第24話 合体

 オレを仇とつけ狙う魔法使いの女カーラは、オレの姿を確認したあとにキョロキョロと周りを見回してから質問してきた。


「今日は、魔族の女も聖職者の女も見当たらないの……また別の女を仲間にして邪魔させるつもりなの?」


「誰もいねえよ! それより、その言い方やめろよな! まるでオレがあちこちで女を引っ掛けて連れ回してるみたいじゃないか、人聞きの悪い!」


 まったく、おかげでケイティからは呆れたようにジッと睨まれてるじゃないか。


 誤解を確認もせずに人前で晒すのはいけないと思うんだよオレは。


 しかしカーラはオレの抗議を無視して自分の言いたいことだけ喋り続ける。


「まあいい、それならば気兼ねなくお前を攻撃できるの……!」


 やばい、カーラの攻撃が来る。


 オレは咄嗟にバイクの陰に隠れた。

 バイクは斜めになってオレの上にかぶさり、重くて押し潰されそうだ。


 そして周囲にいる連中に大声で警告を出した。


「みんな、オレからすぐ離れろ! アイツは魔法使いだ、攻撃に巻き込まれるぞ!」


 周りにいた山師や作業員たちが蜘蛛の子を散らすように離れていく。


 ケイティはオレに向かって何か言っているが、ボディガード役の現場監督に担がれて避難した。


「これでも喰らうの!」


 カーラが魔法で攻撃してきた。


 でもバイクはそれをバシッと弾いてビクともせず、オレに攻撃は届かなかった。


「何なのそれ……今度は最大出力で攻撃してやるの!」


「うわあっ!」


 今度もバイクが攻撃を防いでくれたが、衝撃で押し潰されそうになる。


 たまらずバイクの下から抜け出すが、急いで逃げ回らないと。


 作業中は小さな旗しか懐に忍ばせてないから、有効な生存フラグが立てられるかわからない。


「危ねっ!」


「逃げ回らずに、おとなしく死ぬの!」


 ムチャクチャ言ってんじゃねーよ!


 でも確かにこれ以上は逃げられそうにない、勝負に出よう。


「わかった! オレはここから動かない。だからひと思いにやってくれ」


「……死ね! タツノスケ!」


 両手を広げて立っているオレに向かって、カーラが渾身の魔力を込めた攻撃を放った。


 それが目の前まで迫ると、オレは一言呟いた。


「よし、今だ!」


 それと同時に攻撃は弾け飛んで、周囲に太陽のような眩しい閃光が放たれた。


 降伏したと見せかけて油断させ騙し討ちする『偽旗作戦』、地味だがこれもオレのスキル『旗手』の能力の一つなのだ。


 発動時に『かかったな』とか『アホが!』とか余計な一言さえ口にしなければ、変なフラグが立つこともなくキッチリ役割を果たしてくれる。


「キャアッ! 目が!」


 カーラが眩しさに怯む声が聞こえてきたので、オレはバイクに向かって走り出す。


 さっきカーラの魔法攻撃がバイクに当たったときに、微かにエンジンの起動音のような音が聞こえたのだ。


 やはり動力源は魔力……今なら動かせるかもしれない。


 急いでバイクを起こし、セルボタンを何回か押したら、予想通りにエンジンが始動した。


 すぐに跨ってアクセルを吹かし、ギアを上げながら拝借してる空き家を目指す。


 目的はもちろんいつも背負っている大きな旗を持ち出すことだ。


 そろそろ閃光の効果が切れてくる頃……そのタイミングで、上空に浮かぶ金属製の飛行物体から声が聞こえてきた。


「カーラ、あとは僕に任せて。君は少し休んでなよ」


 この声は、オレと同じく王国に異世界召喚されて『ゴーレム使い』スキルを持つミノル!


 コイツはなぜかカーラに肩入れしてオレの命を狙っているのだ。


 飛行物体の一つが地面スレスレまで降下してカーラを降ろすと、今度は5つの飛行物体全てが上空に舞い上がる。


 そして一列に並ぶと先頭へ向かって次々と接近していき、ガシャーンと合体していった。


 そうして5体が一つになった姿は、まるで合体ロボットのようだ……でも金属製のゴーレム?


 そのゴーレムがズゥーンと地鳴りのような音を響かせて地面に降り立つと、ミノルはとんでもないことを言い出した。


「タツノスケ、こっちに戻って来るんだ……早くしないと、あたり構わず暴れ回って関係ない連中にまで被害が及ぶぞ!」


 そうして本当に、避難していた連中に近づいて拳を振り下ろし始めた。


 その惨状はとても直視できない程だ。


 野郎、その気になればオレの近くに着地できただろうに、ワザとこんなことして楽しんでるとしか思えない。


「ハッハッハ、僕がお前から受けた屈辱はこんなものじゃまだまだ晴れないぞ!」


 つまりは八つ当たりかよ、酷いことしやがる。


 オレはバイクに乗ったまま空き家に入って旗を探す。


 どこへ仕舞ったかな……焦って探すオレの耳に、ズゥーンと地鳴り音が数回聞こえてきて接近してくる。


「もうお前は袋の鼠だ、家ごと潰れてしまえ!」


 ミノルの喚き声と同時にゴーレムの右足が空き家を木っ端微塵にした。


 だけどオレは直前にバイクで窓をぶち破って脱出していた。

 ギリギリセーフで危なかった。


 オレは旗を背負ってミノルに対峙する。

 無関係な連中に酷いことをした報いは受けてもらわないとな。

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