第29話 4倍だ

「きゃああ! タツノスケ〜!!」


「グフフフ……あの男はやはり指名手配のタツノスケであったか。俺が太陽の光から生み出したエネルギー弾は、灼熱で人体など簡単に燃やし尽くすのだ!」


「ああ、もうおしまいだぁ……」


「観念したか村人ども。さあ、この村に残っているものを全て差し出すのだ!」



「……本当に、もうこれだけでございます」


「そうか、もうこれで全部か……では、お前たちはもう用済みだ」


「そんな! 言う通りにさせておいて、あんまりだ!」


「王国軍の……つまり王様のために忠義を尽くすのがお前たち臣民の義務。しかるにお前たちは徴発にショボい物しか差し出せぬばかりか、もうこれ以上は出せぬとほざきよる」


「そ、そんなこと言われたって」


「臣民が当たり前の忠義も果たせぬとは、王に対する最大の罪である。従ってお前たちは消え去る運命なのだ」


「わしらはともかく、子供たちには罪はない。せめて……」


「おお、そうだな。では子供たちを俺の前に出せ。未来の王国臣民として大切に育てることを約束しよう」


「ヤダ〜、父ちゃん母ちゃんと離れたくないよ〜!」


「言うことを聞いておくれ……お前たちだけでも生き延びてほしい」



「集まったか……ではまずこのガキどもから始末してやろう!」


「な! 約束が違う! わしらを騙したのか!」


「グフフフ、騙される方が悪いのだ。俺はな、ガキをいたぶり殺して、それを目の前で見た親が泣き喚く様を眺めるのが堪らなく好きなんだよ〜! もう、下半身がビンビンになっちまうくらいになぁ〜!」


「やめてー! お願いだからやめてください! 私たちはどうなってもいいから、子供たちだけは!」


「グヒヒヒ! そう、そういう必死なセリフが聞きたかったのよ! そしてそれを無視してヤッちまうのが最高に気持ちいい〜ん!」


「タツノスケ! お願い、さっきみたいに子供たちを助けて!」


「そこの女、恐怖のあまり気が狂ったか? ヤツは俺の攻撃であの世行きだ。まあ後でお前も送ってやるが、まずはガキども苦しんで死ねや〜!」



「チョーシこくのもそこまでにしとけよ、オッサン!」


 オレは掌から闘気を飛ばして、ヤツの掌の上のエネルギー弾を消し飛ばしてやった。


 衝撃音に驚いたガキども……いやお子様たちは一斉に親の元へ逃げ出す。


 オレとヤツは睨み合いとなり、子供たちが攻撃を受けることはなかった。


「貴様ァ……どうして俺の攻撃を受けて生きている?」


「オレを呼ぶゲストヒロインの必死な声が聞こえてきたんでな。それに応えない生存フラグなど有りはしないのさ」


「そういえば、手配書にはなぜか生き返ると書いてあったな。与太話だと思っていたが本当だったとは」


「もはやお前に勝ちフラグが立つことはない。消え失せろ!」


「そうはいくか。こうなったら何もかも焼き尽くしてやる。お前も、この村もなあ!」



 ヤツはそう言うと空中高く浮かび上がり、両手の掌を上に向けた。


「俺のスキルは『太陽熱』、つまり太陽の光をそのまま熱エネルギーとして利用できるのだ。一つは空中浮遊、そしてもう一つは灼熱のエネルギー弾を作る能力としてなぁ!」


 空中浮遊もスキルの能力だったのか。

 なんか気球みたいなヤツだな。

 それはそうと……。


「それじゃあ、曇りや雨の日、それに夜間は力を十分に発揮できないんじゃないか?」


「グフフ、お前の言う通り。だから俺の王国軍内での立場は常に微妙なのだ。なればこそ、徴発活動で他人より大きな実績を上げる必要があるのだ」


「だからってやり過ぎて村人を追い込んだら意味ないだろ」


「うるさい! 取り尽くしたら村ごと焼き払って別の村に行けばいいだけのこと。こんな村、もうどうなろうが知ったことではないわ〜!」


 ヤツは両掌上に作ったエネルギー弾を段々と大きくしていく。


 今日は雲一つない晴天、ヤツにとっては能力を全開できる日なのだ。


「ギャハハハ! タツノスケ、逃げたければバイクで走り出しても構わんぞ! だが、この村はおろか隣の村まで我がエネルギー弾で一面焼け野原だ〜!」


 フザケんな、今更自分だけ逃げるかよ。

 それにオレを逃さないように村人の命を人質に取るような発言、お前の負けフラグを立たせてやる!



 フラグを立ててみると、オレの身体は自動的に闘気を溜め込み始めた。


 互いの強いエネルギーで、まるで蜃気楼のように空間が歪んで見える。


 ヤツは巨大になったエネルギー弾2つを1つにまとめてこちらへ向けた。


「お前ら全員、塵となって消えちまえ!!」


 そしてとんでもない熱量のエネルギー弾を撃ってきやがった。


 オレの身体も自動的に掌から巨大な闘気を撃ち放つ。


「波ぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 お互いのエネルギーが空中で激しくぶつかり合う。


「なにィ、我がエネルギー弾と互角の技だと? だが太陽光がある限り我がエネルギーは無限、お前はいつまで持つかな〜?」


 現状は互角だが、ヤツの言う通り持久戦は不利だ。


 だけど今回は絶対に負けられない戦いなんだ。


 村人たちは避難し始めてるが、こんな巨大なエネルギーが直撃したら逃げ切れない範囲が焼き払われてしまう。


 オレは賭けに出ることにした。


 現状でも身体への負担は一杯一杯だけど、全ての力を注ぎ込めば押し返すことも可能だろう。


 だけどこういうのは勝ち負けどちらのフラグが立つかは五分五分。


 でも賭けるしかない。

 オレはフラグを立ててみた。


 すると全身の力が掌へ吸い出されるような感覚を覚えたあとに、自動的にオレの口が叫び声を上げる。


「4倍だぁーーーっ!!」


 何と比べて4倍なのかはわからないが、同時に大きな闘気が増量されて空中に向かっていく。


 そして一気にヤツの方へと押し返したのだ。


「おかしい! 我がエネルギー弾は太陽熱だぞ、どんな相手でも止められるはずがない!」


 そういう発言は死亡フラグになることが多い、ちゃんと立てといてあげたよ。


 しばらくすると遂にヤツは細胞ごと完全に滅した。


 その直後にオレも気を失ってしまった。



 どれぐらい経っただろうか。


 目を覚ましたオレの鼻は誰かの指で摘まれている。


 そしてすぐ目の前にはコリーナの顔が!


 オレの口は彼女の口で塞がれ、息を吹きかけられている。


 人工呼吸をしてくれたみたいだ。

 胸もちょっと痛い……心臓マッサージもしてくれたのか。


「あっ! タツノスケ、意識を取り戻したのね! 脈がないし呼吸もしてないしで、このまま死んじゃうかと思ったのよ!」


 コリーナが叫ぶと、周りを囲んでいた村人たちから拍手と歓声が湧き上がった。


「ありがとうコリーナ、お前は命の恩人だよ」


「いえ、貴方こそみんなの命を助けてくれた。これぐらいのことは何でもないわ」


「それはそうと……もしかして、その、初めてだったとか?」


「そう……わたしのファーストキスってことになるのかな。タツノスケ、責任取ってくれる?」


「ええっ、急にそんなこと言われても」


 突然のことでオレは完全に狼狽してしまったが、彼女はクスクスと笑ったあとに落ち着いて話してくれた。


「冗談よ。それに貴方は何処かに旅立たないといけないんでしょ。でも、その気になったら何時でもここに帰ってきて。わたし待ってるから」


「……すまない。オレはもう行くよ。また会える機会があることを祈っておくよ」


「ええ、それじゃあね。わたしも祈っておく」


 オレはひと息ついたあとにバイクを手押ししながら旅立った。


 急いで国境付近に行きたいのもあるが、オレが留まっていると結局迷惑をかけてしまう。


 早く色々と解決して、ダラダラ過ごせる安住の地を探しに気ままな旅を再開したいなぁ。

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