第30話 呼びかけ
立ち寄ったとある村で、非道な行いをした灼熱エネルギー弾スキル持ちのオッサン(名前は知らない)を倒してから数日。
オレは魔族の国との国境付近を目指して歩き続けていた。
バイクは相変わらず手押しをしているだけで役に立たないが、都合よく魔力を充填できないし。
どこかに魔力を持った親切な人がいないかな……と都合のいい妄想をするのが精一杯だ。
それはそうと、確実に戦場の前線に向かっていることが実感できるようになった。
村も人もほとんど見かけなくなったからだ。
もうすぐ王国軍の陣営が見えてくるだろう。
到着したらいよいよやらなければいけない。
魔族の国へ攻め込むのをやめろっていう呼びかけを。
といっても平和を願ってとか、そういう崇高な目的ではない。
オレのせいで魔王の居城の大凡の位置が王国にバレてしまった可能性が高いので、その責任を取るためだ。
オレは魔族の国へ一時期立ち寄ったことがあって世話になったから、それを仇で返すような真似はしたくないのだ。
でも問題は少なくとも2つある。
まずはそもそも、どうやって呼びかけるのか。
戦場に入り込んで、あたり構わず叫んだところで聞く耳を持ってもらえるのか。
深い付き合いのある間柄でも難しいのに、誰もオレのことを知らない場所では絶望的だ。
もう一つは、オレが王国から指名手配されていることだ。
それがわかった段階で問答無用に攻撃を受ける可能性が高く、呼びかける以前の問題だ。
謂れのない罪での指名手配だけど、そう言い訳したところで相手にしてくれるのか。
歩きながらウダウダと考え続けたが、結局妙案は浮かばないのだった。
◇
歩き続けること数時間、空気に緊張感を感じてきた。
そろそろ陣営が近づいてきたのだろう。
オレはその裏から入っていく形になるわけか。
ここからは慎重に行こう。
ちょっとした森があるのでそこに身を潜め、機会を伺う。
このあとは見通しのいい平地……せめてバイクが使えれば強引に突破するのも可能なのだが。
いや待てよ、上手くいけば燃料を補充できるかも。
◇
夜間の暗闇の中、魔法使いたちが空中から見回りをしている。
それじゃあ、やりますか。
オレの近くにいる魔法使いが1人になったところで、バイクを押しながら森を出た。
そうしてわざと近づいていき……。
「おいっ、誰かそこにいるのかっ? 止まれ!」
もちろんダッシュで逃げ出すが、魔法使いの側にバイクを向けて身を隠しながらだ。
「逃げるなら容赦なく撃つ。止まれ!」
もちろんこれも無視。
そしていよいよ撃ってきた魔法攻撃を、バイクを盾にして2度3度と避ける。
バシッと魔法を弾いて、おまけに魔力を充填できたのだ!
オレはすかさずセルボタンを押してエンジンを始動させ、飛び乗りながらアクセルを吹かして加速する。
「待てっ、待たんかー!」
誰が待つかって。
そのまま森の方角へ走り去り逃げ切った。
しかし改めてこのバイクの加速力はすごいと思った。
さすがは勇者の遺産というべきか。
これで準備は整った。
明日は朝から忙しいぞ。
◇
まだ夜が明けてから間がない時間帯、今日の戦闘が始まる少し前。
まだ戦場に兵士たちが揃っていない、このタイミングでオレはバイクを飛ばして陣地に乱入する。
「お前ら、魔族の国へ攻め込むのをやめろ! 王様にいいように利用されているだけだぞ!」
そう叫びつつ王様の真の狙いを書いた旗を背中に括り付け、はためかせながら走り回る。
なんかもう、やってることは◯走団レベルなんだけど、人目を引くにはある意味効果的だと思う。
「何だあれ。おかしなヤツが走り回ってるぞ」
「バイクってことは俺たちと同じ、異世界召喚された奴か?」
「背中の旗に何か書いてるけど、どういう意味かしら」
途中から追われながらもバイクを加速して振り切り、森の方向へと去っていった。
それから程なくして今日の戦闘が始まってしまった。
まあ、1回くらいじゃ人の心を動かすなんて無理だろう。
これでいつまで続けられるかはわからないが、当分は戦闘開始の前に同じことを繰り返してやる。
それで少しでもオレへの賛同者が増えていけば魔族の国への攻撃を止めさせるのも夢ではない。
というわけで翌日は2回目の早朝アタック、オレは張り切って陣地内に侵入したのだけど。
入って間もなく、何らかの攻撃を受けてドサッと倒れ込んでしまった。
訳のわからないまま、オレは意識を失ったのであった。
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