第27話 考え事と不穏な気配

 ケイティと別れてから数日が経過した。


 オレは今、バイクを手押ししながらさまよっている。


 この前カーラの魔法攻撃がバイクに当たったことで充填された魔力は既に尽きており、現状は乗り物としては役に立たない。


 でも歩きながらの方が考え事をするには丁度いい。


 で、何を考えているのかというと。



 まずは『ゴーレム使い』のミノルが自爆する直前に話したことについて。


 『3度も勝てなかった自分は王様に処刑される』なんて言っていたが、どうにも納得できない。


 ミノルのスキルはかなり強力なもので、その気になれば逃げ出すなり、逆に王様を叩き潰すなりできそうなんだが。


 あの王様って、そんなに強力な能力でも持っているのだろうか?


 オレも召喚された時や追放された時に王様に会ったことはあるが、胡散臭いインテリ◯クザ風の雰囲気ではあったけど、そんなに強そうには見えなかったけどな。


 それか取り巻き連中の中にメチャクチャ強いのがいるのかもしれないけど、それならオレが知らないだけということになる。



 次に、オレがこれからどうするべきかについて。


 そもそもオレが今のように逃げ回るような生活を送っているのは、王国に指名手配されてしまったからだ。


 その切っ掛けは、ろくでなしの悪党どもが、オレが世話になった人たちへ酷いことをしたのをスキルで助けたことだった。


 それ自体は後悔していないが、今回はオレが周りを巻き込むことになってしまったのだ。


 だからこれ以上は逃げ回らずに、いっそのこと王都を目指そうかと考えている。


 そして王様に直談判して手配を解いてもらい、オレのことは放っておいてもらえるように頼むのだ。


 そんなに都合よく事が運ぶわけがない、というのは重々承知している。


 でもオレが王都に向かうことで無関係の村や街が巻き込まれる可能性は少なくなるはず。


 途中で刺客の能力者に倒されたとしても、それは自分だけのことだから気にしなくて済む。


 ただ、どの方角でどの道を辿れば王都に着くのかわからなくなったので、しばらくは立ち寄り先で尋ねるしかない。



 あと気になっている事が一つある。

 王国が魔族の国への総攻撃を計画しているという噂を街で耳にした。


 特に魔王の城を陥落させることを目標としているらしい。


 オレはしばらく前に魔族の女ヴァレンティナと知り合い、一時期だけ魔族の国に入れてもらったことがある。


 その際に魔王の城にも案内されたのだが。


 王国に戻ったあと、荒野のオアシスの街でたまたま宿が相部屋となったゲーツという置き引き窃盗犯に、うっかり城の場所とか喋ってしまったのだ。


 ゲーツは仲間を見捨てて逃亡中であり、オレが話した情報を王国に売ったのではと不安に思っている。


 だとしたらオレの責任だ。


 なんとかして攻撃を止めさせたいが、オレが一人でどうやればそれを実現できるのか考えても思いつかない。


 玉砕覚悟で戦場の最前線まで行って攻撃をやめるように呼びかけようか。


 そもそも王国が魔族の国に戦争を仕掛けたのは原油の産地を狙ってのことだと魔王から聞いているし、王様と取り巻き連中が大儲けしたいだけなのだ。


 そのあたりの事も呼びかければ、もしかしたら賛同してくれる奴らが出てくるかもしれない、試す価値はある。


 さて、前線と王都、先にどちらに行こうかな。


 まあどちらにしても、近くの街か村で情報を集めよう。



 現在オレはそこそこ大きな村に立ち寄っている。


 最低限必要な物の買い込みと情報収集だけしたらすぐに立ち去るつもりだったのだが、そうはいかなくなった。


 村のガキども……もといお子様たちがバイクを珍しがって群がってくるのだ。


「ねーねー、なにこれー?」


「はやくうごかしてみせてくれよ〜、おっちゃん!」


 おっちゃん……オレまだ高校3年生なんだけど。


 小さい子供から見ればそう見えるのかもしれんが、少なからずショックを受けている。


「もう〜、ダメでしょみんな〜! 旅のお兄さんが困ってるじゃない、向こうへ戻りましょう!」


 助け舟を出してくれたのはこの村に住むコリーナという少女だ。


 オレよりも少し年下だと思うけど優しくてしっかり者っぽい、可愛らしい女性だ。


「なんだよ〜、コリーナのケチ!」


 ガキども……いやお子様たちは悪態をつきながらもコリーナの言うことを聞いて村の中心方向へ戻っていく。


 この村には寺子屋みたいな学校があるらしく、彼女もその関係者のようだ。


「ありがとう、助かったよコリーナ」


「いえ、こちらこそすみません、騒がしくしてしまって」


「いやいや大丈夫。それじゃあ、オレは西を目指してみるよ」


 この村から西方向が魔族の国との国境、北が王都方面とさっき教えてもらったのだ。


「ではお気をつけて。でも物資はあれだけで足りますか? ウチの村も色々と不足していて、あまり売ってあげられなかったけど」 


「問題ないから気にしないで。そういやどうしてそんなに不足してるのさ?」


「最近、王国軍の人たちが『徴発』とかいって食料や物資を無理矢理持っていってしまうんです」


 やっぱり噂は本当なんだな。

 総攻撃の準備をしているに違いない、早く前線に行かないと。


 オレはバイクを手押しで出発しようとした。


 しかし突然上空から男が大声で村人を威圧するように言い放った。


「おい村人ども! 今日も徴発に来てやったぞ! 死にたくなかったら、さっさと差し出す準備を始めるんだな!」


 なんだコイツ、王国軍の奴なのか?

 空を飛んでいるということは魔法使いなのか、それとも異世界召喚されたスキル持ちか。


 なんにしても、すぐに出発するわけにはいかないようだ。

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