第19話 形勢逆転

 オレとグリゼルダに向かって、取り囲んだ窃盗団の奴らがクロスボウにセットした矢を向けている。


 オレは左足を酷く負傷して動けないし、グリゼルダはさっき矢で貫かれた左腕から出血が止まらず意識がぼんやりとしてきている。


 状況を打開したいのだが、今のところオレたちの勝利フラグが立ちそうな要素が見当たらない。


 とにかくグリゼルダに矢が当たらないように、左足を引きずって彼女に覆いかぶさった。


「タツノスケ、そんなことをすれば貴方が危ないです!」


「オレは大丈夫だ、黙っておとなしくしてろ」


 オレはもしかしたら後で生存フラグが立つかもしれないが、グリゼルダはそうはいかないのだから、これは当然の行動だ。


「撃て!」


 窃盗団の首領格ダミアーニ兄弟の片方が号令をかけると、四方から一斉に矢が放たれた。


「……タツノスケを、殺させません!」


 グリゼルダが力を振り絞って結界防御魔法を展開し、矢は全て弾いた。


 しかし結界は不安定な感じでいつまで持つか。


 それを見透かしてか、奴らは憎たらしく煽ってくる。


「まだまだ矢は一杯残ってるぜ。いつまで耐えられるかな〜?」


 くそっ、余裕見せやがって。


 それでもあと2回、一斉射撃を防ぐことができた。


 しかしグリゼルダは既に限界に近い。


「そろそろ、俺の出番かな〜、兄者よ」


「そうだな……そろそろ飽きてきたし、終わらせてしまえ、ウーゴ」


 ダミアーニ兄弟が、お互いの顔をチラ見しながらよからぬやり取りをしている。


 そして弟のウーゴが、背中に担いでいるモノを手に取った。


 それは子分どものモノとは明らかに違う、まるでライフルのような大型のクロスボウだ。


 いかにも強くて引きにくそうな弦を、ウーゴは容易く引き寄せて、専用の太い矢をセットした。


「お前らはこれで終わりだ。これを至近距離で撃ったらどうなるか、わかるよな〜?」


「そんなの、わたしの結界には効きません!」


「そんな強がりをいつまで言ってられるかな〜? そらあ!」


 ウーゴがトリガーを引くと、子分どもの放った矢とは比較にならないスピードで結界にぶつかった。


 パーン! と弾けるような大きな音がして、矢を弾くことはできた。


 だけど同時に結界も、ガラスが割れるように崩れ落ちていった。


「一発だけとはいっても、防がれたのは正直驚いた。だが、もう防いでくれるものはないぜ〜!?」


 オレは生存フラグを事前予約して、死んでもすぐに復活できることを祈った。


 グリゼルダが生きてさえいれば必ず助けられるはず……。


 そしてウーゴと子分たちがクロスボウを構えている中で、オレは彼女の背中を覆う腕に力が入る。


「撃……なんだ、あいつらは?」


 射撃の号令をかけようとしたダミアーニ兄の動きが突然止まった。


 奴の視線の方向を見ると、街の方から10人くらいの男たちが2頭の馬と、それらが引く荷車に乗って近づいてくる。


「グリゼルダ様〜、タツノスケ殿〜、ご無事ですか〜?」


 先頭に立って声をかけてきたのは町長!


 荷車には、この前グリゼルダとの飲み比べ勝負で負けた5人と、有志と思われる街の住民たちが乗っている。


 どうやらオレたちへの加勢に来てくれたようだ。


 この状況で住民たち立ち上がり援護してくれる……これ以上ない勝利フラグが立ったのだ。


「くそっ、あいつら俺たちに歯向かいやがって……慌てるな、まずは馬を撃って足を止めろ。ウーゴ、お前はこいつら2人をさっさと始末しろ、それで見せしめにするんだ」


「OK、兄者!」


 ウーゴが再びオレたちに照準を向けたが、もう遅い。


 オレはこの場の勝利フラグを確定させたんだよ!


「おらあ! 地獄へ落ちな!」


 ウーゴが叫びながら撃った矢を、オレは2本の指でバシッと受け止め、そのまま返してやった。


「うわあ、兄者!」


「ええいクソがぁ!」


 返した太い矢がウーゴの顔面に当たる寸前にスパッと切断され、顔を掠めただけに終わった。


 何だ今のは?

 ウォータージェットみたいなのが兄の指先から放たれた。


「今度は俺のウォーターカッターでお前らを……くっ!」


 オレたちに指先を向けた兄の動きが止まった。


 ふと横を見ると、グリゼルダが鏡みたいな魔法反射を出していた。


 さっきのは水系魔法ってわけか。


「おいお前ら何やってる! さっさと奴らを矢で殺せ!」


 あっけに取られていた子分どもをダミアーニ兄が怒鳴りつけると、ようやく撃ってきたが。


 引き続き自動で動くオレの身体と指先は、全ての矢をそのまま返してやった。


「うぎゃー!」


 子分どもの断末魔が響き渡る。


 あとはダミアーニ兄弟を……子分どもを囮にして逃げ出しやがった。


 追いかけよう……いや、先にグリゼルダの様子を確認だ。


「左腕の出血は大丈夫なのか?」


「はい、さっき矢を引き抜いて回復魔法で止血しましたから、とりあえずは」


「あんま無茶すんなよ。それじゃあ町長たちを援護してサクッと一段落つけよう!」


 オレたちは罠が仕掛けられていない箇所から柵を回り込んで、子分どもと交戦中の町長たちに加勢する。


「グハァッ!」


「よし、この場にいる子分は全員仕留めたな……ありがとう町長、そしてみんな」


「お二人が行ったあと、みんなで話し合ったのです。街の外から来た人たちに任せっぱなしで恥ずかしくないのかと」


「そのお気持ちだけでも十分なのに駆けつけていただけるなんて、ありがとう、ございま……す」


 グリゼルダは感謝の言葉を言い終わると、気を失ってガクッと倒れてしまいそうになった。


 オレは彼女を受け止めて、町長に託した。


「彼女のことと、子分どもの捕縛はよろしくお願いします。オレはダミアーニ兄弟を追って保安官を救い出します」


「わかりました。でもお気をつけて。先ほどご覧になったように、兄のアンジェロの『ウォーターカッター』は特に危険ですから」


「わかった、ありがとう」


 オレはグリゼルダの回復魔法で少しは回復した左足をちょっと引きずりながら、奴らが逃げていった方向へ走り出した。

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