回は絶対に復活させないの!」
「タツノスケの身体に魔法を! 一体何をしたのですか!」
「……どうやっても殺せないなら、永遠に腐ったまま存在し続けるがいいの! あっはっはっは!」
「あれは禁断の状態異常魔法『ゾンビ化』ではないか!? タツノスケになんてことをしてくれたのだ!」
「タツノスケ、わたしです、グリゼルダです!」
「ゾンビ化した者に言葉は通じない! それよりタツノスケが闘気を撃ってくるぞ!」
「タツノスケ! やめてください、お願いです!」
「あっはっは、お前らはタツノスケに攻撃されて死ぬがいいの!」
「グリゼルダ、聖職者のお前なら状態回復魔法で元に戻せる筈だ! 最大限の魔力を一気に注いでやってくれ、攻撃は私が防ぐ!」
「タツノスケ……お願い、元に戻って!」
「邪魔はさせないの!」
「それはこっちのセリフだ!」
ドガァーッ!
◇
んっ!?
なんかすごい攻撃がぶつかり合う音がしたな。
今はいつで、ここはどこなんだ?
あれ、目の前に泣きそうな顔のグリゼルダと必死の形相のヴァレンティナがいる。
「おいグリゼルダ、何がどうなってるんだ? なんか泣きそうだけどヘマでもやらかしたのか?」
「違いますっ! ……元に戻って、良かった……!」
「タツノスケ、今のは酷いぞ! それに私だってお前を元に戻すために頑張ったのだ!」
「そうなのか、なんかわからんがすまない」
「あとで思いっきり抱きついてやる、骨が折れるくらいにな。それより行くぞグリゼルダ!」
「ええ、ヴァレンティナ!」
2人はお互いを呼び合うと息を合わせたかのように一緒に飛び出していった。
アイツらいつの間に仲良くなったんだ?
そして行き先は……魔法使いのカーラ!
オレが知らないうちに来ていたのか。
「よくもわたしのタツノスケを!」
「いや私のだからな! そしてカーラとやら、覚悟!」
「まだ終わってないの! リュウジ、力を貸して!」
2人と1人が全力を込めてぶつかり合った。
その結果、倒れていたのはカーラだった。
◇
「このままトドメを刺してやる!」
「ちょっと待ってヴァレンティナ。それは勘弁してあげてほしいです」
「そんな甘いことを言ってると、また襲ってくるぞ!」
「でも、わたしたちだってタツノスケを本当に殺されたら、彼女と同じことをするかも……そう思ったら」
「そうだな……じゃあこうしよう」
「カーラの身体に手を当ててどうするんですか?」
「私たち魔族はこうやって相手の魔力を吸い出せる。コイツからは完全に搾り取ってやる、そうすれば向こう10年は魔力は回復しないだろう」
「それでいいと思います」
◇
カーラの扱いは彼女たちに任せよう。
それよりも、漆黒のドラゴンとの戦いはまだ終わってない。
いつの間にか魔族の連中が援護してくれているが、ドラゴンは高い攻撃力と頑丈な鱗で多数の敵を相手にしても互角以上だ。
ヤツを、司令官のサンチョを倒さなければこの陣営を制圧したことにはならない。
オレも何かフラグを立てられないか考えつつ戦いの場に駆け出していく。
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