第31話 尋問


「うーん。ここは、どこなんだ?」


 気を失っていたオレは、どこだかよくわからない薄暗い部屋の中に閉じ込められていた。


 それはいいが足が宙ぶらりんになってる。


 というか両腕を縛られて上から吊るされてるじゃないか!


 しかも上半身裸に剥かれちゃってるし。


 こういう状態でこれから起きることって……。


 不安で一杯のオレだが、今は部屋の中に誰もいない。


 どうにかして縄を解いて脱出できないものか。


 しかし無情にも、部屋のドアの鍵が開けられる音がしてから数人がぞろぞろと部屋に入ってきた。


「やあ、気がついたかねタツノスケ君」


 連中のうちで最年長っぽい40代くらいの渋いオッサンが話しかけてきた。


 コイツ、なんでオレの名前知ってるんだよ。

 昨日も今日も名乗った覚えはないぞ。


 オレが内心動揺しているのを悟ってか、オッサンは不敵な笑みを浮かべながら喋り続ける。


「まあ、そんなに緊張しなくてもいいよ。私たちは、君にちょっとばかし聞きたいことがあるだけなんだ」


 オッサンはそれだけ言うと、近くにある机から椅子を引っ張り出して腰を下ろした。


 ちょっと聞きたいとか言ってたが、どうせ洗いざらい喋らせるつもりだろう。


 そしてオレの前に一人の女がずいっと近づいてきた。


 年齢は大学生くらいだろうか。

 胸元が開いてボディラインがくっきりとした服装のセクシーなお姉さんだ。


 そしてその手には長い鞭を持っている。


「ウフフフ……あたしはサマンサ。今日は貴方の尋問を担当することになったの。よろしくね坊や!」


「オ、オレは何も喋ったりしねえぞ! それに坊やじゃねえ!」


「あら失礼。でもそんな強がり、この鞭を味わった後もずっと言い続けられるかしら〜?」


「拷問するつもりか? そんなものには屈しない!」


「まだ生意気な口が聞けるのね……まあいいわ、それじゃ実際に味わってみれば!?」


 サマンサは鞭の根本を一度ピーンと張ったあとに、すかさず鞭をしならせる。


 ビシィッ! と小気味良い音を立てて地面を叩くと、続けざまにオレの腰のあたりへ打ちつけた。


「グアーッ!」


「ウフフフ、痛かった? でも、それが快感になるくらいに何度も責めてあ・げ・る」


「……それでは、後のことは任せたぞ」


「はいは〜い、任せといて〜」


 途中で衛兵2人が部屋から出ていき、オッサンとお姉さん、あと一人オレよりも少し年下らしき男の3人が残った。


 これからいったいどんな目にあわされるのか、さすがのオレも内心はガクブルだ。


 でもいつでも逆転できるようにフラグを立てる準備をしておかないと……グハァ!


「ああん、いい表情するじゃな〜い。久しぶりに責めがいがありそう、ワクワクしちゃう」


 サマンサは嬉々とした表情で鞭の柄をオレの左頬にグリグリ当て、左手でオレの胸を擦りながら舌舐めずりをする。


 それからオレの耳元であれこれ囁くと、責める顔に戻って鞭を持ち直し、再び鞭を振るい始めた。


「ぎゃああ!」


「情けない声出しちゃって! もっとお仕置きが必要ね」


「おほぉぉぉ!」


「さっきよりはマシになったわね。それじゃあ、これはどうかしら?」


「あふううっ!」


「ウフフ、いい声で鳴くようになったじゃない? その調子でもっともっと聞かせてもらおうかしら〜?」


 ここで年下男がドアの覗き窓から辺りを確認して、緊張を解いた表情でこの場にいる3人に告げた。


「衛兵たちは完全に周りからいなくなったよ。もう大丈夫そうだ」


「そうか。すまなかったねタツノスケ君。とにかく衛兵たちに疑いを持たれないようにする必要があったんだ」


「……だからさっき、鞭で打たれたフリをして声を出せと囁いたのか」


 とりあえずはその通りにしてみたが、思わず悪ノリしてしまった自分が、今となっては恥ずかしい。


「そういうこと。でもあたし、キミのことをもっと責めたかったのにな〜」


「冗談じゃない、最初の2撃はホントにメッチャ痛かったんだぞ! あと手の縛りを解いてくれよ!」


「すまんな、それはできない。急に衛兵が来たときに言い訳できんからな」


「……それで、何が目的なんだよ? お前ら王国軍の者なんだろ、これって裏切り行為じゃないのか?」


「タツノスケ君が昨日叫んでいた事と、旗に書いていたことが本当なのか確かめたくってね」


 おお、ちゃんと見てくれている奴がいたんだな。


 いや安心するのはまだ早い。

 どこで知ったかとか言わせてから、用済みだとか言われて消されるっていうよくあるパターンかもしれない。


 オレはもう、知らない奴をうっかり信じてベラベラ喋ったりしないと心に誓ったのだ。


 オレが不信感を抱いているのを感じ取ったのか、オッサンはまず自分たちのことを話しだした。


「私はオルランド。君と同じく異世界召喚された者だ。スキルは『音波』、こう見えても音楽関係の仕事をしていたんだ」


「俺も同じくで、名前はカミッロ。元は中学3年生で、スキルは『読心術』だよ」


「じゃあ、オレの名前を知ってるのも」


「昨日お前が陣営内に乱入したときに読み取ったのさ。今日も乱入するつもりだったこともね」


「それなら、わざわざ尋問しなくても全部読み取ればいいだろうが」


「ところが人間の心の中って複雑でね。奥底ではいろんなことを思ったりしているから真実を判別するのは難しいんだよ。だから尋問の答えから見える色で真実を見極めていこうというわけさ」


「そうか……サマンサ、アンタが趣味で拷問しているわけじゃなかったんだな」


「あたし、キミのことを責めるのが結構楽しかった。その細いけど引き締まったカラダ、結構好きよ。なんなら続きをしてあげてもいいけど?」


「だけど断る」


「ええ〜、さっきはとってもいい声で鳴いてくれたのに。まあいいわ、あたしのスキルは『鞭』、自在に鞭の長さを変化させて操れるの。キミを捕まえたのもあたしなのよ」


 なるほど、だからオレの視界の範囲外から不意打ちで攻撃できたってわけか。


 魔力や闘気を伴ってないから気配も感じ取りにくいし厄介な能力だ。


「で、我々の目的なのだが……少なくともこの3人は、王様に不信感を抱いている。最初の召喚時から胡散臭いと思っていたが、奴は横柄な態度で人を簡単に使い捨てにする。リスペクトできるような人間ではない」


「それなら王国軍なんて抜ければいいじゃん」


「王様は裏切り者には冷酷で執拗な報復をする。やるなら潜在的に不満を持っている者を多く集めて反乱を起こし、成功させるしかない」


「王様ってそんなに強いのか」


「王様は能力者かどうかもわからない。だがその側近で執事を務める男の強さはケタ違いだ」


 ケタ違いって言うけど、異世界召喚を沢山やってるから能力者だって一杯いるだろうに。


 そんな疑問に答えてもらえそうになく、オルランドは自分たちの都合で話を続ける。


「さて、それじゃ時間も限られてるんでタツノスケ君への『質問』を再開させてもらうよ。反乱の仲間を集めるためには、それを決意させる具体的な情報が欲しいのでね」


「オレはアンタらを信用したわけじゃない。何も答えないぞ」


「別に答えなくても構わない、カミッロが君の心の中の反応を読み取るから」


 そうしてオルランドから質問がいくつか問いかけられた。


 オレは何も喋らなかったが、カミッロが読み取ってしまったのだろう。


 サマンサがカミッロから聞き取りながらずっとメモを取っていた。


 こうしてオレは情報を抜き取られてしまった。


 このあとは果たしてどうなるのか。


 普通に考えれば、彼らにとってオレは邪魔で用済みの存在だし……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る