第35話 反乱開始
オレは王国と魔族の国の戦闘地域の最前線へ向かおうとしている。
横暴な王様への不満を持つオルランドたちが起こすであろう反乱に加わるためだ。
オレが王国軍の陣営から脱出して1週間以上は経つが、反乱の仲間集めは上手くいっているのだろうか。
「タツノスケ、前から何か来ますよ」
旅のパートナーである聖職者グリゼルダから聞いて前方を注視したが、誰もいないぞ。
いや、小さい点のような影が段々と大きくなっていく。
すごい視力だ、あの状態でもわかるなんて。
まあそれはともかくとして、近づいてきたのは荷馬車に乗った商人風の男だった。
かなり慌てている様子で、馬車はかなりの速度を出していた。
「おい、あんたたちもすぐ引き返した方がいい! この先は危険だ!」
この先はしばらく行けば陣営に行き着くから、元々危険なんだけど。
それでも男の切迫した表情が、何か通常とは違う事態の発生をうかがわせる。
「知らせてくれてありがとう。だけど何があったんだ?」
「俺は王国軍の陣営に食料を納入する業者なんだけどさ。いつも通りに搬入口に入ろうとしたら、中からすげえ音がして、ワーワーと騒ぎが起こってさ」
その様子を聞く限り、遂に反乱が始まったんじゃないかと思う。
それじゃあオレたちも急がないといけないな。
「俺は馬車に乗ったまま引き返してきて、他の業者もてんでバラバラに逃げてったよ。悪いことは言わねえ、お前らもすぐに」
「わかったよ。一休みしたら引き返すから、アンタは先に逃げてくれ」
男を見送ったあと、オレたちはどうするかについて意見が別れた。
「すぐにでも陣営内に入り込んで反乱軍と合流しようぜ」
「いえ、外から観察してオルランドさんたちを探してからのほうがいいと思います。でないと下手をすれば反乱軍から攻撃を受けるかもしれません」
気持ちがはやるオレに対して、グリゼルダのほうが冷静に状況判断しようとしている。
彼女は以前にも増して成長している。
立場というのを得た分、考えて動かないといけない経験が増えたんだろう。
オレはグリゼルダの意見に賛同し、陣営の近くの森から様子をうかがうのだが、思ったよりも大きな騒乱になっている。
広い陣営の各所から火の手や煙が上がって、外で闘っている奴らも見かける状態だ。
ただ、どっちがどっちの側だか区別がつかないな。
あと気になるのは奴らの出方だ。
「魔族の連中の姿は見かけたか?」
「いえ、わたしが見た限りではいなかったです」
どうやら魔族側は静観しているらしい。
オルランドたちが既に話を通しているのか、単に様子見しているのかはわからないけど。
それなら余計なことに気を使わずに参戦できそうだ。
オレたちはオルランド、サマンサ、カミッロ、クラウディオの誰か一人でもいないか、姿を探すために森の中を移動する。
そうして必死に探し回って、遂に見つけた!
陣営の中で鞭が振るわれているところを。
サマンサが王国軍の兵士たちを薙ぎ倒しているのが見えたのだ。
幸いにも兵士が手薄な箇所だ、ここで合流するのがベスト。
オレは『主人公が仲間と合流して反乱に加わる』この状況をそのまま勝利フラグとして立てながらグリゼルダと一緒に突っ込んでいく。
途中でどこからか矢が飛んできたが、グリゼルダの結界防御で防ぎつつ、オレの身体が自動的に闘気を放って矢の出処を制圧した。
「サマンサ、ちゃんと合流しに来たぜ!」
「あらあら……そんなにあたしの鞭が恋しくなったの? しょうがない子ねぇ、ウフフ」
冗談を言える余裕があるなら大丈夫そうだ。
オレたち3人は兵士たちをあっという間に蹴散らし、無事に合流を果たすことができた。
「もう始めっちまったんだな、もう少しで間に合わないところだったよ」
「う〜ん、あたしとカミッロはタツノスケを待とうって言ったのよ。でもこれ以上待つと情報が漏れる可能性が高いってオルランドがね〜」
「それは仕方ない、オレが思ったよりも遠い場所で復活したから。まあ間に合ったんだからいいじゃないか」
「それにしても、真っ先にあたしに会いに来てくれるなんて……終わったらたっぷりと責めてあげるわ〜!」
「いや、それはいいから……それよりオルランドたちは?」
「ちょっと離れたところにいるわよ……それより、さっきから睨んでくるその子は誰かしら?」
「ああ、コイツはオレの旅のパートナーで……」
「上に誰かいます!」
グリゼルダは叫ぶと同時に杖をいきなり投げつけた。
杖は外れた……というか避けられて天井にガシッと当たって落ちてくる。
いや落ちてくるのはそれだけではなく、キラッと光る刃物のようなものを持った人影もだ。
まっすぐオレに向かって降りてきて刃物を振り下ろす……と思ったが、寸前でその軌道はオレから外れていった。
そして横に降り立った人影から聞こえたのは覚えのある声だった。
「タツノスケではないか! どうしてこんなところにお前がいるのだ!?」
それは魔族の女ヴァレンティナだった。
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