第22話 勇者の遺産
オレは数日間さまよったあと、とある村に滞在している。
正確には、もう誰も住まなくなった廃村で、発掘作業のバイトみたいなことをしているのだ。
何を発掘しているのかというと……『勇者が残した遺産』だ。
今オレがいるこの世界では、数百年前までは魔族の国が人間の世界へと侵攻して大いに苦しめられていた。
その時代に異世界から召喚された勇者とその一行が、その時の魔王を倒して平和が訪れたのだが。
魔王を倒したという伝説の武器が何処かに埋まっているという噂が絶えないのだ。
そしてそれがこの廃村にあるのではと、どこからか噂が立ったらしい……まあデマの可能性の方が高い気がするけど。
そういうわけで王国中から一儲けを企む山師たちがここに集まっているのだ。
ちなみに今も魔族の国は王国の隣に存在するが、すっかり経済重視の国へと生まれ変わって人間の国への領土的野心は消えている。
で、オレはとある山師に作業員として雇われたのだが……意外と悪くない。
廃村なので山師や作業員以外の一般人はおらず、空き家を拝借したり、好きなところにテントを張ったりして一人で気兼ねなく過ごせるのだ。
それにオレの雇い主はキチンと3食用意してくれる。
もちろん内容は質素だけど量は十分にあるので、空腹で困ったりすることはないのだ。
しかもバイト代も稼げて、オレにとっては至れり尽くせりだ。
どうせ何も出てこないだろうし、いずれみんないなくなったら、ここに残ろうかとも考えている。
近くに小川が流れる雑木林があるから一人でもなんとか生きていける条件は整っている。
遂に、独りダラダラ過ごせる安住の地が手に入るかもしれないのだ。
不満というかしんどいのは、作業が重労働なので毎朝起きるのが辛いところかな。
今日もなかなか起き上がれずにいたのだけど。
「やぁーおっはよー、タツノスケ君! さあ、早いところ朝ごはん食べて、今日も元気に作業に励もうじゃないか!」
この朝っぱらからやけにテンションが高い女性は、オレの雇い主である山師のケイティだ。
年齢は25歳前後ってところだろうか。
黙っていれば美人で明るいお姉さんという感じだが、仕事柄なのか言動にオッサン臭いところがある。
「ヘイヘイ……わかりましたよ」
「いかんなー、まだ若いんだからシャキッとしなよ!」
彼女は決まってオレの背中をバシッと叩くのだが、気合を注入しているつもりらしい。
朝からこれに付き合うのはちょっとしんどいが、メシを食ったら少しずつやる気が出てきた。
それじゃあやりますか。
オレは同じくケイティに雇われた作業員たちと作業を開始する。
といっても、現場監督の男が指示する通りにスコップやシャベルで手掘りしていくだけなんだけどね。
なお、ケイティはどこかの大商人の娘らしくて、現場監督というのは要するにお付きのボディガードで屈強な体格の大男だ。
今日も午前中はひたすら掘るだけで終わった。
ゆっくり昼でも……と思っていると、どこかで怒鳴り合う男たちの声が聞こえてくる。
山師も作業員も荒くれ者が多いので仕方がないんだけど、こちらに被害が及ばなければ別にいいのだが。
「よぉ〜兄ちゃん。俺たちにもよぉ、ちょいと昼メシ恵んでくんねえかなぁ、へへへ」
時々こういう輩が絡んでくるのが鬱陶しい。
ケイティのように3食まともに支給する山師のほうが少ない、というのも一因なのだが、それはオレには関係ないことだ。
そしてこういう輩には、間違っても可哀想とか思って分けてやってはいけない。
ちょっと、とか言いながら無理矢理取り上げて全部食っちまうし、いけると踏んだ相手には毎日タカりに来る。
つまりは最初が肝心。
「あぁ!? 向こうへ行け」
短く拒絶しつつ睨みつける。
オレも一応は王国内でいろいろ経験したからなのか、睨んだ目と顔つきは人を平気で殺しそうだと言われる。
……まあ、確かにスキルで多くの悪党を葬ってきたからあながち間違いではないが、そう言われて心が傷つかない訳では無い。
「ひえぇ〜、すんません!」
輩たちは怯んで逃げていったので、この目つきも役には立ってるけど。
「さぁ〜、午後からも発掘作業を頑張りましょう〜!」
まだ昼休みが終わってないのに、ケイティが高いテンションで作業員たちに呼びかける。
彼女は午前中は事務所代わりに使っている空き家で事務作業に勤しんでいるが、午後からは作業員に混じって作業をしているのだ。
作業に入る時の彼女は、午前中に夏休みの宿題を済ませて午後から遊びに行く子供のような嬉々とした表情をしている。
いや、ここ数年の日本の夏の暑さでは、この例えは通用しないな。
せいぜいオレが小学校低学年だった頃までか。
それはともかく、オレは内心では何も出るわけないと思っているので、ダラダラと作業をしていたいのだが。
ケイティがすぐ横で作業し始めたので、そうはいかなくなってしまった。
「ねえタツノスケ君。キミってさぁ、何者でどこから来たんだい?」
「えらく直球な質問ですね」
「だってさ、採用面接の時も何も言わなかったじゃない? 真面目そうな雰囲気だし人手不足だったからそのまま採用したけど」
「……こことは違う国というか世界というか。そこで学生やってました。あと、オレは別に真面目じゃないっすよ」
「ふ〜ん、そうなのか。それと、キミは十分に真面目だと思うよ、他の作業員と比べてダントツに」
それは、他の作業員たちが酷すぎるから相対的に真面目だとなるだけだよ。
さすがにみんながいる前でこんなことを言えないから黙っていたが、彼女からの質問は続く。
「ご家族はどうしてるの? 彼女さんはいないのか?」
「家族は……いないです。あと彼女なんていません。オレは一人でいるのが好きなんで」
「え〜、それじゃあ将来はどうするのさ。結婚もせず家族も持たずに孤独な人生を歩むつもりなのかい?」
「……」
「あ、ごめん。無理に答えなくていいよ、私が興味本位で聞いただけだから」
好奇心旺盛な人だとは思っていたが、オレなんぞに興味持たなくてもいいだろうに。
ケイティはコホンと1回咳払いしたあとに、これまでよりも真面目な口調で話しかけてきた。
「あのさ……ここの仕事が終わったら、私の会社の社員にならないか? 私、キミのことが気に入っているんだ」
「……考えておきます」
彼女はどう受け取ったか知らないが、オレ的には遠回しの断り文句だ。
大商人の娘が経営する会社なんて忙しそうだし、それこそ毎日多くの相手に気を使わなきゃならない、そんなのやってられるか。
だが彼女はオレの思惑に気づいてないのか、前向きに受け取ったという返事を返してきた。
「うん、ちゃんと考えておくれよ。キミの働きぶりが評価されたら、いずれはウチのクソオヤジにも紹介したいんだ」
彼女は父親とはあまり仲がよろしくないらしい。
でも頑張れば、いわば親会社の社員にもしてあげるよ、ってことか。
誘い文句としては悪くないが、オレはそもそもその気がないからなぁ。
そんなことを考えながら掘っていると、スコップから何やらガキッと硬いものに当たる音がした。
「ケイティさん、何かが当たりました」
「本当かい? それじゃあその辺りを慎重に掘り進めていこう」
オレは、どうせ村人がいたときに捨てたゴミかなんかだろうと思ったのだが……出てきた物は意外なシロモノだった。
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