第25話 鋼鉄の砦
ミノルの金属製ゴーレムと対峙したはいいが、どうやって倒せばいいのか。
バイクにはこれといった武装もないし、もちろん正面から突っ込んだところで勝ち目は無い。
オレに対抗手段がないのを見透かしてか、ミノルは余裕を見せて喋りかけてきた。
「どこでバイクを手に入れたのか知らないけど、そんな物じゃ僕のゴーレムは……おっと、舐めてかかると『フラグ』とやらが発動してしまうんだったね」
「別に、フラグが立つのはそのパターンだけじゃないけどな!」
「挑発には乗らないよ。今回は、君をハエのように叩き潰す、それだけを考えるようにしてるのさ」
「誰がハエだよ! それにお前のゴーレムなんか、このバイクで十分倒せらあ!」
「クククッ、それこそ君の言う『負けフラグ』なんじゃないか? 強がりも程々にしなよ」
奴の言うとおりだ、焦って自ら負けフラグを口走ってしまうなんて。
まだフラグを立てる準備をしてなくて助かった。
オレのスキルは、例えオレ自身へと発した負け・死亡フラグでも立ってしまう。
それにしてもミノルって、こんなキャラだったかな?
やけに冷静と言おうか冷酷と言おうか。
屈辱を晴らしたいってだけでこんなに人は変われるものなのか?
ちょっと混乱しているオレをお構いなしにミノルの話は続く。
「僕はね、召喚される前は大学で電気工学を学んでいたんだ」
「なんだよ、いきなり学歴自慢かよ? オレは高校3年生でそのまま卒業予定だったけどな!」
「違うよ。僕は特に電磁気学が得意でね。自分が生み出した土のゴーレムたちで大量の電気を作り、強力な電磁石で大量の鉄を集めてこの金属製ゴーレムを作ったのさ」
「ご説明どうも。それで?」
「このゴーレムの中にも電気をエネルギー源として蓄えてあるんだけど……腕の中にそれぞれ5本、両方で10本の長いコイルを仕込んであるんだよ」
「……」
「それで指先から、コイル内を通って加速した弾丸を発射できるようになっているってわけさ!」
ミノルが言い終わると同時にこちらに向けた10本の指先がパカッと開いた。
詳しい理屈はよくわからんが、ヤバい攻撃が来る!
オレはバイクのアクセルを吹かしてすぐに逃げ出した。
そしてゴーレムから弾丸がマシンガンの如く次々と打ち出されて地面が抉られ、土埃があたり一面を覆い尽くす。
そこにミノルの高笑いが響き渡った。
「ハッハッハ、さっきも言っただろうタツノスケ! 君が逃げ回れば関係ない連中に被害が及ぶって!」
オレはなんとかゴーレムから距離をおいたが、ミノルはゴーレムを歩かせながらあたり構わずに乱射している。
逃げ切れない人たちが多数倒れていくのを見て、オレは覚悟を決めた。
「もうやめろ! 狙いはオレだろう、目の前まで行ってやるから待ってろ!」
この状況で何か立てられそうな生存フラグや勝利フラグは思い浮かばないが、事前予約だけはしておいてゴーレムの前に戻った。
まあ、駄目だったらオレの人生が終わりになるだけさ、養っている家族とかいないし問題ない。
「それじゃあ終わりだタツノスケ、さようなら」
ミノルがゴーレムの右腕を振り上げて、オレの方へ狙いを定める。
そしていよいよ……というところで、地面の強い揺れと、大量の水が滝に落ちるような轟音が響いた。
「何が起きたんだ、いったい」
ミノルの気がそれた……といってもオレは動くわけにいかないけど。
音がした方向は、村の少し向こうにある溜め池の辺り。
その手前にいくつか木が生えているが……溜め池の下からせり上がってくる物体が見えてきた。
かなりデカイな、ミノルのゴーレムと同じくらいか。
そしてバイクからも何やら警告音が。
もう一度バイクに跨ると、せり上がった物体からバイクに向かって光のような物が一直線に向かってきた。
光はバイクの前輪の手前で止まったが、今度はバイクが勝手に動き出して光の上を走っていく。
最後は物体のてっぺんにバイクごと乗り込み、周りをカバーが覆った。
ちなみに乗り込む前に見えた物体の正体は、鋼鉄の砦のような巨大ロボットだった!
カバーの内側からは周りの景色が見える。
操縦はバイクを操縦するとなんとなく動いてくれる。
バイクに繋がった機器類がロボットに伝えているのだろうか。
そうかわかったぞ。
このロボットこそが『かつて魔王を倒した勇者の兵器』であり、バイクはそれに乗り込むためのものに過ぎないのだ。
オレはロボットを動かしてゴーレムに突っ込んでいく。
「ええい! こんなロボット、僕のコイルガンで粉々にするだけだ!」
ミノルは指先を向けて一斉に撃ってきたが、このロボットの装甲は凄まじく頑丈でビクともしない。
「今度はこっちの番だぜミノル!」
ロボットの右腕を振りかぶってゴーレムを殴りつけた。
さすがに金属製なので一撃で破壊とはいかなかったが、頭部を凹ませて大きくグラつかせてやった。
「くそっ……だけど僕には、まだ奥の手がある!」
ミノルはゴーレムの両手首を高速で回転させ始めた。
これも電磁の力なのかはわからないが、手首の周りに空気の回転渦ができて強力そうな技だ。
だけどさあ、ミノル君。
劣勢になってからそういう事を焦って言い出すってのは、負けフラグに繋がる方が多いんだよなぁ!
ゴーレムは右、左と続けて回転している拳を出してきた。
オレは構わずフラグを立てる。
するとロボットは自動的に左、右と相手の拳へ正面からぶつけ合い、空気渦をものともせずに手首の回転を止めた。
ゴーレムの両腕は負荷に耐えられずバキバキッと破壊されていく。
「そんな馬鹿な! この僕がこれだけの装備を準備したのに、やられるはずがあるもんか!」
「とうとう言ってしまったなミノル、決定的負けフラグを。お前はもう終わっている」
ロボットはまたまた自動的に、握った両拳を前に突き出すと、両前腕部が分離してロケットのごとく突進して行き……。
ゴーレムの上半身をドカーンと木っ端微塵に打ち砕き、動作不能に追い込んだのだった。
勝負は着いた。
ミノルは……まさか上半身と一緒に吹っ飛んだのか?
いや、ゴーレムのお腹の辺りから声が聞こえてきた。
「もう終わりだ……同じ相手に3度も勝てないなんて、生きていても仕方がない」
「おい、オレはそこまで望んじゃいないぞ!」
「お前がそう思っても、王様が許さないよ。どの道処刑とかされるくらいなら、いっそここで」
ミノルが不気味な言葉を言い終わると、ゴーレムからとんでもない警告メッセージが聞こえてきた。
「本機は、あと30秒で自爆機能が作動します。速やかに離れてください」
しかも魔法使いのカーラが、メッセージを聞いたあとにゴーレムへとしがみついてきた。
「おいカーラ、すぐ離れろ!」
「……お前を倒せないなら、いっそのこと、ここで死んでリュウジのところに会いに行くの」
ナメたこと言ってんじゃねーよ、どいつもこいつも!
とにかくまずは周りの連中に避難を呼びかけないと。
「みんな、今すぐここから少しでも遠くに離れろ! もうすぐ爆発するぞ!」
山師や作業員たちが一斉に逃げて行く。
ケイティも、ちょっとこちらを振り返りつつも逃げて行ってくれた。
あとはバカ2人をどうするか。
オレを仇とつけ狙う相手を助けるのもアレだが、後味が悪いのでカーラは助ける。
ロボットの左手でカーラを掴んで、そのままロケットで発射した。
あとはミノル。
でもコイツは今回、無関係の人たちを多く虐殺した。
しかし、やっぱり後味が悪いし助けよう。
だけどミノルがどの部分に搭乗しているのかわからない。
下手に腕を突っ込むとそれで殺しかねない。
かといって呼びかけても返答がない。
「あと5秒です」
仕方がない、オレはロボットをゴーレムの上から覆いかぶせ、頭部を開けてバイクで脱出した。
そうして懸命に離れたあとに、後ろから轟音と爆風に見舞われたのだった。
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