第23話 遺産の管理と事態急変
地面の中からオレとケイティの目の前に現れた物……それはなんと『大型のオートバイ』と思われる2輪の乗り物だった。
「なんだろうこれは。2輪の手押し車か? でもそれにしては荷台がほとんど無いじゃないか」
「……そうっすね、何なんでしょうねー」
ケイティがわからないのは当然のことで、この世界にはオートバイなんてものは存在しない。
オレはもちろん知っているがトボけることにした。
これ以上彼女から余計な詮索をされたくないからだ。
そしてこれが出てきたということは……本当にあったのだ、勇者の遺産というやつが。
結構深く掘った箇所から見つかったし、年代的にも数百年前で辻褄が合いそうだ。
しかし勇者はどうやってこれをこの世界に持ち込んだのか。
スキルで出現させたのか、それとも自力で製造できるくらいの技術者が異世界召喚されたのだろうか。
それはともかく、このオートバイが不思議なのは燃料の給油口らしきものが見当たらないことだ。
動力は一体何だったのか?
そんなことをあれこれ考えていたオレを他所に、勘の鋭いケイティがオートバイのことを理解し始める。
「これって、人が跨って乗るものなんじゃないか? だってさ、形がなんとなく馬に似ていないか?」
「いやあ、オレにはサッパリわかんねえっす」
「ほら、前についてるこれが目で、その上にある後ろに流れているのがタテガミ、あと横に出っ張っているのが手綱とあぶみっぽいよね」
「まあ、言われたらそうかもしれないっすねー」
彼女が言及している箇所は、ヘッドライトとカウル、そしてハンドルと足のステップだ。
なかなか上手い見立て方するなーと思っていると、彼女はやおら立ちあがって周りに言いふらすかのように叫び始めた。
「やっぱりこれこそが、魔王を倒したという伝説の武器なんじゃないか? すごいぞ、とうとう発見したのだぁ!」
その声を聞いた周りの連中の視線が一斉にこちらへ向かうのを感じる。
そしてわらわらと集まってきたのはいいが……やはりロクでもない状況になった。
「おい、それは俺が先に発見したんだぞ!」
「横取りすんじゃねえよこの女!」
「さっさと俺たちによこしやがれ!」
奴ら同士で押し合いながら接近してきて罵詈雑言を浴びせかけ、せっかく掘り出したものを横取りしようとしてくる。
オレはケイティとオートバイを庇いつつ応戦するが多勢に無勢、どうにもならない。
このままじゃオートバイが……しかし集まった荒くれ者どもが一人また一人と文字通り引き剥がされていく。
ウチの現場監督、実態はケイティのボディガード役の男が上に投げ飛ばしているのだ。
何人かそうしたところで彼がポキポキと指を鳴らすと、荒くれ者どもは離れていった。
「助かったよ、ありがとうオッサン」
オレは礼を言ったのだが無視されて、ケイティと話し込み始めた。
別にいいけどさ。
そして他にも何か出ないかと作業は継続されつつ、オートバイを引き上げて保管することになった。
あー、疲れた。
大型なのでめっちゃ重かった。
で、保管するのは、なぜかオレが間借りしている空き家となった。
オレがスタンドを何気なく立ててバイクを立たせたのを見られてしまい、上手く扱えそうだとケイティの鶴の一声で決められてしまったのだ。
いざとなれば現場監督が駆けつけると言ってたけど、責任重大だなあ……ちょっと気が重い。
おかげで日課にしている散歩ができなかった。
村のすぐそこに溜め池が残っていて、一周するのが丁度いいんだけどな。
そこでバイクをくまなく眺めていたのだが、これが『魔王を倒した武器』だとはとても思えない。
武装は前方にマシンガンのような物がチョロっと装着されているだけで、あとはただのバイクとそう変わらない。
こんなもので魔王を倒せるとはとても思えないのだ。
現魔王の姉オルタシアの破壊的な強さを目の当たりにしたオレには。
勇者一行が使用したのは間違いないだろうけど、たぶん移動手段と雑魚敵の掃討に使ったのだろう。
あとは、それをケイティに上手く説明しないといけない。
◇
翌日は、山師たちの発掘作業が一段と加熱していた。
実際に『勇者の遺産』と思われる物が出てきたので、もっとすごいものが埋まっているに違いないと、連中は血眼になっているのだ。
オレは作業を免除されてバイクを動かせるようにしてほしいとケイティから依頼された。
そんなこと言われてもなあ、動力が何かもわからないのだ。
もし魔力なら、この場にいる全員が無理なので魔法使いに依頼するしかない。
それに数百年前のシロモノだし、そもそもまともに動くかどうか。
ただ、幸いにもギアは既にニュートラルになっていたので手押しで転がすことはできる。
しばらくは手押ししながら色々と試してみますか。
そうして時間が過ぎていき、もうすぐ昼休みになろうかとしていた頃だった。
上空の遥か向こうから、何やら音が聞こえてきた。
何かの飛行物体が飛んでくるような音が……。
そして5つの影が空に浮かんでどんどん近づいてくる。
このパターンって、もしや……。
そして村の上空付近で一旦停止すると、飛行物体の一つの上に乗った女がオレに向かって叫んだ。
「タツノスケ! 今日こそは、必ずお前を葬ってリュウジの仇を取るの!」
オレを仇とつけ狙う魔法使いの女、カーラだ。
よりによって、こんなに人が集まっているところで遭遇するなんて……!
そしてオレの悪い予感は当たってしまうのだった。
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