第32話 脱出

 オレは今、棺桶の中にいる。


 激しい拷問を受けた挙げ句、大した情報も得られないまま放置され死んでしまったということになっているのだ。


 そしてこれからオレの葬儀……という程でもない火葬が始まるのだ。


 いや、火葬というよりは爆破葬というべきか。


 オルランドたちのもう一人の仲間クラウディオがスキル『爆破』でひと思いに吹き飛ばしてくれるのだ。


 なぜこんなことになっているのかというと。


 尋問を終えて情報を引き出されたオレの扱いをどうするかで他に妙案が出なかったからだ。


 その時の様子を思い出すと、なんだか笑えてくる。



「いろいろと情報をありがとうタツノスケ。君から得たものは必ずや我々の役に立つだろう。いや立たせて見せる」


「……お前らはともかく、他の奴らは信用するのか? 結構滅茶苦茶な話ばかりだぞ」


「それは問題ない。カミッロの読心術の確かさは陣営内で知れ渡っている。そこから得た情報なら信用度が高い。それに裏付けもとれたしな」


「裏付け? そんなの取れる話なんてあったかな」


「魔王の居城の話だよ。上層部から『魔王の居城を目標とした総攻撃』の方針が示されたのと、君がうっかりコソ泥に話してしまった時期が近い。これは偶然とは思えない」


「なるほどね。で、オレはどうなるんだ? 用済みで始末するってか?」


「おいお前! 俺たちを何だと思ってんだよ、一部のロクでなし異世界人と一緒にするな!」


「お姉さん悲しい。あんないい声で鳴く男の子からこんな酷いこと言われるなんて」


「落ち着けカミッロ、サマンサ。彼が王様や王国から受けた仕打ちを考えれば仕方のない反応だ」


「わかったよオルランド。でもさ、現実問題としてどうやってコイツを逃がすんだよ? 下手すると俺たちが疑われるぞ」


「それは今考えている……なかなか難しいことだが」


「……オレにいい考えがあるんだけど」


「うむ、言ってみたまえ」


「オレは死んだことにして棺桶に入れて、そのまま火葬で燃やし尽くせばいい」


「馬鹿なことをいうな! それでは確実に死んでしまうではないか、君は自殺したいのかね?」


「さっきオレの能力についても質問してただろ? それならわかってるはずだ、生存フラグさえ立てばどんな状況だろうがオレは復活する」


「いやしかし……本当に立つという保証はあるのかね?」


「無いよそんなもん。でもさ、反乱を起こそうとしている奴がその程度のことで覚悟決められないようなら、どの道上手くいかないと思うけど」


 3人はしばし沈黙した後、お互いの顔を見合わせて、次にこちらを向いた時には覚悟の決まった顔をしていた。


「タツノスケ君には頭が上がらないな。君の言う通りにしてみよう。そして君も今日から我々の仲間だ。復活したらなるべく早くここまで戻ってきてくれよ」


「お前にも手柄を立てさせてやりたいけど、グズグズしてると俺たちだけで反乱成功させちまうからな」


「戻ってきたら、今度こそ最後まで楽しみましょうね」



 最後のはともかくとして、あそこまで言われたら悪い気はしない。


 そして背負っていた旗も棺桶に入れてもらって、いよいよ脱出ショーの始まりだ。


「それじゃあなタツノスケ君、幸運を願ってるぜ」


 爆破スキルの男クラウディオはなかなかのナイスガイだ。


 ただ、スキルとしては微妙で、『直接手で触れた物や生き物』しか爆破できない上、触れた時間によって威力が変わる。


 軽くタッチした程度では軽傷を負わせるのが関の山、人間を完全に爆破するには数分間はかかるらしい。


 そしてクラウディオが棺桶から離れていくのを感じた直後、オレは意識を失った。


 オレは今回、初めて『仲間が待つところへ戻るための危険な脱出』というシチュエーションに対して生存フラグを立ててみた。


 あとはそれが機能するのを待つだけだ。



 あれから、どれくらいの時間が経過したのだろうか。


 いや、何日か経過している可能性もある。


 オレは意識を取り戻した。


 でも服装はボロボロであちこち火傷や傷だらけだ。


 そして場所は、何もない荒野。


 とにかくここがどこか、街でも探して聞かないと戻れない。


 そしてフラフラしながら歩き通し、倒れる寸前で辿り着いたのは、あの決闘の舞台となったオアシスの街だった。

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