第13話 ゴーレム使い

 オレは、成り行きでしばらく一緒に旅をしている聖職者のグリゼルダと、何もない荒野を歩いている。


 このあたりは休めるような木陰や洞窟が無い。


「ふえぇ〜、さすがに疲れました〜。一休みしましょうよ〜」


 グリゼルダから休憩を要求された。


 確かに何時間も歩き詰めなので当然だとは思うのだが。


 こんなところでグズグズしていると王国の奴らに見つかりかねないし、早いところ通り抜けたいんだけどなあ。


 とにかくどこかの岩の陰にもたれ掛かって足だけでも休めることにしよう。


「あそこの岩まで行ってから一休みしようぜ」


「タツノスケ、おんぶしてください〜。あ、お姫様抱っこでも構いませんよ〜?」


 グリゼルダがいきなり甘えたことを言い出したが、誰がそんなことをするかっての!


「何でオレが。いいから立て! 歩いて行くぞ」


「ふえぇ〜、そんなこと言ったって〜!」


 ああもう、世話焼かせやがって。


 出会った当時のグリゼルダは自信無さげでオドオドして世話焼かされっぱなしだった。


 だけど先日の魔法使いの女を撃退した件で自信をつけたのか、少しずつ堂々とした態度で話すようになり、マシになったと思ったのにな。


「あ〜もう疲れた。ほら、ここに腰を下ろしたらいいぞ」


「……ありがとう」


 彼女を引き摺るようにしてようやく岩の陰まで連れていき、休憩に入った。



 そうしてひと息つこうとした時だった。


 遠くから何かが飛んでくるような音が聞こえてきて、それがドンドン近づいてくる。


 そしていよいよオレたちが見えそうな上空まで接近した時だった。


「あそこに奴らが居たの!」


 聞き覚えのある声と口調……リュウジと一緒にいた魔法使いの女!


 本当に執拗だなあ。

 まあ、オレを仇と狙うわけだから、その立場に立てばこれが当たり前なのかもしれんが。


 そして今回は、魔法ではなくて何かの上に乗って飛んできたらしい。


 一見すると横長の直方体の岩の塊だが、正面中央に穴が開いていて、中に誰か人が乗っているように見える。


 その後ろに多数の岩の塊が同じように飛んできているのだ。


「これでも喰らって死ぬの、タツノスケ!」


 魔法使いの女が強烈な魔法を放ってきた。


 ヤバい、避けないと!


「させません!」


 グリゼルダが素早く反応して杖を振ると、目の前に結界防御魔法が展開されて魔法をバシッと防いでくれた。


「すまない、助かったよ」


「うふふ。わたし、タツノスケの役に立ってますよね〜?」


 グリゼルダは左手を顔に当てて照れているが、そんな場合じゃないだろう。


 そんなことをしている間に、すぐ傍まで接近した魔法使いの女が岩の塊から飛び降りて迫ってきた。


「……邪魔をするなら、お前の方から先に始末してやるの!」


「そっちこそ、わたしとタツノスケの旅は邪魔させません!」


 魔法使いの女が魔力を込めたステッキを振り下ろしてきたが、グリゼルダが杖でそれをガシッと受け止め、バチバチッと魔力が飛び散った。


「うわぁっ!」


 オレは弾き出されて地面を転がっていく。


 そしてようやく止まったところで、近づいてきた岩の塊から声が聞こえてきた。



「……君がタツノスケかい? 僕はミノル。君と同じく王国に異世界召喚されてスキルを授かった者だよ」


「そうかい、自己紹介ありがとうよ。それで、この前ゴーレムでオレを叩き潰したのはお前なんだろう?」


「その通りさ。僕のスキルは『ゴーレム使い』だからね。それはそうと、どうやって遠隔自動操縦のゴーレムの攻撃から生き延びたんだい?」


「生き延びたっていうか、何故か生存フラグが立って生き返った。たぶんそうだと思う」


「何だよそれ。運命とか因果律を覆すようなこと、自動のゴーレムには関係ないはずだろ」


「……お前は何か勘違いしているようだが、オレのスキルに必要なのは、その場のシチュエーションとか会話で何かが起きるフラグが立つかどうかだぞ」


 なるほどな。


 この前なぜ生存フラグが立ったのか不明だったけど。


 オレのスキルを誤解したまま、死んだに違いないとそのままにしてしまったんだろう。



「そんな、僕が勘違いなんて。お陰で大恥をかいたんだぞ」


「それはオレの知ったことではない。で、なぜお前がオレを狙うんだ? あの魔法使いの女の復讐に加担しているのか?」


「そうだとも。カーラ……君が言う魔法使いの女が、パートナーを君に殺されて悲嘆に暮れているのを見ていられなくてね」


「殺したって……最初にオレを殺そうとしたのはあいつらの方だぞ。オレは自分の身を守っただけだ」


「そんなことは関係ない。そもそも君は王国から指名手配されているんだ。君がおとなしく降伏して捕まるか処刑されていれば済んだ話だ」


「オレは何も悪いことなんかしちゃいねーよ!」


「悪い奴ほどそういうこと言うんだよね。これ以上君と話をするのは時間の無駄のようだ」


 この野郎、人の話を聞くつもり無しかよ。


 仕方がない、何かフラグを立てられるように準備し始めないと。


 すぐにでも攻撃してくるかと思ったが、ミノルは手に持ったタブレットのような機器を指で何やら操作している。


 そしてヤツが乗った岩の塊は上昇していった。


 それからすぐに、オレを取り囲むように次々とゴーレムが地面から発生してきた。


 しまった、この荒野はミノルにとってはホームグラウンドに等しい。


 どうやってこのピンチを切り抜けようかな……。

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