第34話 再会
オレは聖職者グリゼルダと共に、王国と魔族の国との国境付近、戦場の最前線に向かって旅をしている。
でも、かなり手前の場所まで戻ってしまったので、どうしても日数がかかってしまいそうだ。
まあオレが到着する前にオルランドたちが反乱を成功させて、魔族との戦争が終わればそれに越したことはないんだけど。
こんな時にバイクがあればなあ。
『勇者の遺産』のバイクは残念ながら鹵獲品として王国軍に奪われてしまったのだ。
「タツノスケ。わたし、さすがにそろそろ疲れてきました。街が見えてきたので休憩しませんか?」
「そうだな、少し休憩したところで影響はないだろうし。でも、なんか見覚えがあるような……」
思い出した。
ここはケイティのボディガードが負傷した時に病院へ運び込むのに入ったことがある。
ちなみにケイティは『勇者の遺産』を掘り当てようとした山師の一人で、オレを作業員として雇っていた女性だ。
まあ、会えればいいし、そうでなければ今回は素通りだ。
生き残ることができればいつでも来れるのだ。
そんな感じでとある喫茶店に入って腹ごしらえと水分補給をしようとしたところ……。
「いらっしゃいませ~! って、タツノスケじゃないか! 思ったより早く私の元に戻ってきたんだね」
なんと、カウンターで切り盛りしていたのはケイティだった。
「いや、オレは旅の途中で、ここには立ち寄っただけなんだ。ケイティこそなんでここに?」
「私、もう山師は辞めたんだ。で、ウチのクソオヤジの事業を手伝うことになってね。まずはここのオーナー店主を任されたってわけさ」
ケイティの父親は大商人と聞いている。
仲が悪かったらしいが、一応和解したようだ。
「そうなのか、店を持っておめでとう。それですまない、さっきも言った通りでお土産も何も用意していないんだ」
「いいよ、また何時でも来てくれれば。その時はこの店で一緒に働いてもらおうかな……ところで横にいるのはお連れさん?」
「ああ、旅のパートナーの聖職者だ」
紹介されたグリゼルダは、一歩前に出てから、にこやかな顔で丁寧にお辞儀しながら挨拶した。
「わたし、『タツノスケのパートナー』のグリゼルダと申します。よろしくお願いします」
「ふうん、そうなのか……でも本当なのか、また今度タツノスケからじっくり聞かせてもらおうかな」
なぜか2人の間に緊張感がみなぎっている。
どうして挨拶くらいでそうなるんだよ、女ってのはよくわからないな。
「そうそう、旅立つ前にウチのボディガードの見舞いだけ頼むよ。もう意識も戻ってかなり回復したんだ」
ケイティはオレたちに飲み物を出しながら話しかけてきた。
それじゃあちょっと寄っていくか。
オレは精一杯買える範囲の見舞いの品を用意して病院へ寄った。
今度は失礼のないように名前で呼びかけると、強面の顔を崩してにっこり笑顔で出迎えてくれた。
そのあと、ケイティの伝手で別の街へ行く荷馬車の荷台に乗せてもらい、街を出発した。
ありがたいことだ、足を休めて日数も少しは短縮できるのだから。
それから数日後、遂に王都と前線への分岐点となる村へ到着した。
ここでもいろいろと世話になったな。
「あっタツノスケ! あの乗り物はどうしたんだよ〜!」
早速村のガキども……いやお子様たちが群がってきたが、バイクはもうないと説明すると蜘蛛の子を散らすように離れていってしまった。
バイクの方がオレよりも人気があるのかよ……なんだか虚しさを覚えてしまう。
「タツノスケ! わたしの元へ帰ってきてくれたのね!」
声の主はコリーナ、この村のしっかり者の女の子だ。
「いやすまない、旅の途中で寄っただけなんだ。で、コイツは旅のパートナーのグリゼルダ。こちらの女性はコリーナ、オレの命の恩人なんだ」
「そうだったんですね。『わたしのパートナー』が大変お世話になりました」
「いえ、こちらこそタツノスケには大変な恩義がありますから。それに、わたしの初めての相手ですし」
グリゼルダは先に余裕の表情で挨拶をしたのだが、コリーナが笑みを浮かべながら挨拶し返すと、途端に動揺し始めた。
「は、初めてって、どういうことですかタツノスケ!」
「呼吸が止まってたから、人工呼吸をしてもらったんだよ。その際、彼女のファーストキスを奪う形になってしまったんだ」
「なんだ、それだけのことなんですね!」
「まあ、確かにそれだけですけど。そういうグリゼルダさんはどうなんですか? まさか、今まで何も無かったとか」
「わ、わたしは……彼を抱っこしたことがあります!」
「抱っこ、だけですか? クスクス」
またなんかどうでもいいようなことで揉めてるし。
オレは強引に話題を切り替えることにした。
「コリーナ、あれからこの村はどうなったんだ? 一見平和そうだけど」
「うん、あの男をタツノスケが倒してくれたあとに、村人総出で役所へ訴えたの。そしたら、今年は年貢を免除するって。来年からはちゃんとした人を寄越すって約束もさせたのよ」
「そうか、それなら良かった。それで慌ただしい話なんだけど、ひと息つかせてもらったらまた旅立つよ」
「そう……でも用事が済んだら、何時でもここに戻ってきてね」
「ああ、今度はいろいろとゆっくり話そう」
オレとグリゼルダはいよいよ国境の前線を目指して歩みを進める。
何もかも終わって生きていたら、これまで世話になった各地へ挨拶してまわろうかな。
今回は2人だけだったが、他にも沢山いるのだから。
そういえば、魔族の女ヴァレンティナはどうしてるのだろうか。
身体がキチンと回復していればいいのだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます