第28話 火の玉
オレはとある村に立ち寄り、道を尋ねるのと物資の補給をしていたのだが。
王国軍と思われる奴が物資の徴発にやってきたところに出くわしてしまった。
オレを見送ろうとして一緒にいた村人のコリーナが困惑した表情でボソッと呟く。
「あの人、この間から何回もウチの村にきているんです。もう出せるものなんか殆どないのに」
「それなら断ればいいんじゃないか?」
「この前、村長がそうしようとしたんです。だけど……」
「おい、何をそこで喋っている? ところでそこの男、お前が手押ししているのはバイクじゃないのか?」
おっと見つかってしまった。
でも隠しようがないからどうしようもない。
ん? バイクだとわかるってことは、ヤツは異世界召喚されたスキル持ち能力者ってことだな。
「バイクだったらなんだってんだよ?」
「王国から指名手配されている異世界人がいたな……確かタツノスケ。だがバイクを持ってるなんて情報は書いてなかったが」
まだバイクを手に入れたことは知れ渡ってないようだ。
ここはとぼけることにしよう。
上手く行けばコリーナたちを巻き込まずに済ませられる。
「ああ、オレは確かに異世界召喚された男だが、王様に役立たずだと追放されたんだ。スキルは『バイク乗り』ってやつで、これはオマケで付与された何の変哲もないバイクなのさ」
「ほう……それなら別にバイクがなくてもいいよな? 王国軍のためにソイツを寄越せ」
くそっ、魔力さえ充填できれば移動手段として重宝するのに……でも背に腹は代えられない。
「ほら、ここに置いていくぞ。これだけあれば今日は十分だろう、帰れよ」
「クククッ、それとこの村からの徴発は別の話だ。おい女、他の村人に連絡して準備させろ」
「そんな……もう村には差し出すものなんて」
「いいから出せ。村長のようになりたくなければな」
「……わかりました。それじゃあ一緒に来てもらえる? タツ……」
「タツ?」
「タツゴロウ! それがオレの名前なんだよ、なあ!」
「え? ええそうねタツゴロウ」
やむなくオレは村の中に戻ることになってコリーナと一緒に歩き始めたのだが、彼女は申し訳なさそうにオレに話しかけてきた。
「ごめんなさいタツノスケ。わたし、一人で戻るのが怖くなって」
「それはいいよ。だけどオレが指名手配って聞いて、そのほうが怖くないのか?」
「タツノスケはそんな悪い人には見えないもん。さっきの王国軍の人の方がよっぽど酷いんだから」
「そういえば村長がどうのって」
「この前思い切って村長が徴発に応じるのを断ったの……そしたらあの男がいきなり火の玉みたいなのを手から出して、村長に重傷を負わせたの」
見せしめってわけか。
で、その火の玉ってのがヤツのスキルで出した技なんだろう。
いつもならあの手の輩にはすぐに突っかかっていくオレだけど、今回は様子を見ようと思う。
とにかくオレは村人たちを巻き込みたくない。
彼らの安全が確保されるまでは迂闊な行動は控えないと。
そして村人たちに状況を伝えたのだが、かえって混乱が広がってしまった。
「寄越せって言われても、あとはもう俺たちの食料と生活必需品くらいしか残ってねえよ」
「でも断ったら、わしらまで村長と同じ目に……どうすりゃあいいんじゃ」
どうしよう、何かいい手は無いものか。
オレも意見を言ってみるが、これといった妙案が出てこない。
まごまごしてると良くない方向に……その予感は残念ながら当たってしまった。
「おい、いつまでこの俺を待たせるのだ? まさか反乱の謀議でもしてるのではあるまいな!?」
ヤツが痺れを切らして村の中まで空中を浮かびながら入ってきた。
そして火の玉というかエネルギー弾みたいなのを右手の掌の上に出している。
「キャーッ!」
「うわー、助けてくれー!」
逃げ惑う村人たちの様子を眺めてヤツは薄ら笑いを浮かべている。
そして子供を抱えて逃げる母親の方を向くと、笑いながらエネルギー弾を撃つ体勢に入った。
「まずは俺を待たせた罪、そこの親子に償ってもらおうかー!」
完全に狂ってる。
突然異世界召喚されスキルなんてものを与えられて、途端に調子に乗るヤツの典型だなこりゃ。
とにかく親子のところまで助けに行かないと。
猛ダッシュで近づき、母親を押し出して……それから気がつくと腹に風穴が開いていた。
そして全身が燃え始める。
コリーナの悲鳴を聞いたあと、オレは意識を失った。
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