第20話 荒野の真昼の決闘
オレは、逃げ出した窃盗団の首領格ダミアーニ兄弟を追って、荒野の中にある小高い断層のような場所にたどり着いた。
断層は古くから存在するらしく、あちこち侵食されて、ちょっとした天然の砦みたいな様相を呈している。
そしていくつかある小さな洞窟っぽい箇所をそっと覗いていくが……ダミアーニ兄弟はもちろん、人質のエミリオ保安官の姿も見当たらない。
それはともかく、牧場で立てた勝利フラグは一旦リセットされてしまっている。
今度はどういうフラグを立てようか、そんなことを考えていたのだけど。
フッと空を切るような微かな音と気配を感じて、オレは反射的に身を屈めた。
その上をヒュン! と矢のような物が高速で通り過ぎていった。
「フヒヒヒ! 今のはよく避けたなあ! でもよ、人質はもっと奥にいるんだぜ〜!?」
ダミアーニ兄弟の弟ウーゴが、洞窟の上の丁度身を隠せる岩陰からクロスボウで狙い撃ってきたのだ。
そして挑発し終わるとサッと奥に引っ込んでしまった。
もちろん自分たちが有利な場所へ誘い込んでるのだろう。
でも行くしかない。
オレは崖のような斜面を急いで登り、入り組んだ狭い隙間を進んでいく。
やがてちょっと開けたところに出ることができた。
周囲を岩や小さな崖が囲んでいるけど、ウーゴはどこに隠れてるんだ?
警戒しながらキョロキョロ見て歩いていると、左斜め上からウーゴのバカでかい声が聞こえてきた。
「ギャーハハハ、引っ掛かったな! お前は逃げ場も遮るものも無い場所、俺はお前がよく見えて上から、しかも追い風で狙い撃ちだぁ!」
ウーゴは岩陰から顔と右上半身、そしてクロスボウを覗かせてオレに狙いをつけている。
誘い込んで勝ち誇ったヤツの顔……だけど勝負がつく前にそういう態度を見せるのは、負けフラグの始まりでもあるんだよ!
「今度こそ死ねや〜!」
ウーゴがトリガーを引くと同時にフラグを立てたオレの身体は、自動的に左腕が反応した。
高速で接近する矢を左手で掴むと、クルッと時計回りに1回転する。
そのままの勢いで矢を投げ返したのだが、矢の先端が右斜めに傾いたままになってる。
「うわははは、投げ返したって岩陰の俺には当たらねえよ……な、なんじゃこりゃあ!」
矢は向かい風の空気抵抗のせいか、ウーゴのすぐ手前で急激に軌道が曲がり、ドスッ! とヤツの左胸に刺さったのだ。
「そ、そんな……イザというときは助けてくれるって言ってたじゃねえかよ、兄者……!」
ウーゴは恨み節のようなことを呟きながら、ドサッと崩れるように倒れた。
そういえば兄のアンジェロはどこに行った?
そう思った瞬間にオレは首の中を何かが通り抜けるような感覚を覚えた。
そして右横から、恐らく岩陰に隠れていたアンジェロの声が聞こえてきた。
「クックック……すまんなウーゴ。まずはコイツを確実に仕留め、俺が生き残ることが最優先だったのだ」
どうやらウォーターカッターで首を切断されたオレの頭部は、徐々に胴体からズレていって最後は地面に落ちたのだった。
「……アンジェロ、これで聖職者とその仲間を全て仕留めたのか?」
「いやそれが、町長と街の奴らが歯向かいやがって、聖職者の女はまだでして。でも子分どもが纏めて倒したんじゃないかと」
「……仕事は最後の確認までキチンとやり通せ。誰のお陰で街で好き勝手やれていると思っているのだ?」
「(チッ、うっせーな……)わかりやしたよ、後で確かめてきますから」
「黒幕登場ってわけか。こいつは驚いたぜ」
「なっ! なんでお前が生きてるんだ!」
いつもながら生存フラグ発動後の悪党の驚き顔は笑える。
「主人公を不意打ちした直後に黒幕登場、生存フラグを立ててくれって言ってるようなもんだぜ」
「テメェ! 今度は心臓をうちぬいてやらあ!」
アンジェロが焦って言い放ったセリフ、負けフラグでいただきました。
アンジェロは右人差し指から水鉄砲の如くウォーターカッターを撃ってきた。
だがオレも右人差し指からどどんっ! と圧縮した闘気を放ち、互いの中間でぶつかり合う。
続けてお互いに左人差し指からも撃ち合い、またもや打ち消しあった。
「クソが、もう一度指先に魔力を集中しないと……グアァーッ!」
オレはアンジェロの横に回り込んで右中指から闘気を撃ち、ヤツの両肩を貫いて破壊した。
両腕を動かせなくなったアンジェロに近づき、ヤツの胸ぐらを掴んで尋問する。
「黒幕は誰だ? 隠してもお前にメリットは無いだろうからさっさと吐け」
「ハア、ハア、それは……うぎゃあ!」
アンジェロが言いかけたところで殺気を感じたオレは咄嗟に身体を引いたが、アンジェロの頭は撃ち抜かれてしまった。
「……ペラペラと喋るヤツは、もう使えんからな」
黒幕の声……コイツ、あっさりと手下を切り捨てやがった。
だけど聞いたことがある……まさか!
「声で気づいたようだな。お前もここで始末せなばなるまい」
保安官のエミリオ!
あの冴えないオッサンが、今は冷酷な目付きでオレを見下ろしている。
そしてエミリオの両手全ての指には金属製の筒が装着されているのが見える。
「おいオッサン、なんでこんなことを!」
「……もうウンザリなのだよ。街のために孤立無援で戦う保安官、というのは」
「何だよそれ」
「これまで赴任した街の多くで、悪党どもと戦う保安官に住民たちは非協力的、いやそれどころか孤立させるような裏切りさえ行った」
「……」
「それでも私は住民たちのために必死で戦った。だがその結果は、大切な一人息子を失い、妻は去っていくという有様だった」
「だから悪党に加担したと」
「ああそうだ。この街に赴任して間もなくから、家畜を盗みやすい場所や時間をアンジェロたちに教え、邪魔になる他の保安官を殺すか追い出して、奴らから多額のアガリを見返りに受け取った」
「そんなことをして虚しくないのか?」
「どちらにしても虚しいならカネがある方がいい。それで息子の墓参りをする旅費と供える花の代金が賄えるしな」
「自首する気はないのか」
「お喋りはこれでおしまいだ。ところで私の指にはめている筒は、魔力で空気を収束して撃ち出すための魔道具だ。1発撃つと内部が焼けて使えなくなるので、残りは9発というわけだ」
「……」
「そしてお前の指は、見たところ撃つごとに痺れて動かなくなるようだ。つまりあと7発しかない」
見抜かれていたか。
弾切れとなる前にエミリオを仕留めないといけないのだが、簡単に倒せそうにない。
そしてヤツは続けて、挑発とも思えることを言ってきた。
「せめてもの情けだ、お前の方から先に抜くがいい」
「……いや、お先にどうぞ」
こういうのは、後から抜いて撃つ方が勝つと相場が決まってるんだよ。
勝利フラグを立てるには、先に撃ってはいけない。
「それでは遠慮なく」
「!!」
エミリオは全く躊躇せずとんでもない早撃ちで空気弾を飛ばしてくる。
オレの身体は自動的に反応して互角以上の早撃ちで迎え撃った。
そしてパーン! と続けざまに7回、お互いの攻撃がぶつかり合う音が荒野に響き渡る。
オレとエミリオは、結局7発では勝負がつかなかった。
エミリオは余裕綽々でオレに最後通告する。
「さあ、言い残すことがあれば聞いてやろう」
「どうせなら一発で仕留めてくれよ。眉間を撃ち抜いてくれ」
「わかった。ではサラバだ」
エミリオは残り2発の1発目を撃つ……だがオレが立てた勝利フラグはまだ有効なんだよ!
まだビームが撃てる箇所がある、それは目だ。
後出しでオレは右目からビームを撃ち、エミリオの空気弾と打ち消し合う。
「どういうわけだ今のは、なぜまだ撃てる!」
予想外の攻撃に動揺したエミリオ。
そして次こそは最後の撃ち合いだ。
エミリオの指とオレの左目から同時に最後の弾が撃たれた。
オレは両眼が見えなくなったが、右肩に強い衝撃を覚えた。
それから間もなく、前方でドサッと何かが落ちる音がしたあとは、エミリオの声を聞くことはなかった。
オレはしばらくその場で倒れ込んでいたが、後から駆けつけてきた町長たちによって、街まで運ばれたのだった。
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