第26話 後始末
「イテテテ、とりあえずは生きているみたいだな」
ミノルがゴーレムを自爆させてバイクごと爆風に飛ばされたのだ。
他の作業員連中は無事なんだろうか。
身体のあちこちが痛いけど、バイクをなんとか起こして様子を見に戻る。
ゴーレムが爆発した地点に近づくにつれ、遠目からでも、それが跡形もなく木っ端微塵に消え去っているのがわかる。
ゴーレムの上から覆いかぶさるようにしておいた巨大ロボットだけが、その場に四つん這いの状態で静止しているのだ。
それにしても途轍もなく頑丈なロボットだな、さすがは『勇者の遺産』。
爆発で生じた熱や爆風による周りの被害は、思ってたよりはずっと少なかった。
これ、このままオレがもらっちゃおうかな。
いや待てよ、こんな馬鹿デカいものに乗って旅をしたら、目立ち過ぎて安住の地を探すどころじゃない。
そんなことを考えていたオレだが、心配は杞憂に終わった。
ロボットのあちこちの関節部分がひび割れて、あっという間にバラバラとなってガラガラと崩れ落ちてしまったのだ。
考えてみれば、数百年前に作られたロボットだもんな。
外部の装甲は問題なくても、関節とかの壊れやすい部分や内部が劣化していてもおかしくはない。
おっと、こんなことばかりに気を取られてたらだめだ。
ケイティや仲間の作業員たちは無事なんだろうか。
「おーい、タツノスケく〜ん!」
ケイティの大きな声が聞こえてきた。
よかった、これだけの声が出せるなら大丈夫そうだ。
オレはバイクを押しながら、ケイティが手を振る方向に近づいていったのだが……現場監督のオッサンが倒れている。
その背中は服が焼け焦げ、どう見ても酷い火傷を負っている。
「私がいけないんだ……キミのことが気がかりで爆発の直前に戻ろうとして、危ないところを彼が必死で守ってくれたんだ」
「とにかく早く医者に見せないと。何処かにいないのか?」
「ここからだいぶ離れたところに街があって、そこなら」
オレたちは巨体のオッサンが乗れる大きな荷車を急いで用意して、それをバイクで牽引する準備を始めた。
オッサンを乗せるのも一苦労だったが、さすがに緊急時なので荒くれ者の作業員たちも協力してくれた。
そしてバイクの後部にケイティを乗せて街を目指して出発した。
あまりスピードが出せないが少しでも早く運んでやりたい、それだけに集中して、オレとケイティは道案内以外の会話は無く黙ってバイクに乗り続ける。
そうして現場の廃村から20キロ近く離れている街に30分ちょっとで到着した。
まだ昼間なので医者にはすぐに診察してもらえた。
医者は患部を見て驚いていたが、比較的早く運び込んだので命は助かるよと言ってくれたのでひと安心だ。
ケイティはそれを聞いて少し涙ぐみながら話をし始めた。
「本当に良かった……彼は私が子供の時からウチでボディガードをしてくれているんだ。だから心配でたまらなかったんだ」
「それなら役に立てて良かった。そういや今更だけど他の作業員は大丈夫なのか?」
「ああ、ウチは擦り傷か切り傷程度の者しかいない。ただ、他の山師のところはかなりの死者が出たようだ」
改めて死者に言及されると胸が苦しくなる。
もちろん直接やったのはミノルだけど、その切っ掛けはオレと言えなくはない。
ケイティを残してオレはバイクで現場に戻り、負傷者の搬送等を手伝おうとしたのだけど。
「さっき起きたことって、お前も関係あるんだろう? 仲間を殺した奴と何か話してたじゃねーか!」
「お前なんかの汚い手で触るんじゃねえよ!」
手伝うことすら拒否され、しまいには石を投げつけられてしまった。
言い訳しても聞いてもらえそうもなく、オレは現場を離れて再びケイティのいる病院に戻った。
そしてケイティに別れを告げることにしたのだが、すぐには納得してくれなかった。
「そうか……でもあの魔法使いと最初に話してた内容を私も聞いていたが、タツノスケの話も聞かずに向こうが一方的に攻撃してきたじゃないか」
「だけど、オレがこれ以上アンタの元にいれば迷惑をかけることになる。それは嫌なんだ」
「そんなこと私は……いや、でも結局はタツノスケが辛い思いをするだけか」
ケイティは両手で顔を覆って少し考え事をしているようだ。
それから手を下ろして顔をこちらに向けたときには、どことなくスッキリした表情となっていた。
「それじゃあ、もうここでお別れしよう。でもね、キミが今日のことと向き合って自分の中で解決できたら、またいつでもおいで。私は待ってるよ」
「……ありがとう、そして本当にすまない」
「あっ、来るときはお土産くらい持って来るんだぞ。長い休暇を取った後にはそれが礼儀ってもんだ」
「ああ、忘れずに持ってくるよ」
「あと、今度はボディガードの彼のことを、オッサンじゃなくて名前で呼んでやってくれよ。キミに名前も覚えてもらえてないのかとガッカリしてたぞ」
そうか、それであのとき無視されたのか。
今度は失礼のないように、ケイティから名前をキチンと聞いておいた。
「それじゃあ、オレはもう行くよ」
「ああ、元気でな」
オレが病院を出るまでケイティは見送ってくれた。
結局オレは後始末を中途半端にしかできず、自分の無力さを実感した。
今回のことは、オレにとってこれからの旅をどうするか考える切っ掛けとなった。
最終目的は変わらないが、今まで通りにダラダラ旅をするだけでは、いつまでも同じ事の繰り返しになる。
いつもよりずっと多く考え事をしながら、オレはバイクを手押しするのだった。
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